記憶
いきなり“断罪”、“婚約破棄”と言い出した原因は、ほんの数時間前にあった。
「きゃあああ!!」
ガタン、と音がして、身体に衝撃が走った。それと同時に、令嬢たちから悲鳴が上がる。
それが全て、何処か遠くに感じて。
(…ああ。私、倒れているのね)
そう思いながらも、頭が痛くてどうすることもできなかった。
「───!!」
そして、先ほどまでの比ではないくらいの痛みが私を襲う。
そのまま私は、意識を手放した。
◇◆◇
『ねぇねぇ、レナ!アレス皇子が攻略できないんだけど!?ヴィオレットの妨害がすごくて…』
『確かにあれは大変だったな…』
『…もしかしてレナ、もうクリアした?』
『もちろん!徹夜して頑張ったんだ』
『さすがレナ!私はまだまだだな〜』
(あれは…、誰…?)
部屋───講堂に似ているが、少し違った場所で、二人の少女が向かい合って話をしていた。
周りには彼女たちと同じ年頃の少年少女もいたのに、二人の声しか聞こえなかった。しかも、先ほどレナ、と呼ばれた少女の顔以外、はっきりとしない。
(どうしてかしら。懐かしい気がするわ…)
知らないはず、だった。なのに何故か、ほっとするのと同時に、涙が溢れそうになっている自分がいた。
ふと、彼女たちに触れようと手を伸ばす。しかし、その手は何にも触れず、空を切るばかりだった。
「え…?」
私の手が触れる瞬間、見えていた景色は跡形もなく消え、別の情景が目に映った。
そこでは、先ほどのレナという少女が歩いていた。
彼女の目の前の灰色の道路には、馬のいない馬車のようなものが走っていて。それが一人の幼い少年に迫っている。
それを目にした彼女は走り出して───
◇◆◇
(あの子は…、“レナ”は…)
───彼女は、私だ。
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