26. 見比べた
昼食会場の中に入ると、案外、小さなテーブルが用意されていた。
もちろん極小なんてことはないのだけれど、私の想像では、ものっすごく長いテーブルが広間の中央に鎮座ましまして、目を凝らさないと国王陛下の顔も見えない距離に座ることになっていたから、ちょっと拍子抜けした。
昼食会場は常識的な広さの部屋だったし、目の前にあるのは、いたって標準的な大きさのテーブルだから、内輪での食事会が開かれる、という感じがする。
そして席は七席あった。
上座には当然、国王陛下が座るのだろう。
次に王妃殿下、その向かいにレオさま、残り四席が私たちコルテス家の席ということだろう。
そんなことを考えながら、私は末席に向かう。
するとクロエさんがそそくさとやってきた。
「プリシラさまは、どうぞこちらへ」
「あっ、はい」
うながされた席は、おそらくレオさまの隣の席だ。
そして私の正面にお父さま、その隣がお母さま、そして私の隣がお姉さまだ。
つまり、お父さまはともかく、お母さまよりもお姉さまよりも、私のほうが上座に近い。
なんだか、変な感じだ。
王子の婚約者である私は、彼らよりも位が上なんだ。
王子妃になったら、お父さまが失礼なことを言うたびに、不敬だって責め立ててもいいのかな。
ああ、これが権力に溺れるということか。
だめだ、気を付けないと、やっぱり調子に乗りそう。
「まもなくレオカディオ殿下がお見えになりますので、そのままお待ちくださいませ」
「はい」
私たちはそれぞれの席の横に立って、レオさまの入室を待つ。
すると両開きの扉が、侍従たちの手によって開けられた。そしてその中央をレオさまが堂々と歩いて入ってくる。
今、まったく立ち止まる素振りを見せなかったな。誰かに扉を開けてもらうのが当然の生活をしているんだろうなあ。
レオさまはまっすぐにこちらに歩いてきて、そして私の横で立ち止まった。
それから少し、私をまじまじと見つめる。
おっ、着飾ると美しいな、とでも言われるかな。ふふふ。
「君は」
「はい」
「……元気そうだな」
元気そう。
それは、どういう気持ちで言った言葉なんですか。そして私は、どう反応すればいいんですか。
「元気ですよ」
「そうか、よかった」
「はい」
そしてしばらく、向かい合って見つめ合う。
そうしてじっと見てみると、キラッキラ加減が減っている気がしてきた。
「レオさまは、元気じゃないんですか」
「いや……」
口元に手をやって、なにかを考えている様子だ。頬が少し紅潮している。
なにを恥ずかしがっているんだろう。
やっぱりあれかな、本当は褒めようとしたけれど、気恥ずかしかったってやつかな。
だって、酔っていたとはいえ、『一番美しい蒼玉』って言われたし。
あ、思い出したら、恥ずかしくなってきた。きっと私の頬も染まっている。
「国王陛下と王妃殿下がおいでになられます」
クロエさんがそう言って、私たちが慌てて姿勢を正したところで、またしても両開きの扉が開かれた。
二人が並んで入室してくる。
私たちはゆっくりと頭を下げた。
「よい。楽にしてくれ」
言われて、顔を上げる。
おお、国王陛下と王妃殿下をこんなに間近に見られるだなんて。すごいなあ。
昨夜はそんなに近くで見なかったし、夜会の最後にはお傍に近付いたけれど横並びだったから、お顔まではちゃんと見えなかった。
国王陛下は立派な白い髭をたくわえておられて、なんだか威厳たっぷりだ。お歳の割にお肌はつやつやで、レオさまもつるっつるのお肌だから、ここにも『王家の秘密』が隠されているに違いない。
王妃殿下も、金色の髪がとても艶やかだし整った顔立ちで、華やかな雰囲気を持った美女だ。若いころはさぞかし男性たちを夢中にさせてきたんだろうなあ。
そして、レオさまに似ている。やっぱりレオさまは王女だったらものすごい美女だったと思う。間違いない。
隣にいたレオさまが、私のほうを見て軽く眉根を寄せた。
「今、嫌なことを考えなかったか?」
「考えてません」
「それならいいが」
それだけ言って、正面に向き直る。
それを合図にしたかのように、国王陛下が着席し、私たちの席にもそれぞれ侍女がついて、椅子を押し込んでくれて、皆が着席する。
国王陛下は、こちらに顔を向ける。
そして、そのまま横に視線を移した。
さらにまた、私のほうを見た。
む、これは。
お姉さまと私を見比べた。今、絶対に、見比べた。
そして、「やっぱり姉のほうが美人だし、そっちのほうがよかったなあ」と思ったに違いない。そんな顔してた。
ふむ。
もし誰かがこの先、王位簒奪を目論んだとしたら、王子妃の立場を最大限に利用して協力することに、やぶさかではないですよ。




