同盟の亀裂(二)
「人を斬った」
良頼はにこりともせず言った。
「まあ!」
大きな瞳を更にまん丸にして驚く英子。
「打刀で敵を叩っ斬り、突っ殺した」
父直頼あたりにこぼせば叱責を免れないであろう正直な心持ちを、この姫相手になら包み隠さず口にすることが出来る良頼である。
「いくさ場とは、恐ろしいところであった」
溜息交じりに語る良頼。侍たる身に克服しなければならない恐怖心である。それを口にしながら、青ざめている今の自分の顔が見えるようだ。
「だが、殺していなければわしが殺されていただろう」
英子は袖で口許を隠しながら良頼の言葉に聞き入っている。
(俺は何を言っているのだろう)
英子が眉をひそめて聞き入る姿を見ると、良頼の内心にそのような後悔が浮かぶ。
英子のこんな顔を見るために二の丸までやって来たわけではあるまいに。
見ろ。英子が泣いているではないか。お前が人殺しの話などするから怖がらせてしまったのだ。
良頼ははらはらと涙を流す英子に言った。
「すまなんだ。妙な話をした」
そう言って座を立とうとする良頼に、英子がにじり寄る。
「おかわいそうな良頼殿」
そう言いながら、慈母のように良頼を包み込む。面食らったのは良頼の方だ。英子に抱きしめられたから、というだけではない。一端の侍であれば、女子供の同情を買ったことに屈辱を感じようというところであったが、そのときの良頼は英子に対して一片たりともそのような感情を抱かなかった。そのことに面食らったのだ。
「私は嬉しうございます」
「嬉しい? なにゆえ」
「良頼殿が恐ろしい思いをしてでも生き残ってくれたことがまず嬉しうございます。生き残って私に会いに来てくれたこと、そしていま、感じたことを感じたままにお話して下さった良頼殿のお心持ち。その全てが、私にとってはどうしようもなく嬉しく感じられるのでございます。
ああ、愛おしい」
良頼の胸にしがみつきながら睦言のように語る英子。
良頼の両腕がその華奢な身を包み込む。目の前には長く瑞々しい英子の黒髪。
高貴な血筋を汚してはいけないとか、人殺しの汚れた手で触れる相手ではないとか、間もなく挙行される自分自身の婚儀とか、その相手である月姫の顔とか。
次なる行為を阻むべき様々な事情に考えを巡らせる良頼であるけれども、そういった理性は、英子の体温や、その体臭と混交した香の薫りを前にして無力であった。それが証拠に、逸物の荒ぶる怒張を抑える術がなく、動悸も速い。
良頼の手が、幾重にも重ねられた英子の衣をまさぐって地肌に触れる。その途端、英子の吐息が良頼の耳許で漏れた。
良頼が最も尖った自分自身の先端を英子の秘所に押し当てても、英子は何も抵抗することがなかった。意を決して良頼が押し入ると、英子は少し苦しそうな呻き声を上げた。
だが困難といえばその最初だけであった。手狭な秘所は良頼を押し返すどころか、彼自身を受け容れる喜びに満ちているかのように、良頼には思われた。
居室に、男女の荒い息づかいだけが響く。英子の中に何度放ったものか、良頼自身も逐一その数を数えなかった。




