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少年イサラ  作者: 森島小夜
3/13

 アイダホでの調査を終えた二人は、アイダホで起きた謎の現象を────とある場所で謎の細菌が散布され空気が汚染された────と政府に報告した。

政府は、アイダホに住む市民を一時的に避難させることに決めた。だが、特定の場所に住むアイダホ市民は、州の外へ出さない様にとザイラスに言った。

数日後、政府は謎の細菌から身を守る為に外出する際は()()()()()()()を付ける様にとアイダホ市民に呼びかけた。

そのマスクのおかげで、沢山の市民が謎のウイルスから身を守ることが出来た。しかしマスクを付けるだけでは、何の解決にもならないことを、ザイラスとサルマンの二人は知っていた。

地球外生命体は、市民の知らない所で確実にその数を(全世界で)増やしつつあったからだ。

サルマンは、窓辺で葉巻をくゆらすザイラスの側へ近寄って行った。

「これで良いのですか?すぐに......真実(うそ)がばれてしまいますよ。政府の連中に」

「その時は......その時だ。今はこれが最善の方法なんだよ」ザイラスは眉をひそめた。

「......」サルマンも眉をひそめた。


 もし、目に見えない程小さなダストの様な生き物が、空気中を漂っているとしたら?それがウイルスではなく、未知なる生命体だとしたら?だとしたら......この未知なる生命体には謎が多すぎる────

市民に未知なる生命体(我々が名付けたXXの正体)を隠すことが、ザイラスの本当の目的だった。


 ところが、ザイラスの思惑はすぐに政府に知れることとなった。ザイラスとサルマンの二人は、政府率いる特殊部隊の総司令官に呼びだされた。二人が総司令官の部屋に入ると、総司令官はその角ばった顔にうっすらとした笑みを浮かべると灰色がかった目をザイラスに向けた。

「ザイラス。君の考えを否定するつもりは私にはない。だが、偽の報告書を提出して我々を(政府を)欺こうとした罪は重い。罪はきっちり償ってもらう」

特殊部隊の総司令官は、自慢の口髭を指で撫でつけながら、ザイラスに言った。

「そこでだ。君等には、これから永遠に(XXが絶滅する日まで)政府の為に(私の下で)、働いてもらうことになった。何か訊きたいことがあれば今ここで、私に言いたまえ」

ザイラスは総司令官の顔を見て微笑むと、「サルマンを任務から外していただきたい」と言った。

サルマンは驚いて、ザイラスの顔を見た。

「外さなくても良いですよ隊長。私にも、XXを絶滅すべく全力を尽くす覚悟は出来ています」

サルマンの言葉に、総司令官が右頬をぴくりと動かした。

「XXと言ったかね?」

「XXとは、私が付けた謎の細菌の名称です」と横からザイラスが言った。

「まぁいい......だがこれ以上、我々(政府)を出し抜こうと思わんことだな」


 ザイラスはサルマンに顔を向けると「君が側にいてくれると私も心強い」と言って肩に手を置いた。二人の背後で、ドアをノックする音が聞こえた。

総司令官が声をかけると、数名の若者達が部屋の中へ入って来た。


 「ザイラス。ここにいる五人の若者達は君の部下だ」と総司令官が言った。

私の選んだ優秀な部下達を、どう使うかは、君の腕次第だと、顔をにやつかせながら言った。ザイラスは若者達の中に淡い金色の髪をした若者の顔を見てその若者がミンガムだということに気付いた。

ザイラスの視線に気付いたミンガムが、ぴくりと頬をひきつらせた。

ミンガム......どうしてお前がここに......?ザイラスは思わず顔を歪めた。

「ザイラス隊長と、サルマン副隊長に敬礼を!」五人の若者達は、敬礼をして部屋から出て行った。

「君達には、引き続きアイダホの調査をしてもらうことにする。他に何か訊きたいことは?」

ザイラスとサルマンの二人は、総司令官に敬礼をして部屋を出た。


 ザイラスは自分の部屋に入るなり、深々と椅子に腰かけた。後からやって来たサルマンが、窓のカーテンを開けた。

「どう見ても、十代の少年達ばかりでしたね」サルマンが言った。

「うむ......」

「我々に少年兵を押しつけて......政府(彼等)は何をさせる気ですかね」

「くそっ......ミンガム......」

「くそっですか?あなたらしくない言葉ですね」サルマンが言った。

「ミンガムは......私の息子だ」


「......やられましたね」サルマンが言った。

「彼等がやりそうなことだ」ザイラスが言った。

「我々を完全に監視下に置くつもりですね、彼等は」サルマンは苦笑いを浮かべた。

「私が彼等の立場なら......同じことをしただろうな......」

ザイラスは木箱の中から葉巻を一本取り出し火を点けると、いつもの様に窓辺に立った。

「彼等が我々に、アイダホの調査を任せたのは意外でしたね」

「そうか......」

「彼等は、我々のことをまだ疑っているんでしょうか?」

「そうかもしれんな......」

「彼等は、我々がまだ何か隠していると考えているんでしょうか?」

「君はもう少し、無口な男だと思っていたんだが......」

ザイラスは葉巻を口にくわえながら言った。

「ぼくは、何も変わっていませんよ」

「なら......いいんだが」

「あなたこそ、どうしてまた葉巻を吸う様になったのですか?」

「君はどうしてそんなに、私が葉巻を吸うことに拘るのかね?」

「......単なる好奇心からです」

サルマンは幾分不満気な顔でザイラスを見た。

「君も、葉巻を吸ってみるかね?」

「結構です」

サルマンは間髪いれずに答えた。


「君は......まだ若いな。君はどこか私の息子に似ている」

「ミンガム......ですか?」

「そうだ。ミンガムの顔を見たのは......十数年ぶりだったが、私にはすぐ分かった。あれは妻に良く似て......優しい顔をしているからな」

ザイラスはため息をつくと同時に、煙を口から吐き出した。

「訳あり......ですか」サルマンが呟いた。

「多かれ少なかれ、我々は多少なりとも訳ありな人生を送っている......そうじゃないか?」

サルマンが窓を開けると、風が部屋の中に入りこみ、煙がゆっくりと外へ出ていった。


 「あの時の、農夫の妻はアイダホを離れたと思いますか?」サルマンが訊いた。

「気になるのかね」

「いえ......ただの好奇心からです」

「私にも分からんよ。あの奥さんは、情の深そうな顔をしていた......まだ夫の側(アイダホ)にいるかもしれんな」

「いてくれないほうが嬉しいのですが......」

「私もだよ。XXの被害に合ってしまったら、あのきらきらした瞳は失われてしまうだろうからな......」

「そうですね......」

「そうならないことを、私は祈っている」

「あなたの祈りが、届くと良いですね」

サルマンはそっと呟いた。


 翌朝早く、サルマンとミンガムの二人は、再び調査の為アイダホへ向かった。


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