嫌いなタイプ
一つ目、浮気をする人。
二つ目、暴力を振るう人。
三つ目、男尊女卑な人。
四つ目、女の人を所有物のように扱う人。
五つ目、優しくない人。
六つ目、誠実じゃない人。
七つ目、好きでもないのに好きって言う人。
「面倒くさい注文だろうけど、どれか一つでも当てはまる人は嫌です。」
私の夫は、これを一つもふくまない人、というのが最低条件です。
私の注文を聞くと、田中さん含めて部屋の男たちはぽかんとした表情をする。
何、そんなに厳しい注文だった?
けれどこの条件は守ってもらいたい。
今まで出会った男の人の中でどうしても許せないし一緒にいられないと思った原因ばかりだからだ。
どうしても無理ならば、どれか一つ…結婚とは言っても恋愛をするわけじゃないから、七つ目はなくても良いかな…
でも、嘘でも好きとか言われ続けると情を持ってしまいそうだから、これも外せない。
田中さん、無理そうなら無理と言ってください。
早急に話し合いが必要になります。
じっと田中さんを見つめると、田中さんは恐る恐るといった風に、口を開ける。
「…女性の結婚相手の候補となる者たちもそうですが、少なくとも我が国民のほとんどは、一つ目から四つ目に当てはまる人はいません…。」
いや、
いやいやいや。
それは言い過ぎだろう。
「貴女様のいた世界は、そのような男性が普通なのですか…?」
「いえ、普通ではないですが…そんな人もいた程度です…。」
というより、私の周囲がそんな人ばかりだっただけで、世間の男の人はそんな人ばかりではないと聞いていたし…。
「ただ、私の周囲にいた結婚したくないと思う男性の特徴だっただけです。」
私の世界の女性を大切にしていた男性に悪いので、私の周囲にいた、と限定して誤解を生まないようにしておかないとね。
「貴女様の周囲は、そのような男ばかりだったのですね…」
あ、あれ?
なぜか、急に肌寒くなった気がする…
田中さん含め、周囲の人が深刻な顔をしている。
「女性が結婚に対して最低条件を付けざるを得ないような、不安に陥れるその世界の男共をこちらの世界に是非連れてきていただきたい…一から教育し直してやる…」
うん、小さな声で呟いていますけど、ところどころ聞こえています。
最低条件なんて言い方したけど、大げさだったかな…いやでもこれは本当に含まれていると嫌な条件なのだ。結婚してから嫌だと思うことが増えるかもしれないけれど、今の段階では、これらが絶対に嫌なのである。
嫌だと思う条件が多すぎると思って、でも我慢が出来そうにないから、独身貴族を目指しているのだ。いや、目指していたのだ。これは訂正できない。
しかし、周囲の男の人達も同じく、と言ったような雰囲気を出しているし…。気まずいな。
ええと、これは…怒っている雰囲気を出すことで私を安心させようとしているのか…単純に怒りを覚えてくれているのか…どちらか分からないけれど、とりあえずは条件の一つ目から四つ目の心配はしなくて良さそうだね。
「一つ目から四つ目の条件に関しては、問題ありません。それで、五つ目から七つ目なのですが…」
うん、これは難しいよね。どちらかというと、判断基準が曖昧だ。完全に私の主観になってしまう。
「五つ目は、気遣えない人と捉えて下さってかまいません。例えば、ご飯を作れない時は代わりに作ってくれたり、体調が悪い時はそっとしておいてくれたり…そういう優しい人が希望です。」
奥さんが病気になっているのに家事をさせる親戚のおじさんがいた。あれは嫌だ。体調が悪いときは、簡単で良いからご飯を作って欲しい。いや、ご飯を作らなくて良いからそっとしておいてくれるだけで良い。また、仕事をしないのならよっぽどのことが無い限りご飯を作れない時は来ないだろうけど、いつ何時不測の事態が起きるか分からないからね。念には念を、だ。
「………わかりました。」
何故か、田中さんは物言いたげな顔をしたが、了承してくれた。
どうぞ続きをお願いします、と手で促される。
私の提示する条件を頭にまとめているのだろうか。
多くてすみませんね。
「六つ目は、誠実じゃない人、ですね。」
誠実な人がいい、って意味だけど、それほどきっちりしていなくて良い。
「この世界の基準は分かりませんが、賭博なんかをして借金をする人は嫌ですし、一緒に住むのですからお金で揉めたくないので盗み癖がない人が良いです。まじめでなくても良いので、荒れすぎていない人が好ましいです。」
盗み癖がある人、いたなぁ…。これは親戚ではなかったけど、母方の祖父母の家の隣の人が盗み癖があって…離婚して子供の親権で揉めていた。賭博は親戚に結構している人が多かったし、それで借金している人もいた。これも、夫婦喧嘩の元なのである。
「…………わかりました。」
…田中さんの手が震えてきた。え、六つ目だけど、この世界ではこの条件難しいのかな。この世界の常識を聞きたいところだけど、さっさと条件を言ってしまいたい。一つ一つ確認していると、話が進まなそうだし。
さっさと七つ目を言ってしまいます。
「七つ目は、好きって言い続けると、言っている方も言われている方も、情が移ってしまうので好き嫌いの感情に嘘を言わない人が良いです。好きでもないのに言われていると、虚しくなりますし。」
結婚してしまうのはもう仕方が無いけど、好きでもないのに好きと言われたり好意を向けられるのは一緒に生活していく上で苦痛だと思う。信頼もできないだろうし。疑心暗鬼な毎日を過ごすのは絶対嫌だ。
さあ、これで最後。
田中さん、無理なら無理と言って下さい。
「……以上でしょうか。」
田中さんが下を向いているので、表情が見えない。見えていても、感情を読み取れるわけではないけど。
ただ、田中さんの両手がテーブルの上にあるのだが、小刻みに震えている。
無理難題を突きつけてしまったか…どうしても難しいならば、要相談である。
この世界の常識が分からないので、私の条件に合う人がいるか分からないけれど…
「以上です。」
一生のことなのだから後悔はしたくない。
だから、きちんと伝えさせてもらった。
後は田中さんがなんて言うかだ。
じっと田中さんを見つめていると、たっぷり時を置いて、田中さんは顔を上げた。




