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少年イサラ  作者: 森島小夜
11/13

 遠ざかる泉の周りで、陽炎が揺れた。

やがて、青々とした緑に囲まれた泉の周りが、見渡す限りの砂地へと変わった。

走りだす(ジープ)が点になり、誰もいなくなると、ラシアの中からもう一人のラシアが生まれてきた。

「ラシア......?!ラシアなのか?」

「......兄さん」

「ラシア......行こう新しい泉を捜しに」

ラシアが頷いた。

「......兄さん」

イサラはラシアの手を繋ぎそして〝奇跡の泉〟を目指して歩き出した。

小さな砂嵐が、倒れているもう一人のイサラを覆い隠した。砂嵐は死んでしまった()()()()()()()()も覆い隠した。

二人はもう......誰の目にも触れることはないだろう。



 サルマンの運転する(ジープ)が宿の前で停まると、部下のトマスとダンの二人が、駆けつけて来た。サルマンは運転席から降りると、後部座席のドアを開けた。

「ザイラス隊長!!」

気を失っているザイラスを見て、トマスが声を上げた。

「心配するなトマス、ダン。隊長は気を失っているだけだ」

「何があったんですか、サルマン副隊長」

「そのことは後で説明する。ミンガム、隊長を部屋まで運ぶので、手伝ってくれ」

「ぼくが手伝います!ミンガムよりぼくの方が力がありますので」

サルマンに呼びとめられて、足を止めたミンガムは、部下の一人ダンにチラッと視線を投げかけると、そのまま行ってしまった。


 「ではダン、ザイラス隊長を運んでくれ」サルマンが言った。

ザイラスを部屋に寝かせたサルマンは、ダンに描くじ部屋で待機する様にと言った。それからミンガムを、私の部屋に寄こす様にと。

「サルマン副隊長。何故ミンガムを!?それに......イサラの姿が、見当たりませんがイサラはどこに?」

「ダン!部屋で待機する様に言ったはずだ」

「はっ。サルマン副隊長失礼します」

ダンはサルマンに敬礼すると、部屋を出た。

その時ザイラスがうめき声を上げた。

「サルマン......いったい何があった?」

ベッドの上に起き上がろうとするザイラスを見て、サルマンが近寄って来た。

「気がついたんですね」

「サルマン!?私は何故部屋で寝ている」

「あなたは丈夫な人だ。試作品のワクチンを打たれても死なないとは」

サルマンが笑みを浮かべ、からかう様に言った。

「そうか!私は......」

ザイラスは、一瞬言葉を失いサルマンを見つめた。起き上がろうとする、ザイラスをサルマンが止めた。

「まだ寝てた方がいいですよ」

「いや、私なら大丈夫だサルマン。起き上がるので手を貸してくれ」

「やはり寝てた方が」


 「サルマン......イサラはどうなった?」

「イサラは......」

ザイラスには、XXに支配されていた時の記憶が無いのだろうか。サルマンは慎重に言葉を選び、ザイラスに訪ねた。

「あなたは、あの時ミンガムに、イサラを殺せと命じたのを覚えていますか?」

「この私が......?」

やはり覚えていないのか......サルマンが心の中で呟いた。

「我々のイサラを、殺せと言ったのか?それでミンガムは......イサラを殺したのか......?」

「いいえ。ミンガムは、あなたの命令には従いませんでした......」

「では、イサラは生きているんだな」

「はい。ですが......ラシアは死んでしまいイサラをもう一度見つけ出すのは、難しいでしょう」

「ミンガムでもか......?」

サルマンはザイラスを見て、首を左右に振った。そこへ、サルマンに呼ばれたミンガムがやって来た。ミンガムがドアを叩くと、部屋の中から、ザイラスの声が聞こえてきた。


 「ザイラス隊長......気がつかれたんですか」ミンガムが心配そうに訊いた。

「心配するなミンガム。私なら大丈夫だ」

ザイラスは、ミンガムに笑顔を向けたままで沈黙した。

「用が無いのなら......失礼してもいいでしょうか」ミンガムが言った。

「いや、用ならあるぞミンガム」

「......」

「よくやったミンガム。礼を言うぞ」

「ありがとうございますザイラス隊長。ですが......言ってる意味がよく分かりません」

「お前が〝我々のイサラ〟を殺さなかったことに礼を言っている────」

「イサラを、逃がしたのにですか?」

「ああ、そうだ。心配するなミンガム、イサラはもう自由だ」

「ザイラス隊長......」

「行ってもいいぞミンガム。それと、イサラは......砂漠で死んだと部下達に伝えてくれ」

「それで良いんですか......あなたは!?」

「ああ、構わんよミンガム」

「では......失礼しますザイラス隊長」

ミンガムは、静かにドアを閉めてザイラスの部屋から出て行った。

「ほんとに良いんですか?イサラが死んでないことが総司令官にばれたら、大変なことになりますよ」

「サルマン。君もミンガムと同じことを訊くんだな」

「それは──」サルマンは不満気な声を出した。

「ばれはしないさ。イサラは見つからんだろうと、サルマン君が私に、そう言ったんだからな」

「確かにそう言いましたが、でも──」

「では君は、このままずっとイサラを捜し続ける気なのか?一日中、(ジープ)で揺れながら砂漠を走り回るつもりでいるのか?私は、御免こうむりたい」

「それは、私も同じです。イサラは......きっと見つからないでしょうから」

「ではサルマン。今すぐ総司令官に、その旨を伝えて一刻も早くここを離れよう」

「そううまくいくでしょうか......」

「イサラが死ねば──我々がここにいる意味はなくなる。そうじゃないかねサルマン?」

「確かにその通りですが......まったくあなたって人は──」

サルマンは、困った人だと言わんばかりに眉をしかめた。ザイラスはふらつく足で、窓に近づいて行った。

ザイラスが窓のカーテンを開けると、いつもの──砂漠の──風景が広がっていた。

「ここでの景色も見おさめだな」

「砂の山しか見えませんがね。コーヒーでも淹れましょうか」サルマンが訊いた。

「ああ、そうしてくれ」


 サルマンがザイラスに、コーヒーを手渡しながら言った。

「ザイラス隊長。あなたの好きなコーヒーです。好みが変わってなければ良いんですが」

「いい香りだ......いつから気付いていたサルマン?私がXXに寄生されていることに──」

「あなたが葉巻を、くゆらす姿を目にした時からです」サルマンが事もなげに言った。

「そうか............」

「あなたは意志の強い人だ。あなたが止めたばかりの葉巻を、ああも簡単に吸うはずがないと、そう考えたんです」

ザイラスは窓から目を離さずに、手にしたコーヒーを一口飲んだ。


 「それだけの理由でか?」

「それだけで充分ですよ。でもあなたは、他の寄生された人間と違って、何も変わった所が見当たらなかったので、見当違いなのでは?とおもったこともありましたが──」

サルマンも手にしたコーヒーを一口飲んだ。

「そうか。君の観察眼は確かなようだなサルマン」

「止めていた葉巻を、また吸い始めたのはXXに寄生されていたからだとして──

寄生されている間の記憶が抜け落ちているのは何故でしょうか?何か覚えていることはありませんか?」サルマンは真剣な顔でザイラスに訪ねた。


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