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くすり使いの少女

作者: 夜朝

丸い顔をした

おかっぱ頭の少女は

いつも荷物を背負っている


白い着物に黒い髪

よく笑いよく怒る

百面相の女の子


旅をしながら諸国を回る

働かざるもの食うべからず

職業は幼いながらも治癒術師だ


レベルは

そんなに

高くないけれど


背にあるものを問われたら

おくすり

にこと笑う


見せてほしい

だめ はずかしいから

頬を染めてもじもじする


おくすり道中

たくさん作って

たくさん差し出してきた


使うかどうかは

いつも

受け取った人任せ


受け取るかどうかも

いつも

その人任せ


あきらめていたんだ


作ることだけが得意で

受け取ってもらう努力は

おいてけぼり


あきらめていたんだ


この背にあるものは

知られない方がいい

明るい笑顔が好きだから


おくすり道中

ひなたぼっこ

おだんごタイム


となりに

よく会う

旅の連れ


方角が同じなのは

珍しいね

今度は何をしに?


ないしょ

内緒かぁ

じゃあ僕も内緒


おだんご

おいしいね

うんそうだね


油断大敵

ふと漏らす溜息

大荷物


重そうだね

ちょっと

見せてほしいな


…………


少し迷って

少し考えて


背負い袋の口を開けると

見えてくるのは

黒い漆塗りの木箱


連れを見て

だいぶ迷って

だいぶ考えて


このひとなら


ちらり

フタを開ける


そこには

諸々の草と花と実

隅っこに

まだ息のある素材


見る人が見れば

わかるのだ

毒になる材料の山


!!!!????


ずざざざざ


旅の連れ

たっぷり後ずさる

その目は真ん丸


かなりの動揺と

わずかの後悔と

逃げ出しそうな足


少女は

静かに

フタを閉めた


袋を元通り

かけ直していく


あきらめていたんだ


知られない方がいい

せめて一緒にいる人くらいは

笑っていてほしいから


袋の口を縛ってから

じーっと見つめる

感情を抑えた瞳の上に

映る光はお日さまの


お外に出したら

重石になりそうな

期待は呑み込んで


その距離のさみしさを

責めるのには変えたくなくて

そっと笑う


普段なら

用意する逃げ道は

どこまでも平坦に


いっていいんだよ

あなたはわるくない


それは

ひとりのほうが

楽だと思っていた頃のくせ


旅に道連れがほしいと

思ってしまった少女は


それなら

どうすればいいのかしらと

思案


今更ながらに

荷物を後ろへやって

連れと荷物の間に自身を挟み


へいきだよ

フタのそとには

ださないから


告げたが

連れは気が持たないようで

ぱたり

倒れた


 * * *


道のお宿に

ひと部屋 借りて

布団の中の連れの顔

見つめる少女


共鳴していたのは

おそらく苦労の記憶


たくさん苦労した人は

その分 大きくなる


この人なら

大丈夫かな


そう考えて

フタを開けた


小さい頭の中は

反省で埋め尽くされている


むり させちゃったかな

ごめんね


その間も

条件反射で

手だけは動いて


荷物から取り出した

深緑の細い草

深紫の種


白い紙に挟んだ素材

両の手に一つずつ持って

見比べる

右 左


どんなに叩いても

目が覚めなくなる

深すぎる眠りをもたらす毒草


心の臓を

極限まで活性化させ

破裂させる毒の実


どちらも

たっぷりの水に

一瞬だけ触れさせると

その水が薬に変わる


心を落ち着ける薬になる草

着付けの薬になる実

よくよく比べて


でも

お連れさん

気持ちが混乱して

倒れたのなら


くさにしましょ


少女は

薬を湛えた木のたらいを

部屋の隅まで移動した


気化する際に

薬効が部屋に満ちる


自身は布団のそばに座り

また

よくよく

寝顔を見つめる


くるしそうじゃないかな

つらそうじゃないかな


そういえば

よく

踏み止まってくれたな


一目散に

逃げ去られても

おかしくないのに


平らな道の上

君は

少しだけ

ごきげんななめに見えた


もしかしたら

ものすごく

きたないとおもわれた?


だいじにまもってきたものを

そうおもわれるのは

かなしいけど


ひとのいだく

いんしょうは

そのひとのじゆうだから


なんとおもわれても

しかたないけれど


…………


膝を抱えて

顔を埋めて

両目をぎゅっと閉じる


それでも

まだ

ここにいてくれる


いや

自分が

運んできたのか


眠りの中にいる

連れに

ためらいがちに笑う


ありがとうの笑み

ほんの少し

泣きそうな


目が覚めたら

なんて言うかな


連れがいることに慣れたら

きっと

ひとりは

とても

つらい


それが

だいすきなひとなら

なおさら


くるしいのは

はんぶんこ


うれしいのは

にばい さんばい

ふやして


いっしょにたびがしたい


そのために

なにができるかな


ねえ

どうしたら

あんしんできる?


少女は

もう一度

その寝顔を

見つめた


空気さえ揺らさないように

そーっと

そーっと

伸ばした手で

布団の端に触れる


そばにいたい


そのために

なにができるかな


つらくなってほしくはない


そのお荷物

こっちに分けてほしいのに

むしろ

自分が増やしてたら

意味ないよね


君の声が聞きたい

でも

今はまだ

気の済むまで

ゆっくり

休んでいてほしい


そうして

最後にならないようにって

祈るんだ


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― 新着の感想 ―
[一言] ピュアな詩でしたね。 特にラストの数行が鮮烈。 名前こそ出ませんが、 息のある植物ってマンドラゴラ? これならお客さん、怖くなりますね。 だとするとこの少女、実は大物でしょ(笑) 感…
2018/08/10 21:42 退会済み
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