4/5
記憶
「あなたの名前は?」
ユナは俺の名前を聞いてきた。
「俺の名前は……」
言葉が詰まる。
思い出せなかった。
名前だけではない。
産まれた場所も、どこで何をしていたのかも分からなかった。
「俺の名前ってなんだ……」
戸惑う俺を見たユナは心配そうな顔をする。
「もしかして、記憶喪失?」
そうに違いない。現に何も分からないのだから。
俺は記憶を振り絞った。
「だめだ。何も思い出せない……」
机に置いてある鏡に手を伸ばしたユナは、それを俺に渡してくれた。
鏡を覗き込むと、そこには知らない人間が俺を見返していた。
「これが……俺か?」
目元まである黒髪。茶色をした瞳。
男らしい風貌で、身長は百八十センチに満たないくらいだろう。
一見すると、ごく普通の大学生だ。
「自分の顔も忘れてしまったのね」
驚いている俺を見て、ユナはそう言った。
何も覚えていない。
俺からしたら、鏡の中の人間は、初対面の他人と全く同じだ。
「何か覚えていることはないの?」
俺はもう一度、記憶を振り絞る。
(俺は何をしていた。どうしてここにいるんだ……)