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夫婦とは(えりの世界の常識)




私のその誘いに対し、石川さんはそれはもう驚いた顔をした。

しかし、直ぐにまじめな顔になって、私に諭すように語りかける。


「えり、今は早朝だ。夜から朝にかけて、嫁の部屋に旦那が入るのは、そういう関係だと思われても仕方が無いんだぞ?」


そういう関係、と石川さんは濁すが、何を指しているのかは分かる。27歳にもなって、子供はコウノトリが連れてくるなんて信じていないし、過去に彼氏がいたのだから、分からないわけがない。

ただし、この世界の結婚観や夫婦の関係性が、私には分からない。彼が何故そんなことをこだわるのか、夫婦がそういう関係だと思われることが、まるで覚悟が必要なことかのように彼が尋ねる理由が分からない。


やはり、私達は話をするべきなのだ。


「そういう関係だと思われても仕方が無い、と言いますが、そもそも夫婦であるのにそういう関係かどうかを疑われるなんて感覚、私にはありません。」


「は?」


抽象的な言葉だけを並べたので、分かりづらかっただろうか。石川さんは、ぽかんとして開いた口がふさがらない。

だから、彼と向井さんに私の世界のことを伝えるために、私は言葉を止めない。


「この世界のことは知らないけど、私のいた世界で夫婦っていうのは、そういう関係を持てるからなるもの。むしろ、夫婦になる前の段階、恋人同士でそういう関係になる人が大多数だと思います。だから、石川さんがそうやって私に対して注意してくれても、私としては何を今更なことを、って思ってしまいます。」


「え、えり・・・?えっと、それは・・・」


なぜか石川さんではなく向井さんが後ろから声をかけてくる。

ちょっと向井さんの声が震えている気がするんだけど、ちょっと黙ってて。今私は石川さんと話してるんだ。


「ま、待て、えり。ちょっと待ってくれ。」


私がさらに何かを話しだそうとしたら、石川さんが待ったをかけた。


何?

そちらはどんなつもりで結婚を承諾したのかは分からないけど、私は結婚してくれと田中さんに言われた時にはそういうことは多少覚悟していたんだからね。流石に会ってすぐには無理だけど、もっと時間をかけて仲良くなったらそういう関係になるかもしれないとか、考えてたんだけど。

と、言っても、やはり常識が違う彼らに私の常識を押しつけるのは違うんだろうけどさ。


ちょーっと結婚することに対して抱いていた私の不安とかは知って貰わないと、不公平でしょ。


「えりのいた世界と、今のこの世界での結婚観は大分違うようだな・・・。だが・・・。」


「それとも、こうして夫が嫁の部屋に訪れたら、仕事をクビになったり離婚することになったりするんでしょうか?」


あれだけぐずぐず悩んで、彼らにこうして尋ねることさえ難しいだろうと思っていたのに、こうしていざとなればあっさりと言葉にできた。私のこの行動は、私を尊重してくれる彼らの首を絞めていることになっていないだろうか?


「もしくは、夫の名誉を傷つけることになるのでしょうか?それなら、控えますが。」

「いや、違う。そうじゃない。俺たちの名誉じゃないんだ。」


私がさらに言葉を重ねるのを、石川さんが止める。片手で顔を覆い、顔を少し俯かせながらだけど、彼は大きく息を吸って、吐いて、

「この話は三人でするような話じゃない。武田を呼んでも良いか?」と言葉を続けた。


「え、でも武田さんは寝ているんじゃないですか?」


それはわざわざ起こしてから話をすると言うのか・・・。それとも、彼が起きるまで待ってから、話をするのかな。

私が何を考えているのか分かったのだろう、石川さんは、その場から少し離れてから、後方へ視線を向けた。


「あ。」


結構まぬけな声だった。

石川さんの視線の先を見ると、口を少しあけてから、こちらを見る武田さんと目が合った。



どうやら彼も、石川さんと同様、私の部屋から聞こえてくる向井さんの声が気になって廊下で見守っていたようだった。







私の部屋で話をしようとすると、三人ともリビングを推すので、円滑に話をするために全員でリビングに移動した。

全員がソファに座り、向井さんが全員分の飲み物を用意してくれた。

ノンカフェインの紅茶らしい。うんうん。この話が終わったら、みんなちょっと眠った方が良いからね。結局眠っていないってことでしょ?

私が廊下で向井さんを引き留めたから、結局みんな寝られなくなっちゃったんだしなぁ。

さっさとお話を終わらせて、皆に気持ちよく眠ってもらおう。



「えっと、取り敢えずえりの世界の結婚観なんだけど・・・。」


武田さんが、少し躊躇しながらそう話を切り出した。というか、今気がついたんだけど、なぜか三人とも様子が挙動不審である。向井さんと武田さんはちょっと顔が赤いし。

寝不足になると、微熱になるって言うよね・・・。もしかして、二人とも風邪引いちゃった?


「その前に、ちょっと確認しても良いですか?」


そう断って、武田さんと向井さんを交互に見る。


「二人とも、ちょっと顔が赤くないですか?風邪を引いているんじゃ・・・。」


「いえ!これはそういうのではないのでお気になさらず!!」

「俺たちは大丈夫だから、心配しないで!」


なぜか必死に元気アピールをされた。

それほどまでに心配しないでくれとお願いされたら、こちらは引くしか無い。

何か理由があるのかもしれないけど・・・取り敢えず様子見をしながら話をするしかないかな。



「それで、えりの世界の結婚観を教えてもらいたいんだけど・・・。」


武田さんが再びそう切り出したので、私は以前田中さんに説明したことと同じ説明に一部付け加えたものを彼らにした。


一夫一妻制で、恋愛結婚が普通で(ただし一部お金持ちの人は違うかもしれないけど)、夫婦によっては、部屋を分ける人が最近は多いけど、同室の夫婦もいること。あと、この世界と違うことと言ったら、子供を産む手段なので、その説明も。男女が愛し合ってから女性が妊娠して産む。授かり婚というものがあり、それで結婚する人もいるくらいだから結婚していないうちにそういう行為をする人が多いのではないか、ということ。

恥ずかしい話をしているわけなんだけど、相手は私の知っている常識を知らないので、そう思えば不思議と羞恥心は感じない。どちらかと言うと、保健の先生になった気分である。小学校や中学校では保健の先生が真顔で授業をしていた時に、よく表情を変えずに話せるなぁと思ったものだったけど、今なら感覚が分かる。相手にきちんと理解してもらおうと思ったら、羞恥心なんて感じないし、そんな余裕もない。


私の説明を聞いている三人は、とくに武田さんと向井さんはさらに顔を赤くさせたり、手をもじもじさせたりと、なんだか可愛らしい対応を見せてくれた。石川さんも、ちょっと照れた顔をしている。


「と、いうことなので、一緒に暮らしている以上、嫁の部屋に入って誤解を生むとか、そういう感覚は出てこないと思います。結婚しているのだから、夫婦が同じ部屋で寝ても問題はないと思っていましたし、むしろ私は結婚することになった時、一緒に寝るように言われることを覚悟してました。」


そんなことだから、朝方や深夜に嫁と夫が一つの部屋にいることなんて、問題にすることでもないし、そう思っていた。


と、そう伝えたところで、向井さんと武田さんは両手で顔を覆って、背中を丸めて動かなくなった。




ええ、どうしたよ。




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