元パーティメンバーはお怒りのようですよ?
シンが馬車でまどろんでいる頃のお話です。
「なんでシンがパーティを抜けるのを止めないんですか!」
非常に憤慨した様子で赤髪の男を問い詰めていたのは、金色の髪に翡翠色の目をした美女。
誰であろう、アリアだった。
いつもは慈愛に満ちた優しい目つきをしているのだが今日この時に至っては非常に鋭い目つきになっており、目の前の男を怒鳴りつけていた。
それを援護するようにウィズのちょっと緑がかった水色の瞳が同じ男に対して向けられていた。
そう、怒鳴られている男はギリーである。
いつもなら赤色の髪や赤い目が表すように非常に好戦的で、鋭い目つきをしているのだが、今日のその眼には困惑の色が浮かんでいた。
シンをパーティーから追放することに成功したギリーは内心、ルンルン気分だがそれを表情には出さないようにしていた。
次の日の昼頃集まったパーティーメンバーに新しい仲間のルミナスを紹介し、シンは自分から実力不足を理由に去ったことにしようとしたのだが、ある程度、作り話をしたころ、アリアに怒鳴られてしまったのだ。
実はギリーが作り話をしている間、ずっとアリアとウィズは軽く殺意のこもったような目を向けていたのだが、シンを追い出したことで気分が舞い上がっていたギリーがそれに気づくことはなかった。
ギリーにしてみれば、シンのタンクとしての立ち回りの評価は大して高くなかったので、本当に二人ともシンに惚れていたのか、と思いながら、その説教のような話を聞いていた。
「このパーティがここまで安定してランクを上げられたのがシンのおかげだということに気づいてないのですか!」
そんなよくわからないことを顔を真っ赤にして言ってる。
「シンと組んでから、私たち後衛職に攻撃ほとんど来てない」
ギリーは「そんなこと当たり前だろ?」とつい返してしまいそうになったとき、横から感激の声が上がっていた。
「ほんとですかぁ!?……すみません、私そんな働きできませんよぉ…」
そんな風に徐々に声が小さくなっていくのは先ほど新しい仲間として紹介していたルミナスだった。
「そもそも私回避盾ですし、シンさんのように攻撃を受けまくれるわけじゃないです…。遠距離攻撃が飛んで行ったら詠唱中だろうと何だろうと躱してもらうしかないです」
「まぁ、私たちは詠唱しながら当たり前に動けますから大丈夫ですけど、それでもギリー!あなたがしたのは他のパーティの利益でしかなく、これがギルド内で広まったら私たちまで実力を見抜けない無能呼ばわりされるんですよ!」
「シン、どこ行った?」
鋭い眼光がギリーに突き刺さる。
ギリーはシンの行先なんて知らないと答えると、アリアとウィズは一瞬目を合わせる。
そして大きく溜息をついた。
「次のクエスト、まぁ、Sランククエストが失敗したらギリーのせいだからね」
「もしそうなったら、シン探しに行く」
二人はあきらめたようにそう言った。
「大丈夫だ。あいつなんかいなくても俺とお前たちなら余裕だよ」
ギリーはおちゃらけた表情でそう言った。