第1話『はじめまして、ご主人様』(3)
プラーヤは、近づいて来る将校の姿を凝視した。
軍服の袖に縫い付けられた三本の銀線――階級は大佐。その階級を考えれば年齢は三十歳を超えているはずだが、色白で彫りの深い顔は少尉よりも若々しい。
一方で、青く鋭い目に落ち着き払った立ち居振る舞い、そして左腰に二振りのサーベルを提げたその姿は冷酷さがにじみ出るような雰囲気を漂わせていた。
半歩後ろを歩く副官は、赤い羽根飾りのついた黒いベレー帽と機甲兵用の黒い軍服を身に着けた壮年の男だった。
年齢は三十代半ばだろうか、背は高くないものの体格はがっしりとしており、軍服の上からも強靭な肉体が窺えた。顔立ちは整っているが頬はこけ、落ち窪んだ眼窩の底にある灰色の瞳は、大佐とは異なる暴力的な光を放っていた。
「た、大佐殿。我々に歯向かう者達を捕縛しました。我が小隊で死者七名の損害が――」
先ほどまで尊大に振る舞っていた少尉は顔面蒼白となって敬礼し、震える声で状況報告を始めたが――。
「少尉。何をしようとしていた? 答えよ」
長身の大佐は説明を遮って尋ねた。
「あっ……」
「答えよ」
大佐に鋭い目を向けられ、少尉は身を震わせながら跪いた。
「大佐殿! 小官はただ、残敵を……!」
「よからぬことを考えていたな。我が指揮下に規律を乱す者はいらぬ」
黒光りする長靴を履いた大佐の影が靄のように蠢くと、赤く光った。
「おっ……お許しください、大佐殿!」
光る影が瞬時に伸びて少尉の足元に届くと、大きな刃となって少尉の胸を刺し貫いた。
「ガハッ……!」
やがて、背中まで突き抜けた刃が影の中へ引き込まれると少尉は前のめりに倒れて動かなくなった。
目の前で上官が誅殺され、少尉の部下達は直立不動のまま震えていた。
少尉の死体から残された部下達へ大佐が視線を移すのと同時に、曹長が歩み出た。
「大佐殿! 小隊の先任下士官である私の責任です。部下達に罪はありません。罰するのであれば私を。どんな懲罰でも受けます……ですから、どうか……!」
「そうか」
赤く光る影が大きく広がり曹長の影を飲み込むと、その足元から激しい電火が走った。
「ぐぁぁぁぁぁ!」
全身を走る電流の衝撃と激痛に、曹長が叫び声を上げた。
マヤとプラーヤは目の前で繰り広げられる光景を、ただ困惑しながら見守っていた。
電撃は十秒間に渡って続き、それが終わると同時に曹長は力を失って倒れ伏した。
「貴官とて上官の命令には逆らえまい。今回はこれで許す。二度目はないと心得よ」
「あ……ありがとうございます……大佐殿……!」
身体を起こすこともままならない状態で、曹長がやっと声を絞り出した。
「以後も軍務に励め。次の小隊長が着任するまで貴官が代理を務めよ」
「はっ……!」
大佐は眉ひとつ動かさず曹長に頷いてみせると、くるりと踵を返した。それと同時に地面を覆っていた赤い影が大佐の足元に戻り、闇の色へと還った。
「誰か、曹長に肩を貸せ。葬儀は次の宿営地で行う。速やかに遺体の移送準備をせよ」
「はっ!」
小隊員の声が一つとなり、近くにいた部下達が曹長を抱き起こした。取り巻く他の部下達は曹長に向かって一斉に頭を垂れると、それぞれの持ち場へと戻っていった。
取り残されたマヤとプラーヤが顔を見合わせるのと同時に、大佐の副官が二人を見た。
「この者達はどうなさいますか、大佐殿」
「殺せ、クインダル。陽が昇る前に次の目的地へ向かう」
大佐は背を向けたまま、言い放った。
「承知しました」
副官――クインダルがマヤとプラーヤに歩み寄り、腰のサーベルを抜き放った。
「待ってください!」
マヤとプラーヤがまったく同時に、同じ言葉を口にした。
「ふん」
クインダルが鼻で笑い、二人の顔を交互に見た。
「フッ……ハハハハハッ!」
「何がおかしい!」
プラーヤが叫ぶと、クインダルはようやく笑うのをやめた。
「フフッ……小僧。おおかた『自分はどうなってもいい、だから姉を助けてくれ』とでも言おうとしたんだろう。お前も同じことを言おうとしたな?」
そしてマヤに視線を移すと口元を歪め、再び鼻で笑った。
「ふん、莫迦め。お前達の要求を聞き入れる必要が――」
「あります」
マヤの言葉に迷いはなかった。
「ほう?」
「私の名はマサキ=マヤ。タロス都市同盟軍では中央作戦部所属の少年幹部将校でした。弟と私を見逃していただけるなら……私達が軍で知り得た情報を全て提供します」
クインダルが考え込む素振りを見せると、マヤはプラーヤに小さく頷いてみせた。
「私と弟は数々の特殊任務に従事してきました。一般の将兵では知り得ない情報を――」
話し終える前に、赤く光る刃がマヤの胸を貫いた。
「あぐっ……?」
クインダルがハッとして後ろを振り返る。赤い影がマヤの影を飲み込み、血と同じ色の刃を突き出していた。マヤを押さえつけていた二人の兵士が息を呑んだ。
「た、大佐殿……!」
「いつまで遊んでいるつもりだ、クインダル」
遠ざかっていたはずの大佐がいつの間にかクインダルの後ろに立ち、見下ろしていた。
「姉さん……姉さん!」
目の前の出来事に言葉を失っていたプラーヤが、ようやく声を発した。
マヤの胸から刃が引き抜かれ、傷口から大量の血が噴き出した。
「……プラー……ヤ……」
マヤはゆっくりと前のめりに倒れ、血だまりの中で動かなくなった。その目は光を失いながらも、プラーヤを見つめていた。
「……そんな……! 姉さん……姉さぁぁん!」
「下がれ、クインダル」
絶叫するプラーヤの前に立った大佐が右手でサーベルを抜いた。
「よくも……よくも姉さんを……! 殺してやる……お前だけは、絶対に殺してやる!」
「少年よ、そこまで姉が愛おしいか。ならば、お前に姉を葬らせてやろう」
大佐は眉ひとつ動かさずにプラーヤの胸をサーベルで突いた。
「ぐはっ!」
そして無造作に傷口からサーベルを抜くと、左手で赤く光る握り拳大の球体を取り出した。
「これは高純度の魔力結晶から作った爆弾だ。旧時代のウラン爆弾と同等の威力がある」
大佐は一言添えると、その球体――魔力爆弾を胸の傷口へと近づけた。
「うぅ……な、何を……っ! ぐぁぁぁぁ!」
凄まじい激痛を伴って、プラーヤの胸に魔力爆弾が飲み込まれてゆく。傷口から噴き出した血が黒い炎へと変わり、音を立てて肌と肉を焼いた。
「お前の命はもって二時間。命が尽きると共にその爆弾も爆発する。姉だけでなく、この街で死んだ者全てをお前が火葬するのだ」
「くっ、くそっ……! あがぁぁぁっ!」
「この私――征討軍第十五遊撃旅団司令官・タルネルバ=オリアンからの、せめてもの情けだ。これから行く先で、姉と二人安らかに暮らすがいい」
憐みの言葉を口にする大佐――オリアンはあくまで無表情だった。
「ま……待て……! ぐぁっ……あっ! あぁぁぁぁ!」
埋め込まれた魔力爆弾は鼓動に合わせて膨張と収縮を繰り返し、全身に激痛が広がってゆく。黒い炎は消えることなく胸を焼き、あまりの苦痛に目の前が真っ白になった。都市同盟軍で拷問に耐える訓練を受けたプラーヤにとっても耐えられないほどの苦痛だった。
「クインダル。速やかに移動の準備をさせよ」
「はっ!」
オリアンをはじめ、征討軍の将兵は苦痛に悶えるプラーヤを一顧だにしなかった。
「くそっ、待て……! 待て、オリアン! 僕は、お前を……! お前をぉぉっ……!」
黒い炎が上半身に広がり、衣服が燃え始めた。地面を転がって消火を試みるが、炎は消えるどころか勢いを増すばかりだった。
苦痛のあまり、プラーヤが気を失いかけた時――一発の銃声が轟いた。
それを皮切りに、崩れかけた建物から散発的にソルカー銃の発射音が聞こえてくる。
「何事だ」
「申し訳ありません、大佐殿。まだ敵が残っていたようです。直ちに――」
「よい。各員、揺れに備えよ」
オリアンはクインダルの言葉を遮って銃声のする方向へ振り返ると、一振りのサーベルを抜き放って逆手に持ち替え、石畳の地面に突き刺した。
その影が赤く光るのと同時に再び大地が激しく揺れ、先ほどを上回る強い地震が街を襲った。
街の兵士達が立てこもっていた崩れかけの建物が忽ちにして倒壊し、周囲の廃墟が土煙を上げて崩れ落ちる。
激しい縦揺れに一般兵達が膝を着いて耐える中、オリアンは流れるような所作でサーベルを鞘に納め、音を立てて波打つ地面を悠然と歩き出した。
クインダルをはじめとした将校達が、その後に続く。征討軍の将校――魔法戦士達は誰一人として足取りを崩すことなく、その歩みからは激しい地震が嘘のようだった。
「ま……待て……! オ、オリアン……」
激震と轟音の中、遠ざかるオリアンの背中に憎悪の眼差しを向けながら、プラーヤは意識を失った――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「……えっ……?」
頬に触れる温かく柔らかな感触が、プラーヤを現実に引き戻した。
気がつくと、ナツキの顔がすぐ近くにあった。
「な……何を……って」
ようやくプラーヤは状況を理解した。ナツキが舌を出して自分の頬を――舐めていた。
「わぁぁぁっ!」
「ちょっと塩辛いです。これはもしかして、涙……ですか?」
驚いて飛び退いたプラーヤに、ナツキが不思議そうな顔で尋ねた。
「えっ……」
自らの頬にそっと手を伸ばす。濡れた頬の感触に、プラーヤはようやく自分が泣いていたことに気づいた。
「あなたは……悲しんでおいでなのですか?」
その言葉を聞いた瞬間、一気に涙が溢れ出た。
「うっ……うぅっ……! うぁぁぁぁぁぁ!」
プラーヤは傍らの少女の存在を忘れて、声を上げて泣いた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。どうして悲しんでらっしゃるのですか?」
膝を着いて泣くプラーヤの顔をナツキが横から覗き込んだ。
「うぅっ……うぐっ……姉さん……!」
「姉さん……? あっ、なるほどぉ。お姉様は亡くなられたのですね?」
悲しみに打ちひしがれるプラーヤが、ナツキの質問に答えるはずもなかった。
「理解しました。お姉様が亡くなったことを悲しんでらっしゃるのですね?」
それでもナツキは、俯いて泣くプラーヤに話しかけるのをやめなかった。
「今、どんなお気持ちでいらっしゃるのか、よろしければ教えていただけませんか?」
そして――ナツキから質問を浴びせられるうちに、プラーヤの胸に怒りが湧いた。
「教えていただけませんか。あなたはお姉様を――」
「……うるさい」
「はい?」
次の瞬間、プラーヤは立ち上がってナツキの胸ぐらを掴み上げた。
「聞こえなかったのか……! うるさいって言ってるんだよぉぉ!」
プラーヤの叫びと同時に、二人を取り囲むようにして黒い炎の壁が立ち昇った――!
「……伏せろ!」
プラーヤは反射的に、ナツキを庇うようにして地面に倒れ込んだ。
自分達を閉じ込める巨大な炎の壁――自然現象などではなく、魔法によるものと瞬時に悟った。
「魔法……! 征討軍か? いつの間に――」
「……怒り」
プラーヤに押し倒されたまま、ナツキがぽつりと呟いた。
「……え?」
「……激しい、怒り。わたくしは怒りを知っています。ですが……」
「何を、言って……ぐぅっ!」
胸に再び激痛が走り、プラーヤが力を失うのと同時に炎の壁が消えた。
「あーっ。大丈夫ですかぁ?」
ナツキはプラーヤの身体を受け止めると、とんとんと優しく背中を叩いた。
「今のは、魔法……? 一体、何が……ぐぁぁぁぁっ!」
激痛が全身に波及し胸から黒い炎が上がる。傷口に巻かれた包帯が一瞬で燃え尽きた。
「危ない、離れて!」
慌ててナツキを突き飛ばすと、プラーヤは全身を襲う苦痛にのたうちまわった。心臓が脈を打つ度に激痛が走り、身体が思うように動かせない。
「うぅっ……ぐっ、うぁぁぁぁっ……!」
――命が尽きると共にその爆弾も爆発する。この街の全てが炎に包まれるだろう――。
血液も沸騰しそうな苦痛の中、征討軍司令官――オリアンの言葉を思い出した。
「こ……ここにいちゃ駄目だ……! 早く……早く逃げろ!」
「逃げる? どうしてですか? そんなことより、その炎は魔法によるものですよね。早く消火して傷の手当てをしなければ」
ナツキは、きょとんとした表情で足元の黒いトランクに手を伸ばした。長さ一メートルは優にある大きさだった。
「僕のことはいい! 僕の身体には、魔力爆弾が……っ! 爆発する前に、街から逃げろ! うっ……ぐぁぁぁぁっ!」
ナツキは動きを止め、しばしプラーヤを見つめた後――。
「僕のことはいい……? あなたはそんなに苦しんでらっしゃるのに、ご自身が死ぬかも知れないというのに……わたくしの心配をしてくださるのですか?」
そう言って、優しく微笑んだ。
「なっ……なんでもいい! お願いだから、早く逃げてくれぇぇ!」
プラーヤの必死の訴えにもかかわらず、ナツキは一向に去る気配を見せなかった。それどころか、微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「やめろ……やめろ、来るな! このままだと、そっちまで……うぅっ!」
急激に胸の奥から込み上げるものがあり、大量の血を吐いた。まるでタールのように真っ黒で、炭のように苦かった。
「亡くなられたお姉様を思って涙を流すだけでなく、出会ったばかりのわたくしをそこまで心配してくださるなんて……あなたは、本当に優しい方なのですね」
「なっ……! 何を、言って――」
――本当に甘いわね、あなたは――。
マヤの言葉が脳裏に蘇るのと同時に、プラーヤの身体は温もりに包まれていた。
「あっ……」
気がつけば――ナツキの腕の中に閉じ込められていた。
「……決めました、プラーヤ様」
「き、決めたって、何を……! そんなことより、早く逃げ――」
それ以上、言葉にならなかった。ナツキはより強い力で抱き締め、身体を密着させた。
柔らかな胸に頬を乗せ、甘い香りに鼻腔を満たされ……プラーヤは、自然と目を閉じた。
――あたたかい――。
全身に走る激痛も、大切な人を失った悲しみも忘れてしまいそうな心地良さに、プラーヤはしばし時を忘れた。
「あれ……?」
ナツキの腕の中でプラーヤは気付いた。胸を焦がす黒い炎と、全身の痛みが消えていた。
「もう大丈夫ですよ、プラーヤ様」
ナツキが耳元で囁いた。相変わらず緊張感のない――優しく穏やかな声。
「僕は、一体……胸の爆弾は……?」
「プラーヤ様……あなたは魔法戦士になられたのです」
「魔法戦士……?」
プラーヤはハッとして自身の胸元を見た。大きく開いていた傷口が狭まり、七色に輝く魔力結晶がその中に見えた。
「これは、魔力結晶……?」
「あなたは魔力爆弾をその身に取り込んだのです。魔力をご自身のものとしたのです。今のあなたは、この街を焼き尽くしてなお余りある力をお持ちです」
ナツキは緊張感の無い笑みを浮かべているが、冗談を言っているとは思えなかった。
「魔力爆弾を、取り込む……? そんなことがあるわけ――」
「あります。あなたの怒りが魔力爆弾に打ち勝ったのです。現に、あの炎の壁はあなたの怒りと同時に現れたではありませんか」
それは、全く迷いのない口調だった。
プラーヤはそっと胸に手を当てようとして、思いとどまった。傷痕が凄まじい熱気を放っていたからだ。
「怒り……」
プラーヤはそう口にして、身体を大きく震わせた。
「……オリアン。タルネルバ=オリアン……!」
口をついて出たのは、姉――マヤを殺した男の名前だった。
自身を見下ろすオリアンの冷たい眼差しと共に――あの時の怒りと憎しみが蘇った。
――お前だけは、絶対に殺してやる!――
強く握った拳から零れ落ちた黒い血が炎となり、地面を焼いた。
――そうだ。僕は、姉さんの仇を――。
「あーっ、いけません。あまりお怒りになっては」
ナツキはプラーヤの拳を両手で優しく包み込んだ。不思議と痛みがすぐに止んだ。
プラーヤは地面を焦がす黒い炎に目を落とした。信じられないことが次々に起こった為か、細かい疑問をぶつける気も起こらなかった。
「……オリアン。それが、あなたのお姉様を殺した者の名前なのですね」
プラーヤはゆっくりと立ち上がって頷いた。
「そうだ。征討軍第十五遊撃旅団司令官――タルネルバ=オリアン……僕はあの男を、この手で殺して姉さんの仇を討つ。この力があれば……きっと」
「承知いたしました」
ナツキは満足げに微笑むと、突然プラーヤの前に跪き、両手を地面につけて頭を下げた。
「な、何を……」
「プラーヤ様。お願いがございます」
「お願い?」
ナツキは顔を上げ、プラーヤの目を見て微笑んだ。
「このわたくし――ナツキのご主人様になってくださいませんか?」
「……は?」
「ナツキはあなたのような方を探していたのです。悲しみを知る、強く優しい方を」
プラーヤは言葉の意味が分からず、しばし呆然とした。
「ご主人様……僕が?」
「はいっ!」
ナツキの晴れ晴れとした笑顔を前に、プラーヤは言葉を失った。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。プラーヤ様……いいえ、ご主人様っ」
恭しく一礼するナツキを、プラーヤは無言で見下ろした。
夕陽は地平線の向こうに沈み、傍らの黒い炎は消え――二人の姿はいつしか、宵闇の中に溶け込んでいった。
大戦によって全ての国家が崩壊し、魔法が科学に取って代わって数百年。人類が滅亡を免れたのと同様に、戦火もまた消えることはなかった。
化石燃料や火薬に代わるエネルギー源・魔力結晶を巡る資源争いから二百年に渡る戦乱が続く中央大陸では、魔法の軍事利用に成功し多数の魔法兵器と魔法戦士を擁する強大な軍閥――征討軍が急速に勢力を拡大していた。
一方、戦火に苦しむ人々に追い打ちを掛けるように謎の巨大生物――怪獣が各地に出現し、その人智を超えた力を以て街と人を襲い始めた。
戦火や怪獣の襲撃により幾多の街が滅び、夥しい命が失われても、人類同士の争いは止まず――かつて二度に渡り滅亡を免れた人類は、またしても滅亡へと向かっていた。
これは、そんな時代を生きる少年と、彼のメイドとなった少女の物語。
笑顔を忘れた少年と、涙を知らない少女の、冒険の物語。
地平線の彼方を目指し、少年は少女と歩む。
失ったものは取り戻せない。
だから、失ったものの為に命を捧げる。
死神はいつだって、すぐそばにいる。
復讐の旅は始まったばかり。
次回『荒野のふたり』
無芸大食の少女は、まだ涙を知らない。