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第4話 『エリシア・クリアティア』

「なークロ。俺腹減ったんだけどさ、何か買いに行っちゃダメかな?」

「ダーメ。買いに行ったら行ったで、戻ってくるのが億劫になるでしょう?」

 日が沈んでから 一時間ほど経過した。

 大半の学園生が帰路につく中、ライルとクロは東棟の階段を一段ずつゆっくり上る。

 踊り場の蛍光灯のみがポツンと光っているだけで、暗い校舎を歩くには少々心許(こころもと)ない。

 この時間帯は校舎内にいる人が少ないこともあり、エレベーターは全て停止されている。故に上の階へは階段を利用するしか選択肢は残されていなかった。

 依頼を終え、報告のため東棟に赴いたライルは六階の中央に位置する教室を目指し歩みを進める。

「そうだけどさ。お腹が空いて、力が出ない〜」

 ライルは腹の虫が鳴らぬよう、右手でお腹を擦りながらクロに訴えかける。

「子供みたいなこと言わないの。それに早く帰りたいんだったら、早めに報告済ませた方が後々楽でしょ?」

 足並みを揃えていたクロだったが、途端にペースを上げ足早に一つ上の踊り場に到着。

 そしてライルを見下ろすように、まるで「早く早く」と言わんばかりに立派な尻尾を左右に振る。

「絶対早く終わらんわ・・・」

 ライルは足腰に若干のだるさを感じながらも、残り一階と数段分を上っていく。


「やぁっと着いた」

 一階から六階までの階段を登りきり、唯一ガラス窓から光が漏れている教室の前まで到着したライルとクロ。

 息が切れ、心臓の鼓動も早くなっていたが、目当ての教室まで歩いたことで呼吸も徐々に整っていた。

「さて、と」

 右手に軽い握りこぶしを作り、教室のドアを一回、二回とノック。

「・・・・」

 だが、ドアの向こうから返答が無い。

「あれ?」

「おや、いつもなら何かしらのアクションはあるはずだけどね」

 クロの言う通り、ドアをノックすれば「はーい」とか「開いてるよー」など依頼主が返事を返してくる。

 しかし、今回に限って何も返事がなかった。

 教室を出ているのか寝ているのか、それとも()()の作業中なのか。

「出てるなら中で待てばいいし、中にいるなら勝手に入っても問題ないだろ」

 ライルは取っ手を左手で引っ掛け、そのまま引き戸になっているドアを左にスライドさせる。

「おーい、入るぞー」

「ヒャッ!」

「ひゃ?・・・あ゛!?」

 突如、甲高い驚き声がライルの耳を打つ。

 あまりにも聞き慣れない声にライルは思わず反復して返すが、彼は声よりも視線の先にある人物を見て唖然とする。

 それは驚き声への疑念を軽く凌駕(りょうが)する、これから会う人物の像とはかけ離れたもの。

 プラチナブロンドと呼ぶのが相応しいほど限りなく白に近い金色の長髪。シルクのような艶やかさ、丁寧に手入れされた髪は彼女の美に対する意識の高さが伺える。

 サイドポニーテールで結ばれた髪、白い肌に整えられた小顔、黒縁メガネに八重歯と、男心をガッと鷲掴みにする凶悪なビジュアル。

 そんな学園内でも五本指に入るであろう可憐な少女が、目的の人物と代わってライルの目の前で身を縮こませるように座っている。

 予想外の展開に驚いたのだろうか。少女は目を潤ませ、小刻みに体を震わせながらコチラを見ている。

「え、えっと・・・”文芸部”に何か、用・・・ですか・・・?」

 少女は時折目線を逸しながら、余所余所しく話しかける。

「―――――」

 だが、ライルは目を見開いたまま未だ突っ立っている。

 教室を間違えたか、と疑った。しかし、ここは東棟の中で唯一明かりの灯っていた教室。それに幾度と出入りしている部屋であるため、そう簡単に間違えることはないだろう。

「あの・・・そ、そんなにずっと、見られては・・・私、どう・・・反応したら・・・」

「―――――」

「もしかして・・・一目惚れ・・・ですか・・・?一目見たときから君に心を奪われたとか・・・そんな感じ・・・ですか?」

 彼女は紅潮した頬を両手で必死に隠す。

 先程まで逸していた視線も、今度は時折ちらっと視線を合わせ始め、身振り手振りしながら満更でもない様子をみせる。

「こ、困ります・・・。そんな、急に・・・好きになんてなられたら・・・。あ、いやいや、別に嫌ってわけじゃ、ない・・ですよ・・・?その、心の準備が・・・」

「できんでいいわ」

 だが、ライルは痛烈な一言で彼女の言葉を一蹴(いっしゅう)

「あ、あれ?でも心のじゅ・・・」

「できんでいいわ。てか何してんだ、エリィ」

「・・・・」

 先程まで見せていた天使のような微笑も、徐々に引きつった顔に変わっていき、

「もー!なんでなんでなんでなんでな・ん・でー!何で変装がバレたのよー!」

 ライルを騙せると気合を入れて変装したにも関わらず、バレてしまったことが相当悔しかったのだろう。まるで繊細な心を持った少女とは打って変わり、歯を食いしばりながら地団駄を踏み始める。

「男ってこんな文学少女がいたらコロッといっちゃうでしょ!?なんで効かないのよ!ビビッとドキドキズキューンって落ちなさいよ!」

「いや何だよ、『ビビッとドキドキズキューン』って」

 独特な効果音を口走る少女に、思わず突っ込むライル。

 眉間に皺を寄せ顎に手を当てながら、少女はライルを騙せなかった理由を考え始める。

「おかしいわね。男は内気で内向的な、大人しい女の子を好むって見た気がするんだけど」

「どこの情報だよ・・・」

 不確かな情報にまんまと引っかかった少女。

 このままでは(いず)れ変な人間に騙され、憂き目を見ることになるのではないだろうか。

「あのなぁ、誰も彼もが落ちちゃうって訳じゃないんだぞ。それに、どんなに変装したとしても流石に見分けがつく」

 ライルは呆れた顔を見せながらも、少女の誤った認識を正す。

 彼の優しい言葉が槍となって心に突き刺さったのだろう。先程の芝居じみた涙目ではなく、本当に今にも泣きそうなくらい目に涙を浮かべている。

「私の変装が・・・」

 だが、彼女が引っかかった所は間違いを正されたことではなかった。

 自身を持って理想の文学少女に化けていたと思っていただけに、ライルの『見分けがつく』の言葉がダメージとなっていたのだ。

 ライルもそのことに気づき「そこか」と声に出すのを抑え、

「・・・まぁ、一瞬戸惑いはしたけどな」

 と髪を掻きながら、意気消沈している少女をフォローする。

 そんな言葉を耳にして、少女の顔は見る見るうちにパッと明るいお日様のような満面の笑みに変わっていった。

「も〜、やっぱりそうじゃん。強がってないで素直に『分からなかった』って言えばいいのに。うーん、今度どんな変装しようかな・・・」

 先程の落ち込みようがまるで嘘のように、少女はすぐさま気持ちを切り替えて自分の世界に入った。

 異常なほど優柔不断、そして切り替え下手なライルにとって、少女の切り替えの速さは見習いたいと思っている。だが速さ故に振り返りを疎かにしがちであるため、その点は改善してほしい所である。

 ライルは苦笑いを浮かべながら、本来の目的に中々入れない空気を一新させようと、手を叩いて少女に本題に入るよう促す。

「そろそろ本題に入ろうぜ。あんまり時間かけたくないからさ」

「ん、そうね」

 少女は時間をかけて編んだであろうサイドポニーテールを手際よく解いていく。

 制服のポケットから出した二つのリボン紐を口に(くわ)え、慣れた手つきで左右の長髪を編んでいく。

 今回のためだけに準備したであろうメガネを外し、サッと結ばれた右髪をなびかせる。

 そして、大きめにリボン結びされたツインテールにオーシャンブルーの様に澄んだ瞳を持った少女が凛としている()()()()()()佇まいでライルに目を向ける。

「さぁ、ライル。今回の依頼で何が起きたのか、純情可憐で天真爛漫、晶瑩玲瓏(しょうえいれいろう)鮮美透涼(せんびとうりょう)な私に洗いざらい話しなさい。このエリシア・クリアティアに、ね!」

 自身を称える言葉を並べた少女――エリシアはドヤ顔を決める。

 だが、エリシアにとって気分のいい時間はそう長く続かなかった。

 ぐ〜っ

「あ」

 エリシアが待っている教室に来る間お腹が鳴らぬよう耐えていたライルだったが、いよいよ我慢鳴らず腹の虫が部屋中に聞こえるほど大きな音を鳴らす。

「・・・わりぃ」

 場の空気を乱してしまったことに、ライルは彼女に軽く謝罪する。

 思わぬ形で自分の世界を壊されたエリシアだったが、吐息をついた後に部屋の中心に敷かれた敷物と台を指差す。

「ま、まぁ、こういうこともあろうかと夕食作っておいたから。一緒に食べましょ?話はその時で大丈夫だから」

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