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飛州三木家興亡録  作者: pip-erekiban
第一章 三木直頼の雄飛
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郡上出兵(四)

 この事情は飛騨白川においてよりいっそう顕著であった。吉崎御坊を抱える越前と、飛騨との連絡通路を扼す地理からみればそれも当然のことであろう。

 現代の視点から見れば、戦乱の時代と呼ばれたこの時代、各地域の主人公は武家勢力と考えられがちである。飛騨白川にも、前述したように幕府奉公衆の一、内ヶ島氏が入部しており、この地域に勢力を張ったのは間違いないけれども、同時にこの地域には一向宗の一大拠点である照蓮寺が立地する地域でもあった。


 ここでいささ煩瑣はんさではあるが白川照蓮寺について説明しておきたい。

「照蓮寺御命日記」によると、照蓮寺成立は嘉念坊善俊によるものとされている。同書では善俊を鳥羽天皇第十二皇子とし、建保二年(一二一四)に誕生、承久三年(一二二一)、園城寺に入ったとしている。この間の事情は不明であるが、一説に配流と伝えられる。

 その御善俊は箱根において親鸞に私淑することとなり、その命を受け、当時は化外の地とされていた飛騨白川に至り、布教に努めたという。

「照蓮寺御命日記」は、開寺をその間の出来事としている。

 また「岷江記びんこうき」に記される照蓮寺成立の過程は次のとおりである。

 善俊が白川で歿し、その九代目教信は武士に憧れて三島将監を名乗ったという。

 同じころ、信州から白川に入部した内ヶ島将監は、教信が自分と同じ将監を名乗っていることに腹を立てこれを討ち滅ぼそうと挙兵した。

 一旦は内ヶ島将監の攻撃を凌いだ教信だったが、再び内ヶ島の襲撃を受け、弟明教を殺害されると、白川を逐電したという。

 その後白川の門徒は殺害された明教の子亀寿丸を越前で養育し、明心と名乗らせて内ヶ島討伐を志したが、蓮如は齢十五に達した明心を召し出すと

「そもそも白川照蓮寺は善俊以来の旧跡であり、そなたはこれを相続する器に生まれながら内ヶ島の武威におされ孤立していることはまことに悲しいことだ」

 切々と説いて仇討ちを翻意させ、まずは蓮如が自ら内ヶ島将監と面会し明心と結ぶ利を説き、更に内ヶ島将監と明心の面会を実現させて、両者を和睦に導いた。内ヶ島将監と明心は縁戚を取り結び、明心は内ヶ島氏の財力を借りて白川郷中野に光耀山照蓮寺を造立ぞうりゅうしたのをその嚆矢としている。

 但し、これら照蓮寺関係者の手により著された「照蓮寺御命日記」や、同じく照蓮寺に関わる伝承を掲載している「岷江記」の記述はいずれも他の史料によってクロスチェック出来るような代物ではなく、多分に伝説的ともいえる逸話を所載しているところから見ても、その内容については疑問視せざるを得ない。

 より確実な史料としては、照蓮寺の各末寺に保管されている本尊裏書がある。複数の寺に保管されている本尊裏書を仔細にチェックすれば、「照蓮寺門徒」との記載がある裏書は明応三年(一四九四)以降のものばかりであって、照蓮寺の成立時期は手前味噌な「照蓮寺御命日記」や多分に伝説的な逸話を載せた「岷江記」よりも幾分後代であるということは確実である。

 ただ、照蓮寺の成立時期がどの時代であっても、どういった経緯で成立したかにかかわらず、この時期の飛騨白川において照蓮寺は、幕府奉公衆内ヶ島兵庫助氏利と並んで、或いはこれを越える白川の一大勢力に成長していた。 

 無論、越前と飛騨の通行を扼するこれら白川郷の勢力も、証如に合力して遠藤氏、野田氏に対抗しようという情勢である。また郡上郡に所在する安養寺も本願寺門徒であって、各所に敵を抱え、北陸との連絡通路途絶の危機にあった証如は、こと郡上郡方面においては圧倒的優位に立っているという情勢であった。

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