予想外の展開
「私が外に出られないから、皆さんの補助がないと暮らしていけないのは分かります。食材の買い出しなんかは完全に頼り切りになるかもしれませんし、この世界で生きていく上で必要な知識なんかも、皆さんに教えて貰わないと、ほとんど分からない。正直、皆さん無しでは生きていけないと思います。」
「そんな。えりは自分で出来ることを積極的に取り組んでいます。もう少し頼ってもらいたいくらいですよ。私たちは、えりに不自由な生活を送ってもらいたくありません。なので、もっと頼ってください。」
向井さんが嬉しそうに頰を染めながら、返答してくるけれど、私が本当に言いたいのはそこではない。
申し訳ないなあと思うけれど、言わせて貰おう。
「頼らざる得ない状況ではありますが、私にもプライバシーがあります。」
「!!えり・・・。」
「クレジットカードの暗証番号は封筒に入れて未開封のまま渡してくださり、今回の契約書も見られても問題はないのですが・・・。例えば、私のスマートフォンの通話履歴や通販の購入履歴なんかも、皆さんは見ることができるのでしょうか。」
というか、スマートフォンの通話履歴とか通販の購入履歴ってそもそも見れるようになってるのかな。と疑問だったけど、向井さんの反応を見る限り、頭に?が飛んでいるわけではないので、多分問題ないよね。言いたいことは伝わっている様子だ。
「見ることはできるが、えりは見られたくないだろ?」
そこで、横から石川さんがやってきた。その後ろに武田さんもいる。
「それな、今朝三人で話してたんだよ。」
そこで、石川さんが説明してくれて分かったことは、どうやらこの夫達、たった数時間の付き合いではあるが、私のことをある程度把握して行動してくれたということだ。
この場合は夫達と、田中さん、になるのかな。
今朝、向井さんが朝食の買い出しに出かけた時、マンションに帰り着くと、マンション前に田中さんがいたらしい。そのときに、田中さんが向井さんに、クレジットカードの暗証番号の入った袋と、スマートフォンの契約書が入った封筒を渡した。
そして、田中さんが「夫である向井さんにお渡しするのが普通ではあるので、このようにお渡ししましたが、あの方の今後の生活に使う大切なものなので、私の方からもあの方に連絡させておきましょうか。」と、向井さんにお伺いを立てたらしい。
向井さんも、昨日の私の要求などで思うところがあり、私が起きた時間帯を見計らって連絡してもらうようにお願いした。
で、封筒を二つ持ち、マンションに帰って石川さんと武田さんに田中さんとの会話を説明すると、石川さんが「もし封筒を渡す前に田中さんからえりに連絡がいくと、こそこそとえりの生活を管理しているようで、嫌がりそうだぞ。」と、武田さんが「えりに誤解される可能性があるかもしれないよね。」との意見により、武田さんから田中さんに、私への封筒の件での連絡は取りやめて貰った。
そして、封筒に関しては私が起きてからにしようとなったのだが・・・。
「でもえり、昨日遅くまでいろんな説明を一気に聞いて、疲れているようでしたね・・・。」との向井さんの意見によって、起きて早々の私にすぐに封筒を見せるのはやめて、今日一日の中で、ちょっとずつ小出しにしていこうという意見になった。
ただし、今日中に封筒は渡してしまうべきだと思うので、私が手持ちぶさたになった時や、無理に手伝いをしようとした時に説明と合わせて封筒を渡してしまおう、
という話になっていたらしい。
無理に手伝いをしようとするって何だ。
「きっと、えりは、私たちが全てお世話をすることを嫌がるだろうと思ったので・・・。クレジットカードの暗唱番号はえりが自分で購入するだろうから、そうならば私たちが知る必要はないので、見ていません。ただ・・・。」
「スマートフォンの契約書に関しては、えりが起きてくる前に、田中さんから連絡があって、封筒の中身を間違ってしまったかもしれないから確認してくださいって言われて・・・」
「慌てた向井が、えりに不正請求があるといけない!って言って開けちまったんだよ。」
三人が気まずそうに話してくれた。
なるほど、事の顛末は分かった。
それじゃあ、この三人は、私のプライバシーを侵害しようとしたどころか、守ろうとしたし、私が勘違いして三人を疑わないように慎重に動いたわけだ。今後の関係を考えて、最善の策をとろうとした。・・・向井さんが最後には封筒を開けてしまったけど。
でも、・・・うん。
「すみません。私、三人のこと誤解しそうになってました。」
三人が、私のプライバシーとか人権とかを考えてくれていなかった訳じゃ無かった。
この様子だと、私の通話履歴とか見ることができたとしても、見ないでいてくれるだろう。
・・・不足の事態が起きたら、向井さん辺りは見てしまうかもしれないけど。
それは許容範囲だ。
「先ほど言っていた、通話履歴や購入履歴に関しては、えり宛てに封筒が届きますので、中は見ないようにしてお渡ししますね。」
「はい、ありがとうございます。」
喧嘩どころか、話し合いをする必要もなかった。
うん、この様子なら、四人でなんとか仲良く暮らしていけるかもしれない。
「はー、一瞬空気がビリッと引きつった気がしたから、びっくりしたー。」
「あはは。ごめんね。」
「おい、ちょっと待て」
「なんで、武田だけえりと仲良さげなのですか。」
・・・ちょっとまだ心配かもしれない。
二人に連れられて台所に行ってしまった三人を見送りながら、第二ラウンドの知らせる音が聞こえたきがした。




