Sランクタンクも焦っていたようですよ?
「ごめんな、ギリギリだった。大丈夫か?」
正直、リンが飛び出していったときはマジで焦った。
足を一本使えなくしたんだし、安全をとってエリンの魔法で仕留めるつもりでいたから反応が遅れて防御が間に合わなくなるところだった。
間一髪で助けたリンは恐怖のあまりか、口をパクパクさせたまま動けないでいる。
「エリン、魔法でとどめ刺してくれ」
「はい」
いやー、今回は実力を試されてたのかな?
戦闘が始まってから、しばらくの間動かなかったのはちゃんと攻撃を受けられるのか見てたのかもしれない。
あの時は攻撃してくれなくて焦ったけど、守り切れるのかどうか、実際不安だったと思うし。
そんなことを考えてるうちにエリンが『ライトニング』の魔法を4回放ち、ゴブリンロードは動かなくなった。
ゴブリンの群れを倒しているときから思っていたが、エリンの魔法の腕は高いな。
精度、発動速度、威力ともに申し分ない。
まぁ、流石に動きながらの詠唱は厳しいようだが、威力だけならそこらのAランクに並ぶと思う。
エチカも探知能力はDランクにしては優れたもので、リンは最後の焦り以外の働きに関しては異論がなかった。
無鉄砲だがどこかほっとけない雰囲気をまとい、パーティーの精神的支柱になるであろう、リン。
獣人の高い五感を生かし、敵を察知する技術を持った、エチカ。
その二人の後ろで頭脳を生かし、リーダーを補佐する、エリン。
この三人のパーティーはほぼ完成されてると言っていい。
数年もしないうちに有名な冒険者になるだろう。
俺はそんな未来を想像しながら、その三人の前に常に立ち、盾となって共に行動する自分の姿を思い描き、微笑がこぼれる。
「よし、ゴブリンロードも倒したことだし、帰るぞ!」
「――――シン様、非常に申し訳ないのですが……」
リンが非常に言いずらそうな声で呼ぶので「怪我でもさせてしまったのか」と思い振り向く。
そこにはいまだ座り込んでいるリンの姿があり、特に外傷はなさそうに見える。
「どうかしたか?」
「腰が抜けて動けません」
少し恥じているように頬を染めたリンを見て、エチカやエリンは堪えきれなかったのか、噴き出して笑う。
「なんで笑うの!しょうがないでしょ!?」
そんな風に二人が笑うに対して怒りの声を上げるリンだったが、その表情もどこか穏やかなものだった。
「ほら、さっさと帰るぞ」
俺は腰が抜けて動けないらしいリンを抱え上げ、右手で背中を、左手で足を支える。
いわゆるお姫様抱っこだ。
「ふぇ、あ、ちょっとシン様…」
突然抱えられたリンは変な声を上げながら、さらに顔を赤くする。
「エチカ、エリン、残党がいたら頼むぞ」
「それはわかりましたけど、――――リン、ずるいですよ」
「まぁ、今回はしょうがないんじゃない?本当は飛び出したリンが悪いのだけど」
エチカが後半言った言葉は声が小さく聞こえなかったが引き受けてくれるみたいだ。
「…さすがに街に近づく前には降ろしてくださいね」
俺に対して顔を赤らめたままリンが頼んでくるが、町まで徒歩2時間程度だし、面白そうだからこのまま帰ろうと決意した。