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少年イサラ  作者: 森島小夜
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 細菌防止マスクを付けたサルマンとミンガムの二人は、一軒一軒の家のドアを叩き、その後変わったことはないかと声をかけて回った。

「地道な作業ですね」ミンガムがぼそりと呟いた。

「我々の任務は、この街の調査をすることだ。君は何か特別なことを、期待していたのか?」

サルマンのめが笑っていた。

「別に......何も」

「そうか。期待が外れて、がっかりといった顔に見えるが」

「......」

ミンガムはサルマンを一瞥すると歩を速めた。サルマンが農夫の妻の家を通り過ぎようとすると「この家は良いのですか?」とミンガムが言った。

「ここはいいんだ......」

通り過ぎようとしたサルマンを、家から出てきたメアリが大きな声で呼びとめた。サルマンに向かってメアリが、手招きしているのが見えた。

「呼んでますよ」

ミンガムが笑いを噛み殺しながら言った。


サルマンとミンガムを招き入れると、メアリは急いでドアを閉めた。

「マイアミへは、行かなかったのですね」

「ええ......主人に食事を作ってあげないといけないし......それに......」

「そうですか」

ミンガムは不思議そうに、二人の会話を聞いていた。

「あらっ?あなた、この間いらした方に目元がそっくりね」

「彼は、ザイラスのご子息ですから」

「まぁ......通りで。優しそうな所が、あの方によく似ているわ」

ミンガムは苦笑いを浮かべ、サルマンに一瞥をくれた。メアリが、お茶を入れる為キッチンへ引っ込むと、ミンガムは早速話をきりだした。

「ぼくが隊長の息子だと、いつ知ったんですか?」ミンガムが言った。

「それより、誰に聞いたのか訊かないのか?」

()()()に......決まってるじゃないですか」

「あの人とは、隊長(ザイラス)のことかな?」

「ぼくは、回りくどい話し方は嫌いなんで、はっきりと言ってもらえませんか」

「これは失礼!流石隊長のご子息」

サルマンが笑い声を上げた。


「あらあら、二人して何だか楽しそうね」笑い声を聞くのは久しぶりだと、メアリは幾分元気のない声で言った。

メアリは、両手で抱えたトレーをテーブルの上に置くと、サルマンに紅茶とクッキーをすすめた。

「隣家の人達とはうまくやれていますか?」

メアリは、サルマンに肩をすくめてみせた。

「あれから一度も、顔を見てないのよ」と言って、メアリはサルマンに微笑んだ。

「そうですか」

サルマンは悲し気に頷いた。

メアリは、ミンガムにクッキーをすすめながら「あなたは、随分若く見えるけどお幾つなの?」と訊いた。

「......十七です」

「まぁ......あなたの様な若い人を、こんな所へ寄こすなんて......あなたのお父さんは随分と酷い人の様ね」

ミンガムは一瞬、眉をひそめた。

サルマンは、ミンガムの一瞬の動きを見逃さなかった。

「彼の父親のせいではなく、これは政府の命令なんですよ」サルマンが言った。

「まぁっ......何てこと......あの人達は事の重大さにまだ気付いてないのね......」

「そうでもないですよ。気付いているからこそ、我々を()()()再び寄こしたんです」

サルマンの言葉に、ミンガムは「ぞくっ」とする衝撃を覚えた。

ぼくの知らない所で、何かが起きているのは確かだ。なのに......ぼくはそれが何なのかを知らない......誰も本当のことを(真実を)教えてくれないからだとミンガムは思った。


 「お願いです。この街で本当は何が起きたのか、教えて下さい。ぼくは......本当のことが真実が知りたいんです......」

「ミンガム......!」

「ええ、いいですよ」

でもその前に、お茶とクッキーを召し上がれと、メアリは言った。

サルマンとミンガムは、細菌防止マスクを外した。




 数日後のこと。

ザイラスは窓辺に立ち、いつもの様に葉巻をくゆらせていた。サルマンが窓を開けようとして腕を伸ばした。その手を、ザイラスの手が止めた。

「用心にこした事はない。風と一緒に(ともに)、XXが部屋へ侵入してくるかもしれん......」

「そうですね」

政府(彼等)はやっと、アイダホ市民の、いや、国中の気付き始めたようだ」

「やっとですか」

「ああ、やっとだ」

「地球上のあちこちで、謎の現象が起きているというのに......呑気なもんだ......」

「そうではないかもしれんぞサルマン」

「......彼等は最初(はじめ)から、気付いていたと?」

「可能性は......大いにある」

「我々が、情報を提供するのを待つ気なんですかね?」

サルマンは落ち着かな気に、デスクの周りをうろうろし始めた。

「これ以上......秘密にする必要は無いのでは?我々二人で、全人類を守るなんてことは出来ないですからね」

「君が、スーパーマンなら出来ただろうがな」

「あなたが、そんなジョークを言える人だとは思わなかった」とサルマンが言った。

「では、私はどんな人物かね?」

「あなたは、あなたですよ」

サルマンは苦笑いを浮かべながら言った。


 「私が......もっとも恐れているのは......政府(彼等)がXXに寄生された人間を、見分けることが出来る様になったら......皆殺しにするだろう......ということだ」

それだけは、どうしても避けたいのだとザイラスは言った。

ではそうならない様、不利な情報だけを(政府の目から)隠すのは?とサルマンが言った。


 「君に、任せようサルマン」

ザイラスからぬ発言に、サルマンは疑問を抱き始めた。あなたは本当に、支配された人間を、ひとりも殺さずXXだけを絶滅出来ると考えているのですか?ザイラス隊長......あなたは何故、やめたはずの葉巻をまた吸い始めたのですか?

サルマンは思わず身を震わせた。

まさか......あの時ザイラスは............



 「サルマン......私は変わったかね?」

不意を突かれたサルマンは、目を見開くと「いいえ......あなたは、いつものあなたです」と言いながら、目を泳がせた。

「君は正直な男だ。私が唯一信用できるのは......君だけだ。私に何かあったらミンガムを頼む......あれは、君とは気が合いそうだからな」

「......何かとは......どういう意味ですか?」

「君も私もXXに、寄生されている可能性があるということだよ......」

ザイラスの一言は、サルマンの心を凍りつかせた。

ザイラスは、とっくに気付いていた!?

「可能性の問題だよ。あの時、君と私はあの場にいたのだから、寄生されている可能性は充分にある。ということだ......」

「あなたは私のことを......無口な男だと言ってましたよね」

「ああ、そうだよ。君は寡黙な男だった」

「だった......ですか?」

「そんな気がしてただけだ。何の根拠も無い。君は自分のことを寡黙な男だと思っているのかね?」

ザイラスが訊いた。

「よく分かりません......あなたに言われると、そうだった様な気がするだけで......私には自分がどう変わったのかは、分かりません......」

「そんなものだよサルマン。自分のことは自分より他人の方がよく知っている。だから君は......私のちょっとした異変に気付いたのだろう?」

「ザイラス......あなたは......」

ザイラスは再び、サルマンを凍りつかせた。

ザイラスは目を細めながら、サルマンを見つめた。

「そのうち政府(彼等)は、XXを殺す為の薬なり銃なりを、手にすることになるだろう」ザイラスが静かに言った。

そうなれば......彼等は手段を選ばない......XXに寄生された人間は、皆殺しにされるだろう。

そうなれば我々も......?

もしかすると......ミンガムも......?

ザイラスは、そう言いたいのだろうか?

「そう、浮かない顔をするなサルマン」

「それは......無理な話です。あなたはミンガムのことも疑っているんですか?」

「マスクをしていたとはいえ、ミンガムも君と一緒に、あの場所へ足を踏み入れたのだから......可能性は充分にある」

サルマンは恐れていた(可能性を)目の前に突きつけられて、激しく動揺した。


 ザイラスは小刻みに震えるサルマンの肩に手を置き「こんな時こそ、スーパーマンがいてくれたらと、思わないかサルマン」と言った。

サルマンは笑いだしそうになった。

「ダスト(XX)が相手じゃ、流石のスーパーマンもお手上げですよ。でも、スーパーマンがいてくれたら......嬉しいですね」

サルマンはそう言って、ザイラスに微笑みかけた。

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