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夫会議「議題」:嫁に注意をすること 武田視点2

今回は話の都合上、少し長くなっております。





「俺としては、えりが自分の世界の常識で動いて危ない目にあってほしくなかったから、ちょっとずるい手ではあったが、えりの優しさにつけこんで、俺たちとの離縁と失職の話をしたわけだが・・・。」


その言い方をされると、俺も向井さんも、心にグサリとくる。

ごめんね、えり。

でも俺、えりと離縁するのだけは嫌なんだ・・・!

えりのこともう結構好きだし、離れたくないし、今はえりも猫を被ってるのかもしれないけどそれでもえりの根本的なところは変わらないと思うし、取りあえず結構今幸せだし!!


「えりは俺たちと夫婦になってまだ1日だし夫の選び方もあっさりしたもんだったから思い入れも無いと思う、ということから離縁が原因で今回のことを引き下がったわけじゃない。さっきの質問についての話からも想定して、俺たちの失職が原因だろう。」

「それは、そうですよね・・・。」


向井さん、わかる、わかるよ。俺たちは、えりとの離縁が嫌でこんな手段に出ているけど、えりはそうじゃないんだもんね。落ち込むよね。分かる。分かるよー。


うん?えりはそうじゃない、なら・・・。俺たちが職を失うことに対して、なんで気にしてくれたんだ?


「けど、俺たちが仕事をクビになることと、えりが生活費を払わなくなることに関係はない。離縁するんだからな。えりにとっては離縁した後の俺たちの生活がどうなろうと気にすることじゃない。本来なら。」


「じゃあ、やっぱり、心配してくれた、ってことですか?」

「いや、俺の狙った通り、そうなった時の後味の悪さを考えて止まってくれたんだろう。けど、それだけじゃないと思う。あの表情は、今回の話の副産物だろう。」

「副産物って、え、なにそれ?」


言ってることが分からない。


「私たちが反論したことに対して、拗ねたわけではなくて・・・、意見が通らなかったから、今回のことを諦めたってことではないんですか?」


向井さんの言葉に、石川さんは頷く。俺も、なんか、それだけじゃない気がするんだよね。えりのあの顔、"また"って顔してた。今回だけじゃない。"またか"って何度もあったからあの表情に慣れているような・・・。


「この世界に来る女性の特徴を、なんて習った?」


石川さんが、俺に聞いてくる。

えっと、確か・・・。


「向こうの世界で結婚することがない女性が、神なる者に選定されてきているんだよね。」


「そうだ。"結婚することがない女性"が"選定"されている。えりの反応から察するに、向こうの世界でもきっと、結婚ってものがある。しかし、そこで"結婚することがない女性"がいるってことは、この世界とは異なる部分だ。」

「あちらの世界では、男性の方が少ないのでしょうか。」

「そうかもしれない。もしくは、同じくらいか・・・。」

「それが、何の関係があるの?」


「昨日から今に至るまで、えりの発言から想定すると、掃除とか家事をするのは女性もありえるし、仕事をすることもある。というより、えりの年齢とか対応から、えりもこの世界に来るまで仕事をしていたんだと思う。あちらの世界では、こちらの世界と逆なのかもしれないと考えた。」


逆ってことは・・・。


「男は働かなくて、女の人が働くってこと?」

「もしくは、共働きか、だな。」


そんな、そんなことってあり得る!?女の人が働くの!?

重い物を持ったり、立ちっぱなしで営業外回りをしたり、車を長時間運転したり、そんなことを女の人がしてるって!?


「そんな世界ある!?」

「これはただの仮定だ。ただ、この世界と反対の現象をしている可能性は低いかもな。男が少なくて女性が多いなら、えりは反対になっているだけと理解しやすかっただろうし。多分、男女比が同じくらいの世界で、俺たちが仕事をしていることに驚いている節もないから、共働きなんだと思うぞ。」


そ、そんな・・・。家事はする世界だったのかもしれないけどさ。大分昔のこの世界だって、男女が同じくらいの人口だったときは男が外で働いて女の人は家で家事をしていたっていうし。それは、学校でも可能性があるよーって言ってたけどさ。でも、共働きなんてことは想定できないよ!考えたこともなかった。

俺ってば、えりは家事は自分もするって、遠慮してそんなことを言っているんだと思ったんだけど。もしくは、俺たちのことを試しているのかと。


って、向井さん、固まってる・・・。

そりゃそうか、向井さんも衝撃受けたよね。


「これは、また後日えりに聞くとして・・・。そんな世界を想定して、ちょっとえりのことを考えていた。」

「えりのことを?」

「ああ・・・。共働きだったら、少なくとも日々の仕事や家事については男女平等だってことだろう?えりは、自分で男と同じくらい何でもできていた世界から、それが制限される世界に来たってことが想定できる。昨日言った、家事を許されないことをえりが不自由と感じているってこと、その可能性も、この仮説が正しければ納得できる。」


石川さん、すごい・・・。

よくここまで分析できるな・・・。

俺なんて、えりに嫌われないように、好かれるようにってことしか考えてなかったから、そんなことまで考えが及ばなかった。


「えりが俺たちの対応に対して戸惑っているのも、初対面だからかと昨日は思っていたが、それだけじゃない。明らかに不慣れすぎる。」

「それじゃあ、えりは家の中にいて私たちにお世話をされるのが嫌ってことですか?」

「それは分からないが・・・。」


向井さん、いつの間にか復活してる。けど、手が震えてて紅茶がこぼれそうだよ。


「共働きだったのなら、えりにとって職を失うってことは、この世界の女性の認識と比べると、もっと現実的なものなのかもしれない。えりのいた世界の状況にもよるが、再就職が困難な世界なら、今回の俺の話はえりにとって想定以上の衝撃だったのかもしれないな。俺たちの発言が、ちょっとした忠告から、脅しレベルにまで跳ね上がる可能性もある。」


"脅し"って言葉に、俺も向井さんも息をのむ。

そんな、まさか、ありえない・・・。女の人が男の職について、重く受け止めるなんてこと・・・ある?

無いよ、そんなこと。

しかもそれが、俺たちの職についてなんて、

これじゃあ心配してくれているってぬか喜びできない。心配しているどころか"脅し"としてえりが受け止めているなら、そんな、俺たちはなんてことを・・・。


「言ってしまったもんは仕方ないし、俺たちだってえりの世界の常識を知らないから、何が地雷か分からない。だが、そんなことも、想定しておくべきだったな・・・。」


なんで石川さんってそんなに冷静なの!?

もしあの話を俺がしていたんだとしたら、俺だったらすぐさまえりのもとに飛んでいって、泣きながら土下座して好きなように過ごしてくれって懇願していたと思う。


向井さんが、手を握りしめて、紅茶のコップを割ってしまいそうなほど怒りで震えているのが視線の先で分かった。その目は、テーブルをにらみつけている。


「私たちは・・・えりを傷つけてしまったということですね。」

「俺たちが、じゃない。俺が、だ。」


その石川さんの声が、ちょっとだけ震えていた。

ああ、やっぱり、石川さんも相当後悔しているようだ。

ポーカーフェイスがうまい。でも、声や手までは誤魔化せないようだ。手も、震えていた。


「石川さんだけじゃない。止めなかった俺たちも、悪い。それに、こうやって話してくれなかったら、俺はそんなこと考えもせずに、普通にえりに接していたと思うよ。」

「ええ、そうですね・・・。嫌な役目をさせて、すみませんでした。それと、ありがとうございました。」


石川さんは、首を振り、深く息を吐いて、苦々しい顔をした。

それでも、と言葉を切って、考えながら発言するよう、ゆっくりと話す。


「この世界に来てしまった以上、えりは俺たちに守られないといけない。俺たちの世話をうけないといけない。だから、えりの身の安全を守るために、それを俺たちがしたいために、俺はえりに訂正しに行くつもりはない。」


その石川さんの意見に、俺も向井さんも頷いた。

いずれにしても、誰が夫になっても、えりから生活費を受け取ることはできないし、今後も揉めることになるだろう。えりがしびれを切らして、俺たちの目を誤魔化してどこかで危ないことをする危険性もある。それを阻止するためには、今回のことは予想以上にえりを追い詰めてしまったとしても、今のまま勘違いしてもらった方が良い。

仕事をクビになることなんて、たいしたことじゃない。俺たちにとっては、えりと離婚することの方が一大事なんだけど、今はまだ、えりがこの世界の常識を知るまでは、黙っておこう。


ずるい男だと思う。もし、えりがそれを知って、離婚してくれと言われたら、俺は泣いてすがりつくかもしれないけど・・・受け入れるしかないよね。こんな夫、さっそくえりを悲しませてしまって、えりに軽蔑されても仕方ない。


「とりあえず、ここまで考えたんだが、この情報量じゃあ、えりのあの"諦めたような表情"の答えは分からないな。それこそ、仮説どころかいろんな妄想ができてしまう。」


そこまで言って、石川さんは冷めてしまったであろう紅茶を飲む。

これで話は終わりってことだろう。


今回の失態は、本当に二度と繰り返してはいけないことだ。


えりの、あの諦めたような表情の理由は分からない。それを考えるには、俺たちはえりのことを知らなさすぎる。

けど、今回のことはえりを"脅す"ことになったってことが分かった。

もうこれ以上、えりを追い詰めないようにしたい。あんな顔、もうさせたくない。

それは、誰も口にしないけど、きっと石川さんも向井さんもそう思っている。

だから、俺もあえて言うようなことはしない。


俺は、冷めてしまった紅茶を一気に飲み干した。





そうして俺たちの第一回夫会議は、重々しい空気を残したまま、御開きとなる。


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