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飛州三木家興亡録  作者: pip-erekiban
第二章 三木良頼の謀略
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姉小路古川継承(六)

 その後奈良天皇は、天文四年(一五三五)十二月、大宰大弐任官を申請してきた大内義隆に対し、これを拒否する姿勢で臨んでいる。

 大内義隆といえばそれまでも恒例化していた献金の他に、他ならぬ後奈良帝即位の用途二千貫の献上、或いは大宰大弐任官のための礼銭として百貫を献上していたほどであり、奏請があった以上これを断ることは困難と誰しもが考えてものであった。事実朝廷では大内義隆の奏請に従い、一度は義隆の大宰大弐任官を決定しているのである。

 しかし決定の翌日、後奈良帝は


かたがた以て然るべからず

(後奈良天皇宸記)


 と、これを拒否する方針に転じたのである。

 これは過去に大宰大弐任官を果たしたのが、保元三年(一一五八)の平清盛まで遡らねばならなかったからだろうといわれている。

 清廉にして剛直だった後奈良天皇は、清盛以来四百年ぶりとなる異例の任官の重大性に鑑み、結局「然るべからず(好ましくない)」という結論を下しあそばされたのである。

 しかし如何に四百年前のこととはいえ先例があることにかわりはない。先例があってかつ献金額が十分なのであるから、任官を拒否する以上、その合理的理由を相手に示してやる必要がある。

 これまで献金を重ねてきた功績を朝廷としても認めないというわけにはいかず、侍臣が先帝を説得し、紆余曲折を経て大内義隆の大宰大弐任官が果たされたのであった。


 三木家から礼銭が贈呈されたのは永禄二年(一五五九)も押し迫った十二月二十四日のことであった。

「御湯殿上日記」には


ひだより国司の御れいに御たち三千疋まいる


 とある。

 三千疋といえば三十貫相当である。

 南北朝合一期こそ四職家(山名、一色、京極、赤松の四家)しか名乗ることの許されなかった左京大夫は、永正十四年(一五一七)に伊達だて稙宗たねむねという奥羽の一豪族に授けられたことをきっかけとして全国の大小名に与えられた、濫授の代名詞のような官位であり、その稙宗が左京大夫任官のために支払った礼銭の額こそ三十貫であった。要するにこれが左京大夫任官の「相場価格」になったのである。

 

 今回、三木家から献上された礼銭三千疋の意味についてお気づきにならぬ主上ではない。要するに彼らは次なるステータスの上昇を求めて、特にこの三千疋という額の礼銭を献上してきたのである。

 

 その主上の目の前には、光頼の飛騨介任官を詰る関白近衛前嗣。


 ことここに至り、前回は妙案を出して主上の大御心を体現した勾当内侍こうとうのないしにも、三木家の要望を躱す万策は尽きた。

 侍臣の悉くが、関白に対し有効な反論を持たぬ中、主上は渋々ながら、三木父子の昇任を検討せよと左右の者にお命じあそばすより他なかった。


 永禄三年(一五六○)二月、三木良頼は更なる叙位任官を果たした。

「歴名土代」は次のとおり記す。


 従四位下じゅしいのげ藤良頼、姉小路、永禄三二十六、元従五位下(じゅごいのげ)、越階従五位下藤光頼、飛州良頼子、永禄三二十六、同日左衛門佐(さえもんのすけ)(後略)


 更に「飛州志備考」所収「古簡雑纂」には


就国司存知之儀、可改名字段、得其意候、仍任飛騨、猶信孝可申候也

  二月十八日         (義輝)御判

    古河飛騨守とのへ


父良頼改名字於古河候条、受領飛騨守候儀、申遣候間、任左衛門佐候、猶信孝可申候也

  二月十八日

    古河左衛門佐とのへ


 との義輝書簡が掲載されており、遂にこの時、永禄三年二月、良頼光頼父子は昇任を果たすとともに、先代直頼以来の悲願だった姉小路古川の家名相続が、朝廷及び幕府から公式のものと認められたのである。

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