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少年イサラ  作者: 森島小夜
6/13

 地球外生命体XXが、地球に降り立ってからひと月が過ぎようとしていた。政府(彼等)は、我々が提出した資料を元に、XXを絶滅すべくあらゆる実験を繰り返していた。そして、ついに政府(彼等)はXX専用の、レーザー銃を作り出すことに成功した。この透視機能付きレーザー銃は、XXに寄生されている人間と、そうでない人間とを見分けることが出来た。

特殊部隊の総司令官は、ザイラスを部屋に呼びデスクの上に置いた銃を(三つの)取る様にと言った。

「この銃は、XX専用のレーザー銃だ。この銃は人間の体をスキャン出来る様に作られている。体内にXXを見つけたら、直ちにこの銃で殺せ。相手が、誰であってもだ」

デスクの上に置かれた銃を目にして、ザイラスは言った。

「銃は三つしかありませんが」

総司令官は、顔をにやけつかせながら「これは貴重な銃なんだよ。殺すも殺さないも、銃を手にした者次第ってことだ」と言って、銃をザイラスに向けた。

ザイラスの頬が一瞬、ぴくりと動いた。

「言っておくが、この銃はXXに支配された者にしか反応しない。よく出来た銃だ」

そう言った後、総司令官は銃をデスクの上に置いた。この銃を使う時は、認識番号の二文字を打ち込む様に。総司令官はそう言って自慢の口髭を、ゆっくりと撫で回した。



 総司令官に呼びだされたザイラスが部屋に戻って来ると、窓辺に立っていたサルマンが振り向いた。

「それは、何ですか?」

サルマンが近寄りながら言った。

「この銃を人間(ひと)にかざすと......体内に潜んでいるXXを、見つけることが出来るらしい。XX専用透視機能付きレーザー銃だ......」

「この......棒の様な物がですか?」

サルマンはデスクに置かれた銃を手に取ると、スイッチがないかと捜し始めた。

「認識番号の二文字を打ち込むと、銃が使える」

ザイラスは、サルマンを見ずに言った。

サルマンが番号を入力すると、たった今まで眠りについていた銃が、手の中で赤い光を放った。

政府(彼等)は......我々に()()()使えと......?」

「ああ......そうだ」ザイラスが言った。



 我々が恐れていた通り、彼等はXXに寄生されている人間を、次々に殺していった。

特殊部隊の(情け知らずの)活躍によりXXの被害者は急激に、その数を減らしつつあった。ところが────

ひと月もすると、XXの犠牲者達は減少するのをやめ、徐々に数を増やし始めた。それの意味する所が何なのか────

ザイラスは深刻な壁にぶち当たった気分でいた。ザイラスは葉巻に火を付け、いつもの様に窓辺に立った。そして、何がXXを増やす原因となっているのだろうかと、考えを巡らせた。


 数日後、ザイラスは総司令官の前に立っていた。「君等に新しい任務を与えよう」と総司令官が言った。

「サハラ砂漠へ向かって、イサラという少年を捜しだしてくれ。三日後には出発だ」と総司令官は、ザイラスに背を向けながら言った。



 「サハラ砂漠ですか?」サルマンが驚いた顔で言った。

「イサラという名の少年を捜しだすのが、我々の任務だ」ザイラスが言った。

「イサラとは何者ですか?」

「よくは分からんが......イサラを見つけ出して、我々はイサラからXXに関する情報の全てを聞き出す......政府(彼等)は、イサラがXXを倒す鍵を握っていると、考えているらしい」

「我々だけってことはないですよね?」

「勿論だ。部下達も全員サハラ砂漠へ向かう」

「ザイラス......その手に持っているのは?」

ザイラスは、自分の手の中にあるワクチンに目を落とした。

「これは、XX専用に作られたワクチンだ。まだ試作品だがな......」

「試作品を渡されたんですか?」

「ああ、そうだ」ザイラスは答えた。


 「サルマンこれは、君が持っていてくれ」

ザイラスはワクチンを、サルマンの掌の上に置いた。

「二人分......ですか?」

サルマンが顔を曇らせた。

「ああ......そうだ。二人分だ」

このワクチンを、寄生された人間に投与すると、体内に潜んでいるXXだけを、殺すことが出来るらしい、とザイラスは言った。

だが、このワクチンには幾つかの落とし穴があった。ワクチンを投与された人間が、なんらかのアレルギーを起こした場合、死ぬこともあった。ワクチンを打たれた為、体内に潜むXXが拒絶反応を起こし、寄生された人間がおかしくなった(ケース)もみられた。

「危険な......ワクチンですね」

サルマンが神妙な顔で言った。

「まだ未完成のワクチンだからな。だが体に適応すれば、XXだけを殺せる............」

「ええ......確かに......」




 三日後、ザイラス達はサハラ砂漠にいた。(ジープ)の後部座席に座った、部下の一人が砂嵐に悪態をついた。

「砂漠に砂嵐はつきものだ。その為にここに住む()()()()は、常に顔を布で覆っている」

そう言った後、運転席にいたサルマンは首に巻いた布を口まで引き上げた。

彼等は後からやって来た四人と、用意された宿に居を構え、砂漠の民の唯一の生き残りとされるイサラと、妹のラシアを捜しだす為に早速行動を開始した。

 サハラ砂漠に着いてから一週間。何の手がかりもないまま、砂漠に幾度もの夜が訪れた。

五人の部下達は(ミンガムを除く)何もない砂漠の昼と夜に、飽き飽きしていた。

「こんな所に、人が住めるなんて思えないな」

部下の一人が、ぶつぶつと独り言を呟いた。

「イサラとラシアの家族は、この辺りで暮らしていたはずだ」

ミンガムが指さした場所(さき)に、砂漠のオアシスと呼ばれる泉が見えてきた。

 この突如として現れたオアシスを目の当たりにして、若者達は一瞬だけ声を失った。

だが直ぐに、ミンガムの周りで歓声が上がった。

「これは奇跡だ!」

部下の一人が、興奮した声で言った。

「木や草も生えているぞ!」

「なんて......美しいんだ......」

「まさにオアシスだ......!」

「オアシスが現れたことが分かれば、いずれこの場所に、二人はやって来る」

ミンガムは満足そうな声で言った。


 部下の一人、ダンが泉の水をすくって仲間にかけた。部下達は嬉しそうな奇声を上げると、次々に水をかけ始めた。

「水を粗末にするな。これは......砂漠の命の泉だ」ミンガムが言った。

ダンはミンガムを見ると肩をすくめ「はい隊長殿!」とおどけた顔で言った。

ミンガムの後ろで、笑い声が起きた。ミンガムは気にする様子も見せずに、泉で暮らす砂漠の民に、心をはせていた。


 数時間後、別のオアシスにイサラの痕跡を見つけたミンガムは、そのことをザイラスに告げた。

「よくやったミンガム。明日、私と君とサルマンとで、その場所に向かう。」

「はい......隊長」

ミンガムは隊長に敬礼をした後、数秒その場で立ち止まった。

「どうした?もう行ってもいいぞ」

「はい隊長」

ミンガムは〝どうしてぼくなんだ〟と言いかけた言葉を咄嗟に飲み込み、急いでその場を後にした。

翌朝、ザイラスはサルマンとミンガムの二人を連れて、泉が出現した場所へと向かった。


 砂漠に降って湧いた様な、泉の周りには緑の葉が生い茂っていた。

「これは......素晴らしい。ここは本当に砂漠なのか?ミンガム、こっちへ来て水に触れてみないか。泉の水は冷たくて気持ちがいいぞ」

隊長(ザイラス)はミンガムに笑顔を振りまいた。

「............」

ミンガムは冷やかな顔で、ザイラスを見つめた後、二人から遠ざかって行った。


 「やれやれ。戦士(我々)にも、休息が必要なことを(サルマン)からも(ミンガム)に言ってやってくれないか」

ザイラスはすぐ横にいたサルマンに言った。サルマンは聞こえなかったふりをすると、手ですくった泉の水を口に含み、味わう様に飲みこんだ。

その時、泉の向かい側に茶色い布で顔を覆った少年の姿が、サルマンの目に写った。

「......イサラだ......」

サルマンが押し殺した声で言った。

「驚かすんじゃないぞ」横からザイラスが言った。

イサラの姿に気付いたミンガムが、斜め向かい側にいる二人に合図を送った。サルマンは〝そこを動かない様に〟とミンガムに合図を送り返した。

ザイラスは、イサラに優しい笑顔を向けて敵意がないことを示す為両手を掲げた。

そしてイサラに向かって、片手をゆっくりと振った。イサラは疲れた顔をしていてイサラの伸びた黒い前髪が、緑の瞳を半分隠していた。

しばらくするとイサラは、自分から彼等の元近づいて来た。

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