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飛州三木家興亡録  作者: pip-erekiban
第一章 三木直頼の雄飛
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大永元年の乱(一)

 済継なりつぐは急逝した。

 幼年の後嗣済俊(なりとし)を京洛に遺しての急死は、三条西実隆や中御門宣胤の如き生前の済継と交わりのあった公家連中は当然のこと、古川家中衆をも大いに嘆かせた。それも無理のない話で、右眼を患っていたとはいえ、済継に死の影が忍び寄っているなど誰一人として考えてもみなかったからである。

 その死を不審がる声が古川家中から上がるのは、当然の成り行きであった。


 さて下々の国と呼ばれた飛騨の如き小国では、いくさするにしても多勢を集めるということが出来ない。いくさをするにあたっては相対的に個々の武力が大きくものをいう土地柄であった。したがって国内に割拠する飛騨諸豪族は、集められない人を集めることよりも、たとえ少数であっても手練の侍を召し抱えることに注力した。林兵庫はそのような経緯で近年古川家に出仕するようになった家中随一の使い手である。

 ただ、古川被官人とはいっても仕えて日は浅く、累年主家より恩を蒙ってきた譜代家老衆と比べれば古川家に対する思い入れがそう深くない。したがって林兵庫はこの度の済継急逝に接して古川家中が悲嘆に暮れる中、どこか第三者的な、白けたところがあった。

 この白けた家中きっての使い手は、古川家宰渡部筑前より

「小島家より送り込まれてきた小者どもを残らず始末せよ」

 と命令を受けても、その命令をがえんじなかった。というのは、林兵庫ほどの使い手ともなると、無益な殺生とりわけ何の心得もない小者連中をむやみに生害することを好まなかったからである。

 林兵庫が小島の息のかかった小者を殺せと息巻く渡部筑前に対し

「そもそも済継公の急逝を小島の手の者による毒殺と決めつける証拠はおありか。あるとすれば下手人のみの処断でこと足りましょう」

 と正論をぶつけると、家宰は

「古川家宰たるわしが命令するのだ。小島家より送り込まれてきたというだけで主殺しの下手人と疑うに十分である。詳しく穿鑿せんさくしている暇などあるか。つべこべ言わずにやれ」

 と強圧的であった。

 ただ、当初は旧主済継の三回忌法要を済ませた後に実行を予定していた計画が、更に翌年の大永元年(一五二一)に繰り延べになったのは、やはり林兵庫がこの理不尽な命令にあれやこれやと理由をつけて先延ばしにしてきたからである。

 その林兵庫も、いよいよ手を下さなければならなくなった。

「やらねば家中より放逐する」

 業を煮やした渡部筑前よりそのような恫喝を受けたからである。

 もとより林兵庫ほどの使い手であれば他国への仕官も思いのままではあろうが、林兵庫も古川に仕えて数年、既に安穏たる生活を手にしており、当面は苦労を強いられるであろう牢人生活に逆戻りするよりは、いまある生活を守る方が重要だったから、気の進まないなか、旧主暗殺事件の報復行動を実行する決意を固めたのである。


 その夜半、林兵庫の振るう凶刃により古川城中は阿鼻叫喚に包まれた。

 幽鬼のように痩せた林兵庫が、返り血を浴びながら次から次に小島家ゆかりの小者連中を斬殺する様は、地獄の鬼が亡者を折檻する様も斯くやと思われるほど凄惨な情景であった。

 ある者は肩口から臍辺りまで袈裟懸けにばっさりと斬られ、ある者は腰を抜かしてへたり込んでいるところ、一刀のもとに首を刎ね飛ばされた。血しぶきは城中の至るところに飛び散って、酸鼻を極める大量殺人の光景を前に、下命者たる渡部筑前ですら目を背ける有様であった。

 自らの命令がもたらした結果に瞠目しながらも、家中から小島家ゆかりの者を残らず消し去った渡部筑前は古川城に旗を掲げた。

 済継暗殺の命令者(と、渡部筑前が信じて疑わなかった)小島時秀討伐をぶち上げるためであった。

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