夫婦とは(こちらの世界の常識)上
意外と10月に更新ができています・・・。
今週は仕事でばたばたすると思いますので、早くても次話は来週に更新することになります。
こちらの作品を読んで下さっている方、感想を書いて下さった方、いつもありがとうございます。
そして、近頃の亀更新、申し訳ありません。
3月までには完結させたいと思っていますので、お付き合いの程、よろしくお願い致します。
「そういうことも、あるかもしれないなって覚悟していたんです。だって、お互い会ってもいないうちに結婚することになったんですから、結婚相手がどんな人か分からなかったし。みんなが、こんなに私のことを尊重してくれると思っていなかったし。」
けれど、例え覚悟をしていたとしても、心が通じ合っていない相手とそういう関係を持ちたいとは思わない。
生憎、この世界では子供は男性の精子と女性の卵子を培養液ようなもので育てるらしいので、子供を産むために男女が身体の関係を持たなくても良いのだ。
それならば、夫とそういう関係になるのは子供を授かるためという理由ではなく、個人の欲求によるもののみということになる。
私が結婚を承諾せざるを得なかった時に出した条件は、総合すると私を尊重してくれる人。
だから、不本意にそういう関係になることは無いと思っている。
それは、彼らに会って数日過ごしたらより強くそう思うようになった。むしろ、彼らの自由が制限されているようで申し訳なくなるくらい。
それでも、彼らと接するまでは、そういうことも念頭に置いていたんだ。
ふいにそういう関係になるかもしれないって。
私に逃げ道なんてないんだから、そうなったら泣いても嫌がっても、最終的には妥協するしかないのかもしれないって思ってた。
ある意味、こうして三人が私のことを気遣って、理解しようとしてくれたりするのは、本当に有り難いことだと思っている。
まだいろいろと問題だらけなんだけどね。
「えり・・・。」
「えりのことを尊重するのは、当たり前ではないですか・・・。」
その尊重が、国の政策や教育によって成り立っている、不平等からのもので無ければもっと良かったんだけどね・・・。本当に、彼らは私と結婚するときに何か事情があったんじゃないのかな?いつかそれを知ることができたらいいんだけど・・・。
「えりの世界での話は分かった。」
石川さんが、ちょっと眉間にしわを寄せながらそう言った。
今、分かった、って言った。理解してくれたのだろう。
お互いの常識の違いというものを。
「それじゃあ、こちらの世界での話をしておく。今後、えりのためにもなるだろうし・・・。」
石川さんは、向井さんと武田さんに目配せして、小さく頷いてから私の方へ視線を戻した。
俺が話す、みたいな視線だったのかな。
まあ私は話を聞くだけなので、石川さんの方へ視線を向けて、話を待った。
「えりの世界の話だと、結婚するということは、相思相愛という関係性を経て、たどり着くものだという認識なんだな?」
「そうです。」
「この世界は、逆だ。」
「・・・へ?」
逆?逆ってことは・・・。
「この世界では、男女の恋愛は、結婚した夫たちと相性が良い場合にだけ行われる、非常に稀な行為なんだ。」
はい!!?
「え、えー・・・っと。」
ちょっと待って、どういうこと?思考が追いつかないぞ。
え、恋愛は結婚の次?
しかも稀な行為ってことは、
「恋愛していない夫婦は多いってことですか・・・?」
「ああ。むしろ、恋愛に発展したって例を、学校で学んだ時にしか聞いたことがない。」
「私の職場にも、結婚している方は多いのですが、恋人関係になったという話は聞きません。」
「俺の職場には結婚してる人ってそんなにいないけど、聞いたことがないかなぁ。」
え、え、え?
「それじゃあ、結婚って何のためにするのですか・・・?」
「嫁を世話するため。」
「妻をお世話するためです。」
「お嫁さんをお世話したいからだよ。」
はぁ?
お世話したいから結婚する?
お嫁さんとか妻って言葉、この世界では別の意味なの?
いやいや、でも離婚って言葉とかもあるし・・・。
言葉は私のいた世界と変わらないって言ってたし・・・。
えええ、それでも訳が分からないよ。
「お世話して、何のメリットがあるんでしょう・・・?」
これは、彼らが私の旦那になった理由に関わる話だ。彼らにメリットがあるのか。あるならどんなメリットなのか。それもついでに聞き出せたら良いのだけど・・・。
「メリット・・・?」
向井さんが、何を聞かれているのか分からないって顔をする。
メリットって言葉が通じてないのか?
「えっと、利点ってことなんですけど・・・。」
「ああ、はい。大丈夫です。メリットの意味は、理解しているのですが・・・。」
そこまで言って、向井さんは非常に困った顔をする。
言いづらいことなのだろうか。やはり。
それなら、深くまでは聞かないんだけど・・・できれば言って下さい。
言ってくれたら、彼らのことも知れるし、今後の行動も多少気をつけられるかもしれないし、何より私のストレスのかかり方が変わる。
良く分からないことに対するストレスよりも、問題が明確である場合のストレスの方が、私は楽なのだ。
だから言ってくれると助かる。
向井さんは少し考えて、ようやく言葉を見つけたように、うん、と一人頷いてから私へ視線を向ける。
なんだろう。すごく嬉しそうな顔をしているんだけど。
「えりと一緒にいられる、というメリットがあります。」
この野郎、内緒にするつもりか。
ちょっと苛立ってしまったが、気を取り直す。次に武田さんへ視線を向けると、向井さんへ尊敬の眼差しを向けていたような武田さんが、私の視線に気がついて背筋を伸ばした。
「武田さんは、何かメリットがあるんでしょうか。あ、本当のことを言って下さって良いんですよ。むしろ、本心を言ってもらいたいのですが・・・。」
向井さんのようなことにはならないように、釘を刺させて貰った。
武田さんは今のところ、一番私と会話をしている人だし、年下だから、多少の要求は受け入れてくれ。
「えりとお話ができたり、えりとテレビを見たり、えりに頼られたり、この何日かで、メリットはすごく増えたかな。」
私の要求をスルーした!!
そんな無理矢理絞り出したみたいなメリットを言われても、むしろ虚しいわ!嫌みか!!
ごめんね!話が上手じゃなくて!テレビも私と見るとなったら気を遣わないといけないわけだし!頼るのは今だけ許してよね!今後、頼るのは最小限にまで減らすので、今だけ大目に見てくださいね!!
はい!次っ!!
石川さんに目線を向けると、私の視線の鋭さに驚いた石川さんだが、頰を指でかきながら、私を刺激しないようにか言葉を選びつつ口を開いた。
「まあ、結婚するヤツってのは、嫁っていう、世話する存在が欲しくてするもんだからな・・・。世話できるのが生きがいというか・・・。世話すること自体が、メリットなんだ。」
何そのとってつけたような理由!
そんなこと信じられるわけないじゃん!
離婚を言い渡されてから就職先が無くなる人もいるんでしょ!?
わざわざ苦労を買って出るバカがどこにいるの!!
私に対して、結婚した際のメリットは言えないってわけ?
口封じされている?
「それメリットじゃないし・・・。」
それなら、これ以上突っ込めないじゃんか。
こうツッコミをいれるので精一杯。
「え!そんなことありませんよ!!この上ないほどのメリットです!!」
「そうだよ!!えりと一緒にいるのが楽しいんだよ!!」
はいはい。そうですか。
社交辞令でも嘘でもとりあえず、アリガトウゴザイマス。
私は少しうさんくさそうな視線を向井さんと武田さんに向けながら、彼らの説得という名の社交辞令に「アリガトウ」「はいはい」と流したのだった。
その時、そんな私のことを、少し探るように見ていた石川さんの視線には、全く気がつかなかった。




