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飛州三木家興亡録  作者: pip-erekiban
第一章 三木直頼の雄飛
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郡上出兵(八)

 直頼が発送した文面そのものは現存していないが、「石山本願寺日記」十月十九日の条には


三木申、濃州郡上安養寺事、外聞失面目候間、可加成敗之由


 とあって、安養寺の動きが意に添うものではなく面目を失ったので成敗を加えるべきだとする三木家使僧の言葉が記録されている。

 内ヶ島からも、証如に対して同様に抗議が申し入れられたようである。同三十日の条には


内島へ返事候、又安養寺事堅加折檻之由申遣之、三木方へ返事遣候、安養寺如右申下之


 とあり、証如自身の意にも添わぬ動きを示した安養寺に対して、本願寺側は何らかの処分を下すことを内ヶ島氏及び三木氏に約束している。


 ここからは郡上郡を舞台とする一連の抗争の顛末である。

 鷲見すみ畑佐はたさ連合軍が勝利した三箇月後の十二月、遠藤新兵衛入道胤秀及び野田左近大夫常慶より照蓮寺宛に


右旨趣者、今度一乱之儀仁付而、内島殿照蓮寺以御扱属無事候、然間、於末代、対鷲見殿互成水魚之思、無別儀可申談候、於此上自然之時、中意申族出来候共、大小之事共遂直談、可申合候(後略)


 とする起請文が提出され、郡上郡を巡る一乱はここに終結した。

 この戦いに勝利した鷲見・畑佐連合であるが、どうやら守護土岐氏の意向に叛いて一向宗側に立ったことが問題視されたらしい。勝つには勝ったが、守護の勘気を蒙ったらしく一時的に本貫地を退去させられている。

 この、郡上郡における合戦の帰趨は土岐頼芸にとってはもちろんのこと、六角定頼にとっても不本意なものだったようだ。定頼が本願寺に宛てて


(前略)飛州内島入人数候、彼内島事門下之由候間、此方知候歟、又不知事候者、急度相届候ヘ(後略)

(飛騨の内ヶ島家が人数を(郡上郡に)入れたことについて。

 内ヶ島は(本願寺の)門下であるところ、このことについて知っていたのか、知らなかったのか、しかと返答せよ)


 という手紙を発送していることからも、おおよそ察しはつこうというものである。かなりきつい文言で本願寺側を詰問している様が覗える。本願寺側は六角氏からの怒りの文面に接して、幕府奉公衆たる内ヶ島氏の立場を前面に押し出しながら


内ヶ島は奉公衆で本願寺の統制に従わない人だ


 と苦しい言い抜けをした。本願寺はその間に、内ヶ島家に対して、切り取った郡上郡から退去を依頼したものであろうか。天文九年(一五四〇)には


去年者濃州郡上之儀、被成御分別候之条、誠以感悦至候


 とする証如上人発内ヶ島兵庫助宛書状が残されており、どうやら本願寺は六角氏との関係悪化を恐れて内ヶ島氏に郡上からの退去を要求したらしい。内ヶ島兵庫助は本願寺の苦しい立場を理解して、郡上の領土を捨てて白川に撤退したことが分かる。武士が、己が武力によって切り取った土地を捨てたのだからよほどのことだ。

 路次の封鎖さえ解除されてしまえば本願寺側にはなんの不満もなく、証如の檄に応じて蹶起した鷲見・畑佐は一時的とはいえ本貫地を逐われ、同じく内ヶ島は切り取った郡上郡の領土から撤退を余儀なくされたわけであって、結局この戦いで利を得たのは証如ひとりであった。そのことは「証如上人書札案」天文八年十月廿八日三木兵衛尉(右兵衛尉の誤りか)宛書状案にある


彼通路事、種々馳走之儀、誠以悦入候


 の文言からも明らかである。


 安養寺による不測の行動で面目を失った直頼であったが、一方でなんの得るところもない合戦でもないことには満足していた。この戦勝を経て嫡子良頼の地歩は明らかに固められたし、飛騨国内は勿論のこと、三木家が他国からも飛騨を代表する勢力と認知されるに至ったからであった。その雄飛が他国から見ても明らかになったことに、直頼は満足したのであった。

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