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夢見る金平糖

作者: 桃永桃香


「ママみて。ステキなビンをみつけたのよ」

金色の蓋に星の細工をしたガラス瓶をちよちゃんが高らかにみせつけます。

「これ、わたしのものにするの」

そう言ってお部屋に戻るとベットの上に大切に飾ります。夜になっても嬉しいまんまです。ちよのステキなステキなガラスの瓶。大掃除のお手伝いでみつけたガラス瓶。

そうだ。大きくなったらきっと探検家になろう。このガラスの瓶みたいにステキなものをたくさん見つけるの。

「こんなにいい考えはないわ」

月に照らされて鈍く光る金の蓋を眺めているうちにちよちゃんはいつの間にか寝てしまいました。


目が覚めるとガラスが朝日に反射してキラキラと光っていました。やっぱりいいものを見つけちゃった。ちよちゃんはビンを手にとります。

カランコロン。

あれぇ。

「ママ、ママ見てよこれ。朝起きたらね。お星さまがいたの」

昨日はなんにも入ってなかったのに。ちよちゃんはビックリして駆け出しました。

「どれどれ。ふふっ。確かにお星さまみたいね。でもこれはお星さまじゃなくて金平糖、甘くて美味しいお菓子よ」

「えっお菓子なの。食べたい。ねぇ、ママふたを開けてよ。」

「駄目よ。こんなのいつのものだかわからないし、これから朝ごはんなんだから。今日はちよちゃんが好きなパンケーキよ。」

ママはそう言ってお皿を運び始めます。ちよちゃんはがっかりしたけど、パンケーキという言葉を聞いて急いで席に着きました。ママのパンケーキは世界で一番美味しいのです。


カランコロン。

どんな味がするんだろうな。瓶を揺らして考えます。金平糖はまだ食べたことがありません。ママのパンケーキより美味しいのかな、それはないか、ママのパンケーキは世界一だもん。私も大きくなったら美味しいパンケーキをつくれるかな。パンケーキ。そうだ、大きくなったらパンケーキ屋さんになろう。

「きっとみんなが幸せになれるお店をつくれるわ」

金平糖のことなどすっかり忘れて、可愛いエプロンを着た自分を想像してワクワクしました。


カランコロン。

朝起きると金平糖が2つになっていました。

「緑がふえてる」

昨日は絶対に1つだけだったわ、ママに報告しなくちゃ。

「ママ、ママ大変なのビン」

ちよちゃんは興奮して、おはようの挨拶も忘れて話始めます。でも、ママは聞いていなかったみたい。

「あぁ、おはよう、ちよちゃん。良かった起きてくれて。おばあちゃんの腰が痛いみたいなの。マッサージしてきてくれる。ママ、お魚焼いてるから離れたくないの。」

ちよちゃんに気が付くとそれだけ言って、心配そうにおばあちゃんを見つめます。

見ると、確かにおばあちゃんが辛そうにしています。ちよちゃんはおばあちゃんの事も大好きなので一生懸命マッサージをしてあげました。


カランコロン。

おばあちゃんはとっても気持ちよさそうにしてくれました。肩のマッサージまでしてあげたら、本当に優しい子だねと言ってくれました。力を使って疲れたけどとっても嬉しい気持ちになりました。そうだ。大きくなったらマッサージ屋さんになろう。そうだ。そうしよう。

「みんなが元気になって、私きっと、幸せな気持ちになれるわ」

次の日やっぱり瓶を覗いてみると、今度は青い金平糖です。ビンの中身は3つになっていました。もう3回目のことなので、ちよちゃんは慣れてしまいました。



その後も、ちよちゃんがガラスの瓶をみつけた6歳の春から7歳の夏まではほとんど毎日のようにカラフルな金平糖が増えていきました。そこから段々とペースが落ちて15歳を過ぎるころには1つも増えることはありませんでした。

そして、ベットの上に大切に飾られたガラス瓶はいつしか部屋の隅に置かれ、戸棚の中にしまわれ、存在を忘れられました。



ちよちゃんは今年の春から会社で働くことになります。大きな会社です。ちよちゃんはケイリというお仕事をするそうです。するそうです、と言うのも偉い人に勝手に割り振られたので、どんなお仕事をするのかちよちゃんもキチンとわかっていないのです。

お仕事の場所は少し遠いので、休みの間に荷物をまとめて寮に引っ越しをすることが決まっています。タンスや棚から一つ一つ取り出して、要るものと要らないものに分けていきます。棚の奥でなにかが鈍く光っています。それは、すっかり忘れていましたが、いつかベットの上にに大切に飾られていたガラス瓶でした。

「懐かしいな」

瓶を手に取るといくつかイメージと違うことがありました。一つ目は、瓶の中身が一杯なこと、二つ目はステキな瓶が普通の瓶になっていたこと、最後はフタが簡単に空くことです。

ちよはもうすっかり大人になっていました。フタを緩めると甘い香りが漂います。

そうして一粒とりだすと

「お砂糖だし、腐らないからいいよね」

と誰かに断るようにつぶやいて、そのまま口に含みました。

「甘い」

初めてピンクの金平糖が現れた日のことを思い出しました。緑・青・黄色、一粒食べては昔を思い出します。

「甘い」

白・紫・茶色。口の中が甘さで一杯になっても金平糖はたっぷり残っています。

「甘い、甘いな」


ちよは春から会社で働きます。大きな会社です。どの金平糖にも思い出はありません。



初めて書きました。

可愛い話にしたいと思って書きました。

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