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泣き虫

作者: チグ

彼女は昔から泣き虫だった。嫌なことがあった時、それを涙に変えれば気持ちが落ち着くらしい。

今日は久しぶりに彼女と会う。2週間ぶりほどだろうか。お互い仕事や学校が忙しく会える時間が少なくなっていた。急ぐつもりはなかったのだが待ち合わせ場所に着いたのは約束の30分前。なんか俺だけ張り切ってるみたいじゃないか。そんなことを思いつつ暇潰しがてら人間観察でもしようかと行き交う人の群れを見ていた。見覚えのある姿が俺の視界に入った。彼女だ。紗枝はとびっきりの笑顔で俺の元へと駆け寄った。

「ねぇなんでいるの!?まだ30分前だよ!?ウケるw」

「お前だって30分前に来てるだろ。まぁお互い様ってことで」

普段から2人のやり取りはこんな感じだ。向こうは感情を全面に出してくるが俺は出さない。ぶっきらぼうにしているつもりはないのだが。メッセージのやり取りでも似たような構図になってしまうので少し申し訳なくも思っている。

紗枝との時間はいつも早く感じる。今日も気がつけば日が暮れていた。

「ねぇちょっといい?」

紗枝がそう切り出す。彼女ができるだけ人のいない所がいいというので人気の少ない裏路地へと足を進ませることになった。こういう時はいつものやつだ。大体わかっている。しかしいつもの如く

「どうしたんだよ」

と分かってないフリをする。彼女がそれに気づいているかどうかは分からない。勘が鋭いあいつは多分気づいているだろう。

少しばかり歩いて路地裏につくと彼女はどこかスイッチが入ったかのように泣き始めた。

彼女はとても繊細だ。とてつもなく繊細だ。他の人間から見ればめんどくさい。そう思われるかもしれない。でも俺はそんな風には思えなかった。感情を全面に出す彼女が好きだった。バカみたいに笑い、誰よりも悔しがり、周りを気にせず泣く。こんなこと俺にはできっこない。彼女が

「またこんなことになっちゃってごめんね」

と涙を流しながら笑って言った。とても悲しい顔だ。紗枝は俺が泣いている彼女も含めて好きだということを知っているのだろうか。

そんな事を考えていたら涙が止まらなくなった。

彼女は昔から泣き虫だった。俺も泣き虫だった。

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