お願いごと
相変わらず広いお風呂に入る。後にお風呂に入る人のために長居はせずにさっさと身体を洗って、ちょっと湯煎に浸かってだいたい20分くらいでお風呂から出られた。
昨日に引き続き、一番風呂を貰ってしまったので、明日辺りからは三人に先に入ってもらおう。人を待たせるのは焦ってしまうから、私は最後に入るくらいが一番気を遣わなくてもいいし楽だし、家でもそんな感じだったしなぁ。
「お待たせしました。」
さっさとお風呂場から出てきた私に気づき、テレビに向いていた三人の視線がこちらを向く。
「あっ!え、ええええええり・・・!」
「うあああ、あ、足が・・・!」
向井さんは顔を赤らめ、武田さんはまた私の足を見て挙動不審である。
石川さんは、比較的冷静ではあるが、ちょっとこちらを直視できない様子だ。
デジャヴだわー。
言っておくが、私の寝間着は決して露出度が高いものではない。昨日とほとんど同じようなワンピース型の寝間着で、丈の長さも問題ない。昨日と一緒。
昨日の一日で慣れてもらえるとは思っていないけど、反応が昨日とあまり変わらない。
今日購入した寝間着が届いたら、ワンピース卒業でひらひら裾がめくれるような仕様の服ではなくなるので、それまで我慢してください。
「えり、その服は寒くないか?湯冷めしそうだったら、膝掛けがあるからいつでも言ってくれ。」
おお!膝掛け!
今日は昨日と違ってテーブルに座っているわけではなく、三人ともソファに座っている。
要するに、今から私もそのテレビの前のソファに座るならば、私の足が昨日よりも見える位置にあるということだ。
寒いわけではないけど、三人が居心地悪くなるのは、こちらとしても居心地の悪さを感じるわけで・・・
「膝掛け、使いたいです。」
お言葉に甘えて借りることにした。
膝掛けは石川さんがテレビの横のタンスから取り出してくれて(エプロンもそうだけど、よくそこに置いてあるって分かったな)、いくつもある種類から選ばせてくれた。厚手の膝掛けもあるし、薄い素材のものもある。とりあえず、今日のところは薄手の独り用のものを使うことにした。
触ってみたら素材が良いものだということを察してしまったが、気付かないふりをしよう。これ以上この家のモノの素材や広さに疑問を感じても疲れるだけだ。何にもならない。
自分が座っていたところに再び座り、テレビを見たら、さっきの動物番組ではなくニュース番組になっていた。
「あの動物番組、えりがお風呂に入っている間に終わってしまったんです。でも、録画をしておいたので、いつでも見れますよ!」
見たい時には言ってくださいね!と嬉しそうに主張してくれるが、ちょっとこの笑顔がムカつくので、録画しているものはしばらくは見ないでおこう。小さい子を愛でているような表情をしてる。早く見たがったら子どもっぽいと思われそうだ。
ま、わざわざ録画をしてくれたのは私のためだろうから、一応礼だけは言っておくけど。
「ありがとうございます。」
「いえ!えりのお役に立てることができて、嬉しいです。」
ただ、見たいと思った時に自分で勝手に見られたら良いんだけど。これも、お願いしないといけないのだろうか。
「えり、どうかしたの?」
「ううん。何でもないよ。」
今日一番一緒に行動することが多かった武田さんが何かを察したように私の様子をうかがってきた。
なんか、さっきの目元が赤いことに対する指摘もそうだけど、石川さんだけ表情の変化なんかに聡いのかと思っていたけど、どうやら武田さんも向井さんも、それぞれ私の表情を良く見ている様子だ。
今だって、武田さんが話しかけてきているけど、石川さんも向井さんもこちらを伺っている様子だし。
おかしいな、私の中の男の人って、人の感情や表情を気にしない人が多かったんだけどな。
それとも、三人とも取り繕っているだけなのかな。
取り繕っていたとしても、丸1日程度でよくも見定められるものだと思う。
カウンセラーとか向いているんじゃない?
「お風呂入ったら喉がかわいただろ。お茶を入れたから、ソファに座って飲んだらどうだ?」
石川さんが、さっとテーブルに暖かいお茶を置いてくれた。
うん、カウンセラーよりも執事とか向いてそう。
それから石川さんがお風呂に行き、次に武田さん、向井さん、が順番にお風呂に行く間、私とその時にお風呂に入っていない人でニュースを見ていた。
この世界のニュースは、私の知らない人ばかりが映るし、知らない地名や人物の話ばかりで正直よく分からないことがばかりだけど、地名や人物の簡単な説明は三人がさらっとしてくれる。あの人は歌手で、この人は政治家で、このコメンテーターは自然科学の教授で、あの地名は今住んでいる町と隣接していて、この地名はかなり離れた所にある。一気に説明されても分からないので、最後四人でニュースを見終わった時に、ついでとばかりに「地図のようにこの世界の基礎知識を知れるものを欲しいのですが。」と聞いた。
「えりが早くもこの世界に興味を持って下さるなんて・・・!」
興味があるかどうかではなく、それよりもこの世界のことを知らないから、今とても困っている。少しでも心の平穏を保つためにも、今後この世界で生きていくために必要な知識は得ておきたいだけだ。
生きるために必要なだけで、興味があるわけじゃ・・・。あれ、興味があるってことなのかな?
「異世界から来る女性は、だいたいこの世界で夫たちとの世界に慣れてから少しずつ学んでいくんだ。」
「夫がいれば生活には問題ないんだけど、何もこの世界のことを分からないのは、テレビを見たり本を読んだりするときに不自由するからね。あ、でも、本人に強制しないよ。知りたいって思って希望したときだけ。」
確かに、記憶喪失の人がこの世界で生活していくってなったら、ある程度の常識を教えた方が良いよね。夫たちの今後の生活を握るのが嫁なら、何も知らないで私みたいに危ない橋を渡る可能性もあるだろうし。
この世界のことを学ぶのは、自力で情報収集をしなくても良さそうだ。それは助かる。手探りで勉強しても、必要な知識かそうでないかも分からないし、正しい情報かどうかの判断材料もないのだから。
「それは、学校のようなところで教えてもらえるんでしょうか?」
「いいえ、異世界の女性用に用意された教材がありますので、それを読みつつ、疑問に思ったことは私達に聞いて下されば答える、という形になります。」
予想はしていたけど、家庭教師か!!
できれば三人以外に教えて貰いたかった・・・。
なんとなくだけど、三人とも、私が勉強中に疲れたって言ったら甘やかしそうだもんな・・・。
私に厳しく出られない人が私に教えるってどうなんだ。
流石に27歳にもなれば私だって休憩させろと駄々をこねたりしないけどさ!
まあ、仕方ないか。言うことを聞いておいた方が良いんだろう。
三人に「あなたたちじゃない人が良い」なんて言った日には、信じてないと言っているようなものだし、危ない橋を再度渡ることにもなりそうだし。
「どうする?えりが学びたいと言うなら、教材は頼んでおくぞ。」
「お願いします。」
うん、勉強するための機会は得られたのだから、妥協しよう。




