28. これからの話
昼食会が終わりに近づき、テーブルの上には紅茶が出された。
レオさまは少し、ホッとしたような顔をしている。
よかったですね、さっぱりしたものを飲みたかったんですね。
「さて、これからの話だが」
国王陛下はそう切り出した。
私たちコルテス家の面々は、背筋を伸ばして陛下のほうに顔を向ける。
当然、これからの王家との繋がりについての話もされるに違いないからだ。
陛下はテーブルの上に両肘を置き、ゆったりと手を組むと、そこに顎を乗せるようにして、少し身体を乗り出して口を開いた。
「昨夜、つつがなくレオカディオとプリシラの婚約発表も終わった」
つつがなかったかなあ。
「これから、そなたらは王家の外戚として名を連ねることとなる。ゆえに、それなりの働きも期待されよう」
「ははっ」
お父さまはかしこまって頭を垂れ、私たちも続いて礼をする。
「コルテス領では、質の良い蒼玉が発掘された。それを迷わず王城に報告した子爵の判断を、余は評価している」
「ありがたきお言葉にございます」
お父さまはますますかしこまる。
「それに応えるため、王城からは最大限の支援をしよう」
そう言いながら組んでいた手を解くと、陛下はレオさまのほうに視線を移す。
「近々、第三王子であるレオカディオを、コルテス領に向かわせる」
「はっ」
「婚姻後については、追々の判断にはなるだろうが、レオカディオを臣籍降下させ、夫人となるプリシラと、子爵とともに領地経営に携わらせるつもりだ」
夫人。
なんだか、変なの。事ここに至っても、まだ実感が湧かないし想像もつかないや。
ちらりと横を見てみるけれど、レオさまはただまっすぐに陛下を見つめて、そのお言葉に耳を傾けている様子だ。
「そこで、コルテス領に王家の離宮を建てようと思う」
そんな簡単に。
陛下はたぶん、指をさしたらそこに建物が建つ人なんだろうなあ。
王家の力、すごい。
「とはいえ、今も蒼玉の採掘は進んでいるし、なるべく早くレオカディオを向かわせたい。離宮が完成するまでは、そちらの屋敷でレオカディオの面倒を見てもらえるか」
「かしこまりました」
そう言ってお父さまは国王陛下に深く頭を下げた。
レオさまも続けてお父さまに向かって言う。
「しばらく厄介になる」
「お任せください」
お父さまはそう言うけれど、大丈夫かなあ、と私はハラハラしていた。
だって自分一人で寝衣に着替えられるのかも謎のままだし、扉は人が開けるものだと思っているし、うちの屋敷の使用人たち皆、怖気づかないかな。
けれど。
レオさまがコルテスの屋敷で生活するって、ちょっと不思議な感じがする。
それは少し、楽しみだ。
◇
国王陛下と王妃殿下はお忙しいようで、話が終わるとすぐに昼食会場を出て行ってしまった。
私は隣に座るレオさまのほうを向いて言う。
「レオさま、大丈夫ですか?」
「なにがだ」
レオさまは小首を傾げた。
「うちの屋敷で暮らせますか?」
「どういう意味だ」
「うち、王子さまが来たことないので」
「なにも特別なことはないぞ。国内を移動するときは、貴族の屋敷に泊まることがほとんどだし」
そうは言うけれど、それはレオさまから見たことですよね。
たぶん周りは特別に扱ってきたと思いますよ。
「まあ、細かい打ち合わせはまたにしよう」
レオさまは席から立ち上がる。
「では失礼する」
二日酔いですもんね。早く部屋に戻りたいですよね。
「私たちも出ようか」
お父さまがそう言うので、お母さまもお姉さまも私も椅子から立ち上がる。
そうして会場を出ると、私たちを……いや正確には、お姉さまを待ちかねていた方がいた。
言うまでもない人だ。
「アマーリア!」
「ウィルフレドさま!」
二人は駆け足で歩み寄ると、両手を胸の前で握り合った。
残った私たちは、呆然とそれを見守る。
レオさまは眉間を指で揉んでいた。
劇場の開幕です。
「君に会えない時間が辛すぎて、居ても立ってもいられず、こうして会いに来てしまった」
「まあ、嬉しゅうございます」
「ああ、本当にそう思ってくれるかい?」
「わたくしも、すぐにでもウィルフレドさまに会いたいと思っておりましたもの」
「アマーリア……愛しい人」
「ウィルフレドさま……」
そうして二人は見つめ合う。やっぱり、周りには誰もいないかのように。
楽団が待機していないのが不思議なくらいだ。
えっと、昨夜、会いましたよね?
まだ翌日の昼なんですけれど。その間が耐えられないんですか。
「君のいない間、私の心は木枯らしが吹きすさぶようだったよ」
悲し気に眉を曇らせて、そんなことを言う。
お姉さまは、うっとりと見つめているけれど。
そろそろ暑苦しいです。
木枯らしがビュンビュン吹いて、ちょっと凍るくらいがちょうどいいと思います。




