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虚色の葬送曲  作者: 井伏山椒
第一章 悲劇
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化け物②

景は建物から出ると、高台にある公園へと向かった。いつも仲間と集まっている場所で、周りには森があり多少騒いでも問題は無い。


夜風に当たりながら景は上を向き、大きく欠伸をした。


3.31事件から約3年が経ち、東京を含めた関東全体の治安は悪化した。不満を持った若者達が集まりグループを作るようになり、関東各地で社会的勢力として、立ち上がった。その各勢力を統合し、今の『東京総会』がある。『東京総会』は自分達の身近にある反社会的組織を次々と潰し、今や関東圏最大の勢力に成りつつある。


京極先輩達とは大学生からの仲間で、俺は退屈しのぎとして彼について行った。『東京総会』ができた頃は、ヤクザとの戦いや本物の死闘が多く最高に楽しかった。


だが今は?ただのカツアゲグループだ。金はある。仲間もいる。だが、こんなことのために三下芝居をやっている訳じゃ無い。


今回のサラリーマンは不運だとは思うがあえて殺してみた。警察が動き、騒動になると期待したもが、先輩の親父さんに上手いこと握り潰したそうだ。


退屈。それが俺の一番の悩みだ。いっそのこと、先輩を裏切って潰しあってみようか?いや、それだと流石にすぐに死ぬ。


そんな事を考えている内に公園に着いた。噴水の近くて今日も仲間が騒いでいる。近づくにつれ、見たことのない人物か混ざっている事に気づく。


「誰だ・・・?」


いつもの四人のうち代吉と勝田がいない。宮北と仙台、そして知らない男が仲良く酒を飲んで騒いでる。二人の様子からすると完全に出来上がっている。


近づいていくと男の方から声を掛けてきた。男は夏場にも関わらずミリタリーコートを身に纏っている。


「君が景君だね。話しは4人から聞いているよ。はい、これお酒。飲んで飲んで〜」


「どうも・・・」


酒とツマミを受け取る。宮北と仙台は完全に酔っ払って噴水の中ではしゃいでいる。


「僕の名前は花落錆人。君達のチームに頼み事があって京極さんの紹介で来たんだ。」


「そっ、そっすか・・・」


やばい。上手いこと口が回らない。冷や汗が背中をながれ、息を吸うのが苦しい。宮北と仙台は何故こんなにも気楽にして居られる?


本能が警告している。ヤバい。この男は依頼しに来たんじゃ無い。恐らく俺達を殺しに来てる。


2年前、俺達の事を疎ましく思ったであろう誰かが、本物の殺し屋を雇い俺達を消しかけに来たことがあった。殺されはしなかったものの、京極先輩は重傷を負った。今思い出しただけでも手が無意識に震えて来る。


この男はあの殺し屋か、それ以上の匂いがする。なんとかしてこの場から離れる口実を作らないと、確実に殺される。


俺の勘は大体当たる。特に最悪の状況での勘が。


「あー、依頼の日程とかって分るっすか?俺実はこの後野暮用で、、、」


「そりゃ残念だ。せっかく君の分の酒を、たらふく持って来たのに、、、あぁそうだね、来月の下旬位でどうかな?大丈夫そう?」


震える手でポケットからスマホを出し、予定を確認するフリをする。


1秒がまるで1000秒のように感じられる。


「大丈夫っすね。内容はあの2人か、もう2人に伝えといたらいいんで。俺は上がらせてもらいやす。」


そう言うと公園から早足で立ち去る。宮北と仙台は


「景ちゃん〜も〜帰るの〜?つれないな〜」


と引き留めようとするが俺の今の耳には入ってこない。


公園を出て男が見えなくなると坂道を走り抜けた。


走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って、、、


丘を降り切った時、頭も身体も冷えた頃、ようやく安堵感を覚え、トンネルの中で膝から崩れ落ちた。


どれくらいの時間か経っただろうか?息が整いようやく立てるようになった頃、代吉のケータイから電話がかかって来た。


だが大体予想はしていた。かけて来るのは代吉でない事くらい。


電話に出る。


「花落錆人、あんたで合ってるか?」


電話の向こう側からは驚いた様な、期待していたかの様なそんな声が聞こえてきた。


『正〜解〜。よく分かったね僕だって。やっぱり君は期待通りだったよ浜田景君。』


「あんた一体何が目的だ?俺の仲間はどうした?誰の差し金だ?何故俺たちを狙う?」


聞かずにはいられなかった。心の中で数多くの疑問と推測が入り乱れている。


『質問が多いな〜。まぁいいや、僕は優しいから一つ一つ質問に答えてあげよう。』


少なくとも優しい奴はあんなオーラは出ないし、代吉のケータイから電話をかけて来る事はない。


『まずは一つ目、僕の目的だね。それは簡単な話さ。『東京総会』の壊滅。幹部全員の死亡かな〜。』


全身に鳥肌がたつ。声のトーンからして花落はマジだ。本気で『東京総会』を潰す気だ。


『二つ目君の仲間だね〜、うん殺した。僕にとって『東京総会』のメンバーは基本的に殺害対象だから。三つ目誰の差し金だ?だっけ?簡単だよ。誰でもない僕自身だ。四つ目は何故?か。その答えは追々分かる。』


ケータイの向こう側からは嬉々とした、余裕のあるトーンで話す花落の声が聞こえる。それが余計俺を精神的に追い詰める。


「何故いまさら俺に電話した?俺を殺すなら電話する必要はないだろ。」


花落はどうして俺に電話した?殺そうと思えばあの場所で俺を始末出来たはずだ。何故俺だけを逃した?


考えられる事は二つだ。


一つは俺から情報を引き出す事。だがあの四人から大まかな情報は引き出しているに違いないし、代吉のケータイから電話をかけている事からこの線は薄い。


もう一方は俺を利用する事。恐らくこの線が一番高い。部下四人殺された挙げ句、仇を打つでもなく逃げて来た俺は、京極先輩に頼る事は出来ない。奴にとって俺は孤立している良いカモって事だ。恐らくこっちだろう。


『君なら分かってるでしょう〜、君を利用する為に僕がわざわざ電話をかけたことくらい。』


案の定後者だ。だが利用される気なんてものはさらさら無いし、利用されるくらいならとことんまで事態をややこしくさせる。


「俺が、はいそうですか分かりました。と言って利用されると思っているのか?どっち道殺られんだったらあんたのやられたく無い事をとことんやって死ぬわ。」


『何か早とちりしているみたいだか、僕は君に協力して欲しいんだ。言うなれば共闘的な感じかな。まぁ君の事だから嫌だって言うと思うけど、最後にはきっと僕に協力するよ。」


「協力?共闘?マジで言ってんのか?あんたがどんな事知ってるかは知らんが、『東京総会』を裏切る様な真似はしねぇぞ。」


『それは残念だ牙狼景君。長野の妹さんがどんな目に遭うことやら、、、嗚呼それはそれは、、、』


「オメエ、それをどこで知った?」


全身に電気が流れる様な衝撃が走り、怒りのあまりケータイの画面にヒビがはいる。


数秒の沈黙がその場を支配する。


『さて景君。協力する気になったい?』


数十秒の時間が経ち、決意する。


「ああ、良いだろう。協力してやるよ。毒を食らわば皿までってな。お前の望み通り『東京総会』壊滅の協力者になってやる。」


『良いね景君。そしたらまた後日連絡するよ。今日は一旦家に帰って荷物をまとめてね〜。明日の朝、僕の家に招待しよう。』


電話が切れると同時に俺はそのまま倒れ込んだ。まだ迷いはある。だが、俺の妹の事まで調べることが可能な奴なら、『東京総会』の壊滅も可能なのかもしれない。


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