婚約解消していただけませんか!?
「殿下、私と婚約解消していただけませんか!?」
「…は?」
少し拍子抜けした表情も素敵だなぁ…じゃなくて。今はそんなことを言っている場合ではない。
私はアレス・アスタジア殿下との婚約を早く解消しなければならないのだ。
「いきなりどうしたんだ。…熱でもあるんじゃないのか」
若干馬鹿にした口ぶりだったが、普通の反応だろう。昨日までずっとべったりくっついていたのに、いきなり婚約解消なんて言い出すのだから。
(本当は、このまま婚約者でいたいのだけれど)
そんな私の願いは叶わないことを知っている。だからこその婚約解消なのだ。
「えっと…、殿下と私は幼い頃から婚約していますから。その、一度考える時間があった方がいいと思いまして…」
なんて苦し紛れの言い訳。嘘だというのが丸わかりだろう。とっさに言葉が浮かんでこない自分が恨めしい。
「ヴィオレット。何を考えている?」
「あ、えっと…」
言える訳がない。
口に出してしまえば、頭がおかしいと思われるに決まっている。殿下の紅い瞳に心の内を見透かされそうで、目を背ける。
長い沈黙を居心地悪く感じ始めた頃、殿下が口を開いた。
「…はぁ。わかった。一応、父上にお伝えしてみる」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
心底面倒そうに溜息を吐かれた気もしたが、気にしないでおくことにした。
(…良かった。これで断罪されずに済むわ!)
そんな思いで頭がいっぱいだったのだ。
私、ヴィオレット・イキシアは、これから約一年後、殿下に婚約破棄される悪役令嬢だ。
私はそれを知っていた。いや、思い出した。
───私は絶対、“推し”に断罪されたくないのだ。
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