家に引きこもりで給料がもらえるらしい
「わかりました。お任せ下さい、最低条件を確実にクリアした男を用意させていただきます!」
田中さんはとても力強く誓ってくれました。
「まずは三人ですか?三人から十人までが条件なのですが…どうでしょう、十人は…貴女様のお話から考えると、やはりいきなり十人では息苦しいでしょうね…」
そして、いきなり饒舌になりました。
闘志を燃やしているようだった。
先ほどまでの、しゅんとした態度がどこかに飛んでいって、大きな決意をしたような表情で、ぶつぶつと呟いている。
初対面では、ダンディな見た目だったし落ち着いた雰囲気だったから、こうも落ち込んだり饒舌に話し出したりころころ表情を変えられると、人は見かけによらないのだなあと実感する。
っと、田中さんの観察をしている場合ではなかった。
「三人でお願いします。」
結婚したくなかったし、結婚するしかないのなら、相手はなるべく少ない方が良い。
面倒な人たちなら、人数が多いとこちらのストレス量が計り知れない。
「承知致しました。では、すぐに条件を満たした男を用意します。」
田中さんは、田中さんの右隣に座る男の人に目線をよこす。
すると、その男の人は頷き、私に軽く頭を下げてから部屋から出て行った。
「彼が、上に報告に行きました。およそ一時間から二時間程度で、夫の条件を満たした者をリストアップして、貴女様が選べる状態にします。」
お、おう…。選べるって…。
「選ぶって、どうやって選ぶのでしょう…」
「その者のプロフィールと写真、経歴などをファイルにして、見て頂くことになりますが…」
いやいや待て待て、それ面接みたいなんだけど。経歴がなかったら、ホストみたいだし。
そんな写真とか経歴とか見ても何とも思わないし、むしろ男性に対して疑心暗鬼だから三人に選べない。
「私、選べと言われても選べません。そちらで三人選んでいただけませんか。」
「え、し、しかし…それでは、どうしても見た目が合わない者が夫になる可能性があります。」
正直に言うと、いきなり夫ができるのはまだ現実味がない。しかし、私なりに条件を出すくらいには用心している。性格には。
そう、性格だけなのである。その人と恋愛するつもりがなく、ストレスが少ない生活をする予定なので、夫の顔なんてどうでも良い。
「私は性格重視なので、顔で選ぼうなんて思いません。」
というより選べと言われると困る。
田中さんは、私が譲らないと思ったのか、頷いてドアの前に立つ男に目配せした。
すると、その男は頷いて部屋から出て行く。
デ、デジャヴ…?
この世界の人は目線で会話が出来るのだろうか…。
「今、貴女様の希望を伝えに行かせました。私共は、貴女様を不幸にさせるような結婚相手を選ばないと誓います。お任せ下さい。」
田中さんは再び決意に満ちた顔をしている。
ううん…そもそも、結婚することが、私にとっての不幸のようなものなのだが…
「よろしくお願いします…」
これ以上、状況が悪くならないように、お願いします…
「それでは、夫が決まるまでの間に、貴女様の給料や一般常識を簡潔に説明させて頂きます。」
…ん?
え、給料!?
「給料もらえるんですか?」
働いてないのに?
それに、外出できないのに果たして使い道はあるのか?
「もちろん、お渡しします。この世界の物価と合わせて、金額の説明を致しますね。」
説明の結果、物価はあまり変わらず。外出は基本できないけれど、通販があるから買い物はそれで。そして、給料なのだが…
「毎月40万…」
「ええ、卵子の提供有無に関係なく、皆この値段で統一されています。」
少ないでしょうか…と不安げに視線を向けていますが、いやいや田中さん、多すぎます…!
働かずに家にいるだけでこれ!?通販で毎月お金使っても十分余るわ!
夫の分も含めて40万とか?それでの家賃はいらないのだから、普通にお金貯まると思うんだけど!
「家具などは完備されていますし、夫となる者は全員働き先がありますのでそれぞれ勤務先から給料をもらいます。毎月40万は、貴女様が自由に使って下さい。足りない場合は、要相談になりますので…。」
私一人で40万だった…何これこの世界女性に厚遇すぎる。
その時、ドアがノックされた。
ドアの付近で立つ男の人がさっとドアを少し開けて、外の人に視線を向けると、「わかりました」と返事をする。
「貴女様の夫が決まった様です。今からご案内させて頂きます。」
いよいよ、夫とご対面らしい。
いろいろと思うところがあって、納得しきっていないけれど、
腹をくくろう。
第一印象はせめて無難にしないと、今後の生活に支障を来す。




