表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

迷子旅

作者: 文丸

筆者の体験談です。

そう、体験談、ノンフィクション。

免許を取ってからというもの、ツーリングが趣味になった。


最近は夜中に気の向くままに走り続け、日が出たらたどり着いた所で食事処を探して食事をして家に帰る、という無鉄砲な「迷子旅」がマイブーム。


世間がクリスマスに浮かれているというこの12月24日の深夜も、俺は一人この「迷子旅」に出ていた。


このあたりは住宅街だろうか、やや広い道路に人気はなく、街頭も少ないが、見通しは悪くない。

スピードを出すのはポリシーに反する。何より深夜だ。静けさを楽しみながらゆっくりと走る。


真っ暗な中、自分のバイクのヘッドライトの明かりに浮かび上がる、周囲の真っ黒な住宅。

世界に一人っきりになったような、心細さと開放感が心地よい。


気持ちよく走っていると、前をゆっくりと、そしてふらふらと走る原付が割り込んできた。

酔っ払い運転なのか、今はやりの煽り運転なのか。


「おい、原付は左に寄せて走れ、危ないぞ。」


原付ライダーは聞こえているのか、聞こえていないのかわからないが、

スピードを落とし並走しだした。


「ふらふらとして、大丈夫か?」

俺は声をかけたが、原付ライダーは左前方を見据えたまま、ぼんやりと走っている。

飲酒運転か?止めてやった方が良さそうだ。

「おい…!」


強く声をかけると、こちらを振り向いた。

「あいつは…やべぇぞ!」

そういうと、原付とは思えないほどの加速で、右折し、路地に消えていった。


「なんだったんだ…やっぱり飲酒運転か…?あぶないな…」


気を取り直して、あたりを見回すと、まだまだ夜は深いというのに、左前方の商店街から、人の気配を感じる。


「田舎っぽいし、冬まつりでもやっているのかな?」


俺は吸い込まれるように商店街に向かう路地へと、入って行った。


「でさ、こうやったらリオモンが捕まえられたんだよ!」

数人の子供の声がする。

流行りのゲームの話で盛り上がっているようだ。


「あ、バイクだ、気を付けて」

しっかりしている。

子供は五人、小学生から、中学生ぐらいだろうか。

俺はバイクを止めて声をかけてみることにした。


「おにいさん、こんばんわ。」

「こんなところにいるなんて、お兄さん迷子?」

「なんでこんなところに来たの?」

口々に子供たちが話しかけてくる。


「うん、俺は迷子になったみたいだ、このあたりに駅か交番はないかな?」

結構走っただろう、場所を確認しておきたかった。

それに、この商店街は昼間ならそれなりににぎわっていそうだ、普通に遊びに来てもよさそうに思えた。


「上級生に聞いてみよう、ついてきて!」

子供たちは私を先導するように歩きながら、商店街の奥へと誘う。


しばらく歩くと、開けた公園、というには遊具の少ない、グランドが明かりに照らされていた。

その明かりを見た時、ふと思い出したのだ。


今は、深夜だ。

いくらなんでも、子供だけで歩いていていい時間ではない。

そして、子供たちは明かりがなくても、はっきりと見えていた。


「お兄さん?ドシタノ?」


気が付いてしまった。

子供たちは白いチョークを固めた、石膏人形のような姿をしている。

人ではないナニカだ。


「ありがとう、この公園を見たら場所を思い出したよ。

 このあたりは昔来たことがあったみたいだ。」

逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ。


「怖いの?コワイノ?」

子供たちの様子がおかしくなってきた。

怖い。

後ろは元来た道だ。右手に公園があり、そこにも石膏人形がたくさん動いている。

左手と正面に道が続いている。

左手の道は住宅街、正面は引き続き商店街のようだ。


迷っている暇はなさそうだ。

俺はすぐにバイクに乗ると、Uターンし、元来た道をがむしゃらに引き返した。


しばらく行くと、左手に開けた場所と明かりが見えた。

駅前のロータリーだろうか。


「あ、オニイサンダ!」


Uターンする。

しばらく走る。

右手に公園が見えた。

「ドシタノ?」


Uターンする。

しばらく走る。

左手に公園が見えた。

「ドシタノ?」


これはおかしい。


直進する。

しばらく走る。

左手に公園が見えた。

「迷子だって」


気にせず直進する。

しばらく走る。

左手に公園が見えた。

「ぐるぐる走ってるね、楽しそう」


おかしい。一切道は曲がっていない、直進している。

方位磁針も正常だ。

なぜ、ここに戻ってきているのだ。


「ワケガワカラナイヨ」


まだ、行っていない道が一本だけある。

公園が見えた。

公園の反対にある道を、住宅街への路地を入る。


しばらく走る。

やや急な坂道を登っていく。

振り返ると、眼下に公園があり、T字路となっていた。

それぞれの先は暗く見えないが、こうやってみると、何の変哲もない道と公園だ。


だが、戻る気力はもう、なかった。

周りを見回すと、明かりのついた屋敷があった。


どうやら、ここは私道だったようだ。

休ませてもらうにも、一応許可を取るのが筋だろう。


チャイムを鳴らし、屋敷の主が出てくるのを待つ。


インターホンから、声が聞こえる。

「こんな夜更けに、どうなされましたか?」

上品そうな男性の声に少し、緊張が和らぐ。


「すみません、ツーリングをしていたのですが、道に迷ってしまって…

 夜明けまで、駐車場で休ませてもらってよろしいですか?」


「それは、難儀ですな。

 どうぞ、リビングでよければ空いてますので、どうぞ。」

家の鍵が開き、ドアが開いた。



気が付くと、私は自宅の布団の中で丸くなって寝ていた。

「…夢か。バイクで走るのって、やっぱり楽しそうだよな。やっておけばよかった。

 でも、怖い夢だったなぁ」


マニュアルの免許を持っていたが、上京してからは車に乗る事がなく、車も維持費がもったいないので手放した。

原付に乗って通学していたが、それももう、10年近く昔の話だ。


「まだ5時じゃないか…トイレにいって二度寝しよう。」

寝室の左手にある階段の電気がついている。

夢で見た屋敷の明かりの色と同じ色だ。

そうか、自宅の安心感が夢の中で屋敷として出てきたんだな。


そう思いながら、とて、とて、と階段を下りて、気が付く。

うちは、平屋だ。


階段のすみで、蜘蛛の巣に目が行く。

その蜘蛛の巣には、小さな公園と、糸に覆われた子供たちが囚われていた。

こそこそと離れていくアリが一匹。


そして、最後に囚われた虫が力尽きようとしていた。

これを書いている今も、まだ「俺」なのか「私」なのかわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ