14. 王家の秘密
「まず、第一王子のときに調査したら」
得意げな顔はそのままに、レオさまは語りだした。
片腕をソファの背もたれに乗せたので、ますます偉そうだ。
調べたの、レオさまじゃないのに。
「その犯人と兄上に、ほとんど接点はなかったんだ」
「ほとんど」
「ほとんど」
少しはあったんですね。
その私の表情を読んだのか、不服げな声が返ってくる。
「二、三、言葉を交わした程度だ。舞踏会や晩餐会で、挨拶をするくらいのことはあるだろう。それくらいだったそうだ」
「なるほど」
それなら、ほとんど接点はないといっていい。
「第二王子のときも、同様の調査結果が出た」
「ほう」
こちらも、ほとんど接点はなし、ということか。
なのに令嬢の二人ともが凶行に及んだ。
それなら『呪い』と言い出してもおかしくはないのかな。
でも、そのわずかな接点で、なにか誤解されるようなことをしてしまったという可能性も否めない。
けれど、それを言っても仕方ない。
仮に王子たちが気を持たせるようなことを言ったとしても、それを責め立てるのは酷だろう。
まさかその二、三、言葉を交わした程度で『愛し合っている』と誤解されるだなんて思わない。
もしかして、たった一言が令嬢たちを魅了してしまったんだろうか。それだったら、破壊力がすごい。
本当のところがどうなのかはともかく、それを防ぐのは難しい。
レオさまだって、ご令嬢の誰一人として会話をしていない人生を送っているわけではないだろう。
その中で、魅了されてしまった令嬢だっているのかもしれない。
もしそんな令嬢が刃物を持ってやってきたら。
なるほど、確かに『呪い』かも。
「だから公にせずに事を進めていたのに、これだ」
偉そうにふんぞり返っていたレオさまは一転、身体を前に倒して肩を落とす。
「今回こそ何ごともなく終わらせようと皆、手を尽くしてくれていたとは思うが、まさかこんなことが起きるとは予想できなかっただろう」
そう言って、はあ、とため息をつく。
こんなこと、か。
まあ、こんなこと、ではあるよね。
うん。
「今までのことを考えて、情報を拡散させないよう、秘密裏に事を進めていたのだが」
前回、前々回とは違う種類のものとはいえ。
婚約発表は、無事には終わらなかった。
「秘密にしたことが、完全に裏目に出ましたね」
「……完全に、裏目?」
その言葉にレオさまはこちらに顔を向け、眉根を寄せた。
む、王家の判断を否定しすぎたかな。
「完全は……言い過ぎじゃないか?」
「じゃあ完全は省いてもいいです」
「裏目は残るのか」
「だってそうでしょう」
だって最初からお姉さまが婚約者だと発表していれば、こんなことにはなっていないんじゃないだろうか。
さすがにあのキルシーの王子さまだって、レオさまの婚約者と知っていれば、お姉さまを口説くなんてことはしなかったのではないだろうか。
……いや、しなかったかな。どうだろう。
むしろ、もっと酷いことになっていた可能性もあるのか。
セイラスの第三王子の婚約者を、キルシーの王子が横恋慕するとかいう。
ああ、あの様子ではやりそう。二人して手に手を取って駆け落ちしてもおかしくなさそう。
だめだ、どう考えてもとんでもない方向に行ってしまう気がしてきた。
「いや、裏目じゃないかもしれません。むしろ幸いだったかも」
私がそう言うと、レオさまは少し驚いたように、パッと顔を上げてこちらを見た。
それから口元に軽く手を当てて、うなずく。
「ああ、そうだな。裏目ではなかった」
「婚約してからの横恋慕よりは良かったです」
「ん?」
レオさまは私の言葉に首を傾げる。
「はい?」
私もつられて同じ方向に首を傾けた。
なにかおかしなことを言ったかな。
少し顎に手を当てて考え込んだあと、レオさまは慌てたように、こくこくとうなずいた。
「あっ……ああ、うん、そうだな」
「そうですよ」
「ああ、そうだ」
なぜか二人してうなずき合う、という形になった。
なんだろ、これ。
妙な空気が二人の間に流れる。レオさまは咳払いなんかして、どうにも気まずい。
「ま……まあ、とにかく。内密に進めていた理由は、そんなところだ」
そうしてレオさまは、話の締めに入った。
『王家の秘密』は王子たちの破壊力がすごい、という話だったか。
ワクワクするような重要機密ではなかったなあ。
そうだ、ここまで聞いたんだから、気まずさついでに訊いておこう。
「ちなみに、その犯人だという女性たちはどうなったんです?」
「今どうしているかまでは知らないが、そのときは、彼女たちの親族との話し合いで片はついたと聞いている」
話し合い。片はついた。
つまり。
たんまり慰謝料を貰って不問にしたのかな。
うん、とんでもない重要機密ですね。
どうやら私は、『王家の秘密』を聞いてしまったらしいです。




