理解と、決意
ぱっと目を覚ますと、真っ白な天井で視界がいっぱいだった。どうやら私は横たわっているようだ。
「ああ、起きたのか。…何故、泣いている?」
真っ白だった視界に殿下の黒と紅が飛び込んできた。
殿下の言葉で、私は自分が泣いていることにはじめて気づいた。
しかし、今はそんなことはどうでも良かった。
───前世、乙女ゲーム、交通事故、『ライラックの絆』。
そんな言葉が脳裏に浮かんでは消えていく。
混乱した頭の中ではっきりとしていたことは一つだけ。
私が、将来婚約破棄される悪役令嬢だということだけだった。
不思議と、そのことだけが明瞭に思い浮かんでいた。
(…絶対に嫌。婚約破棄なんて冗談じゃないわ)
私はたくさんのことを思い出していた。しかし、断片的な記憶ばかりではっきりとせず、頭に霧がかかったようだった。
それでも、嫌だと感じた心のままに、私は口を開いた。
「殿下、私と婚約解消していただけませんか!?」
「…は?」
言葉を発するとともに、徐々に霧が晴れていく。
(…やっとわかった気がする)
───これは二度目の人生なのだ。レナとしての私は、もういない。
今の私は、乙女ゲーム『ライラックの絆』の悪役令嬢、ヴィオレット・イキシアだ。
先ほど嫌だ、と思ったのはアレス殿下が推しキャラだったからだろうか。推しに断罪されるくらいなら、婚約解消の方がよほど良いだろう。
自分のためにも、殿下のためにも。これから現れるヒロインのためにも。
絶対、今婚約解消をしておくべきだ。
私は身を引いて、遠くから殿下とヒロインの恋を見守る。
推しの恋愛を間近で見られるのだ。こんな幸せがあっていいものか。
(…よし!ヒロインとの恋、絶対に見届けて見せるわ!)
私はそう密かに決意した。
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