状況整理
その後、向井さんに勧められるがまま、部屋に戻って休ませてもらうことにした。
疲れたというよりも、気持ちの整理が追いつかない。
生活費の話をしたことで、予想以上の事実を知ることになった。
夫たちは、私のことを尊重してくれる。でも、それは結構危険な橋を渡っていた可能性があった。
そして、知らないながらもその橋を渡らせていたのは私になる。
なぜ知らないのに渡らせることになったのか、それは、私にこの世界の常識がないからだ。
そんな私を、今後も彼らは尊重してくれるだろう。
それがとてつもなく怖い。
間違っているのかどうかも、分からない。自分の行動がどんな影響を及ぼすのかも、分からない。
本当に、夫たちはそれほど危険な橋を渡る可能性のある私と結婚して、メリットがあるのだろうか。
休みやすい仕事っていうけど、帰宅してから私の世話を焼くなら、メリットよりもデメリットの方が多いんじゃないの?給料も半分を生活費に取られたりするんだし、絶対結婚しない方が良い。
あの三人は、国に弱みでも握られている、という可能性が考えられるけど・・・それを直接三人に聞けるほど、まだ仲良くもないし、興味本位で聞けるようなことでもない。
まあ、いずれにしろ、彼らが私に優しくするのは、嫁に対する好意ではなく、嫁を得ることによって生じるあるモノのため、っていう線であることは確かだろう。だって、誰とも分からない女といきなり結婚なんて、普通ありえる?何か理由があるとしか思えない。
と、なれば・・・。
私は、彼らに迷惑をかけないように日々を過ごすしかないんじゃないか?
確かに、私は独身貴族になるのが夢だった。
この世界で生きていく中で、全てを夫たちに任せるのは嫌だ。
国から給料を貰っていながら自分だけ何もしないのは、今まで見てきた男の人からこんな人間にはなりたくないと思っていたか嫌だ。
それに、私の生活を、人に支配もされたくない。
自分のために働いて、自分のために生きる、っていう生活をしたかったから独身貴族になりたかったのに・・・。それが叶わないのがこの世界。正直受け入れがたい、でも受け入れないといけない。
私を尊重してくれる夫たちの命運を握るのも、私なのだ。
この、この世界の常識を知らない、私が握っているようなもの。
生憎、家事をするのは止められなかった。
それだけで満足しておいた方がいいのかもしれない。
これ以上、気になったことを下手に望んで、夫たちに迷惑をかけないほうがいいのかもしれない。
だって、一人で生きたいなんて無理だし、夫たちに助けて貰わないと満足に食材も買えないんだから。
家事をして、毎月国からお金をもらって、自分のためにお金を使う。
それだけで、満足しないと、だって、だって。
「だって、どうしようもないじゃん・・・。」
一人で生きていけないんだから。
目が覚めるとカーテンからオレンジ色が差し込んでいた。
知らないうちに泣いてしまっていたのか、ほっぺたに涙のあとがついているようで違和感がある。
「結構寝ちゃってたんだな・・・。」
ちょっと休むって言ってから、結構時間がたっているみたいだ。
あの三人、心配しているかな・・・。
「ちょっと、押さないでくださいよ。えりの声が聞こえないでしょう・・・!」
「おいバカ!声がでかい。聞こえるだろう。」
「二人とも黙ってよ!今、なんか声がしたような・・・。」
「えり、えりは無事でしょうか・・・!」
声の内容から、心配してくれていたことはわかった。
迷惑をかけてしまったみたいだ。
でも、この寝起きの顔で出て行くのもな・・・。
一応寝ていたことを報告しよう。
「あの・・・。」
「「「!!!」」」
「え、えり、大丈夫ですか?なかなか部屋から出てこないので、何かあったのかと思って、ぬ、盗み聞きをしていたわけではないのですが・・・!」
聞き耳を立ててた時点でちょっと不審者だよ。まあいいけど。
「すみません。ちょっと休んでいる間に眠ってしまっていたみたいで・・・。」
「そ、そっか、よかったあ・・・。あ、喉渇いたでしょ?飲み物持ってこようか?」
「いえ、リビングまで飲みに行くので大丈夫です。ちょっと顔を洗ってから行きますね。」
「ああ、じゃあ飲み物用意しとくな。」
声が遠のいてから、ちょっとしてから動き出す。
うん、心配させちゃった。今度は心配させないようにしないとね。
心配されると、前よりも申し訳なさが強いけど、戸惑いはなくなった。なんで優しくされるのか、自分の中で理由が分かったからだと思う。
「さて、服もしわがついたし、動きやすいのに着替えてから顔を洗おう。」
服をさっさと脱いで、化粧室に移動する。
顔を洗うと、気持ちが洗われたように、ほんのちょっとだけすっきりした。




