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少年イサラ  作者: 森島小夜
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ⅩⅡ

 ミンガムは砂漠を離れる時一度だけ振り返った。そこにあるのは、そこに見えるのはどこまでも広がる砂。砂の山だけだったがミンガムの心の中は、淋しさでいっぱいになった。

暑すぎると、砂漠に悪態をつき続けていた部下達でさえ、砂漠を後にする時振り返り別れを告げた。

数日後。総司令官から、クビを言い渡されたザイラスとサルマンの二人は、相変わらず部屋の窓際に立ち、外の景色を眺めていた。

「結局......我々は何の為に砂漠まで行かされたんですかね」

「政府は──我々のことが邪魔だった。そこで〝イサラを探し出せ〟と命令して、砂漠へ追いやった。それだけのことだったのかもしれんな──」

「だとしても、こうもあっさりクビになるとは」サルマンがイラつきながら言った。

「願ったりじゃないかサルマン。まさか君は、この仕事に未練でもあるのか?」

「まさか。ですが、我々のことを利用しようと思えば、もっと利用出来たはず......なのに簡単に手放しすぎだとは思いませんか?」

「君は、この仕事が向いているようだな」

「とんでもない。総司令官の様な男の元で働くのは、もうこりごりですよ」

「そうか。では君は今後、どこで働くつもりなんだ」ザイラスが言った。

「まだ決めてませんよ。クビにされたばかりですから」

「そうか。君はクビにされたことが悔しくて、イライラしているんだな」

ザイラスに痛い所を突かれたサルマンの顔が一瞬赤くなった。

「ほぉ、君は冷静な男だとばかり思っていたが──自尊心を傷つけられるとどうやら感情的になるらしい。だが、XXに寄生された人間は......感情の表現が乏しくなる。サルマン君は、実に人間だな」

「ザイラス。あなただってそうですよ」

「たとえ......ワクチンがあったとしてもだ何の解決にもならんだろう。まさか......イサラが二人いたとは──思ってもみなかった」ザイラスが顔を歪めた。

「イサラが二人いたことは──我々だけの秘密にしておかなければと、思うのですが」

「ああ、そうだな。他に知っているのはミンガムだけかサルマン」

「ミンガムは、誰にも話したりしないでしょう。イサラを守る為なら、何でもしますよミンガムは」

「きみは随分、ミンガムのことを分かっているようだなサルマン」

「それは、ジェラシーだと思っていいですか」

「勝手にしたまえ」ザイラスは咳払いをして窓から離れた。サルマンもコーヒーを淹れる為、窓から離れた。

「コーヒーでもどうです?」

「ああ。美味いコーヒーを頼む」

「私の淹れるコーヒーはいつでも美味しいですよ」

「そうだったな。では特別に美味いコーヒーを頼む」

「了解ですザイラス」



 数年後──

世界中を震撼させたXXは、その正体を突き止められないまま、謎の生命体として片づけられ、いつしか人々の記憶から遠のいていった。

だがXXは、人々が忘れつつある中密かに人間の中で隠れ続けていた。政府は、XXを完全に滅ぼすろが無理だと気付き、人々がXXの存在を忘れてしまうことの方を選んだ。


 数日前の、サハラ砂漠でのこと。

ラクダの背に乗った観光客の一人が、砂嵐に巻き込まれて危うく死にかけた。

そこで、妹を捜して歩く一人の少年に出会ったと、その観光客は語った。

ミンガムがその話を聞いたのは、任務を終えた帰りに立ち寄った店の中でのことだった。

「その少年の名前は......!?」

「イサラ、とか言ってたっけ」

「......イサラ......」

そうか、イサラはまだ妹のラシアのことを、ラシアを捜し続けているのか............

ミンガムは、イサラのことを想うと胸が絞めつけられる思いだった──

イサラ君は......ラシアを、死んだことをまだ受け入れられずにいるのか......

イサラ......可哀想なイサラ......君の力になりたいのに、ぼくは何もしてやれない。

ぼくは何もしてやれない────

────イサラ────


 その日の夜。ミンガムは初めて、サルマンに連絡をした。イサラのことを話せるのはサルマンしかいなかったからだ。

「ミンガムなのか......!?」ミンガムの耳に、サルマンの驚く声が聞こえた。そしてサルマンの側で、耳慣れた声が聞こえてきた。

ザイラス......隊長。

ミンガムがイサラのことを伝えると、サルマンの優しい言葉が返って来た。一瞬だが、ミンガムはサルマンの優しさに触れて救われた気がした。


 電話を終えたサルマンが笑顔で振り向いた。

「今のは、もしかしてミンガムなのか?」

「よく分かりましたねザイラス」

「君は、あの子(ミンガム)の扱いが上手いからな」

「ザイラス。三人で食事に行く約束をとりつけましたよ」

ザイラスが何も言わずに微笑んだ。

「そうか──」ザイラスが頷いた。

「それだけですか?もっと喜んでもらえると思ってました」

「君は、分かっとらんなサルマン」

ザイラスがにやっと笑った。

「コーヒーを飲みたい気分では?」

「では特別に美味いコーヒーを頼む」

ザイラスとサルマンの二人は、コーヒーを片手に窓に近寄り、遠く離れた異国の地で砂漠をさ迷う少年のことを想った。

ミンガムもまた、貝の化石を見る度に砂漠で出会った少年のことを思い出す。


 そしてイサラもまた、独りラシアを捜して砂漠を歩いて行く──

どこまでも──どこまでも............

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