表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/67

異世界らしいよ






促された部屋は、私が寝ていた部屋の側だった。


ちょっとした会議室みたいな部屋だけど、簡易台所と冷蔵庫があり、一緒に部屋に入った中の若い男の人がサッと台所から四つほどのティーセットを取り出して、田中さんに目配せをする。

田中さんは席に着いた私に、希望の飲み物を聞き、何でも結構だと伝えると、紅茶を男の人に頼む。

そして、男の人はサッと紅茶を入れはじめた。


なんで私に直接聞かない。

え、さっきの後ずさりがここまで影響与えてるの?


「すみません。紅茶ができるまで、どうぞ茶菓子でも…」


田中さんがそう言うと、別の男の人が冷蔵庫から冷えたケーキを出してきた。

なかなか美味しそうだけども、今は早く話をしてしまいたい。しかし、田中さんの笑顔を目の前にすると断りにくい。あまり焦りすぎるのも良くないかな、と相手の好意を受け入れることにした。


「美味しそうですね。私が先に選んでも良いのですか?」


「えぇどうぞ。望むのならば、全て食べていただいても構いませんので。」


全体食べたいと思ってるように見られた?

たしかに私って肉付きは良い方だけれども…

なんだろう、なんかやりづらいぞ。

美味しそうって言ったらまずかった?

いっぱい食べたいと思われたのだろうか。


「いえ、一つで結構です。」


取り敢えず笑顔で対処した。





…なんでそんな悲しそうな顔をするんだ。


「そうですか…」


田中さんだけでなく、ケーキを乗せたトレーを持った男の人も残念そうな顔をした。



やりづらい。

何が正解かわからない。

でもケーキは一つで十分だし、食べられないのに全部もらったりするのは反対に失礼だ。


取り敢えず、田中さんから視線を外して、トレーの上にあるケーキから一つ選び、お皿においてもらった。


ちょうどそのタイミングで紅茶もテーブルに置かれて、部屋にいる男の人のうち田中さん含めた3人が席に着いた。

え、なんで3人しか座らないの?


私の表情が分かりやすかったのだろう、田中さんが説明してくれた。どうやら席に着いた3人が責任者的立場の人で、それ以外の人たちは警備とか給仕とかをする人たちらしい。

なるほど、よくわからないけど、そう決まっているらしい。でもみんな座ってほしい。落ち着かない。


そんな私の気持ちを置いて、さっそく田中さんからの説明が始まった。




説明の内容は、まったくの予想外なものだった。






まとめると、ここは私のいた世界とは似ているけど異なる世界。

使われている言語は同じ日本語。様々な人種がいて、世界共通語が日本語なのだとか。

文明レベルはどれくらい変わるのか分からないが、外を見て判断してもらいたい、と。


そしてここからが重要で、この世界は地球の磁場の歪みが原因で150年前から生まれてくる女性が極端に少なくて、ほぼ全て男性が生まれるようになったのだとか。

女性は突然変異的に生まれてきて、希少なために国で保護するらしい。

国の規模にもよるが、女性はどの国でも男性の1%未満の人数しかおらず、国で保護されないことは有り得ない。

じゃあ人口が一気に減るのでは、と疑問が出るのだが、解決策が二つ設けられているらしい。

一つは、保護した女性から、卵子を定期的に提供してもらい、それを培養器の中で授精させる。女性の人口が減りはじめてから、こちらの分野が人類存続のために目覚ましい発展を遂げたおかげで、人口は一定以上減らずに維持できているようだ。

そして二つめ、異世界から不定期に女性をこの世界に招いて、卵子を提供してもらう。この世界は魔法だとか非科学的な事柄はないが、神が存在すると認識されている。何故認識されているのかというと、100年ほど前に突如世界に降りてきた神なる者が、

女性の肉体に対する実験や、心身の長期的な苦痛等を与えないことなどを条件に、とある世界から独り身で生涯を終える可能性の高い女性をこの世界に呼び出すことを約束した

ということらしい。


…これは、ドッキリでしょうか。


どういうことかわからない。誰か教えてください。


ここが異世界だという発言は、実際外を見てみないと信じられない話だし、テレビ番組の企画のドッキリかもしれない。けれど、目の前のこの人たちも真面目に話している。

それに…

なぜかよくわからないが、私自身がこの世界は異世界であるという話をされた瞬間、スッキリしている。

ここは異世界なんだよ、これからはここで生きていかないといけないんだよ、と頭に諭されてる感覚である。

どういうことか分からないって?私も分からない。ただ、この話を受け入れないといけないと思ってしまう。

私に何があったんだ…

それも含めて、到底理解が及ばない。



私の混乱を察したのだろう。田中さんは、一度紅茶を飲んで喉を潤して、補足説明をした。



「異世界から来ていただける女性は、混乱を防ぐためか、基本的には記憶がないまま、先程の部屋に現れます。記憶を保持したまま、この世界に来たのは我々の知る限りでは初めてのことです。」


はい?


みんなこの世界に来るときは記憶無くなっちゃうの!?

え、なにそれ!


「神が選定しているのか、女性はだいたい10代後半から30代前半です。記憶はこの世界に来る際に消えてしまうのか消されてしまうのかわかりませんが、この世界で馴染んでから不意に元の記憶が少し出て来る方もいらっしゃいます。しかし、ほとんど忘れたままです。」


この世界に連れて来ている神とやらが何者かわからないけど、とんだ御都合主義というか…。


異世界から女の人を連れて来て保護して、子供を産んでもらうなら、記憶がない方がやりやすい。都合がよすぎる。

それに、女の子だけが生まれにくい世の中ってのもよくわからないしそんなものあるのだろうか。非現実的すぎて納得出来ない。

でも、今の説明で、私がこの世界で何を求められているのかは分かった。


「私も、貴女方に卵子を提供しなければならないのですね。」


というか、強制的に取られるのだろうか。

卵子を取るってことは、毎月子宮に機械でも突っ込んで取るのかな、うぁー嫌だ痛いの嫌い。

この世界の科学技術が進んでて痛くなければいいんだけど…いや、それでもなんか嫌だな。保護してやる代わりに毎月卵子提供しろなんて、人権無視した交換条件がありそうだ。嫌だ嫌だと思っても私に拒否権はないだろうけど…。ここが異世界なら、帰る場所もないし身分証もないので、生きるためにはこの人たちの要求は受けなきゃいけないだろうし…


うわぁ…これ、詰んでない…?


「ご安心ください。先ほども申し上げた通り、神は、女性に対する心身の長期的苦痛を与えないことを条件に上げております。卵子の提供は、任意なので、嫌だとおっしゃる場合は提供していただかなくて結構です。」


ええ、それでもいいの?

でも、そんなことしたら人口増えないんじゃない…?

私だけが卵子提供を断ってもあまり影響はないのかな…


「卵子提供を拒否されている方は他にもいらっしゃいます。人口が減りだしていても、無理強いはさせたくないので、子供が産まれないのならそれはそれで仕方がない。という意見の国民が大多数、国のトップも同じく。なので、問題はありませんよ。」


「反対に、毎月卵子を提供している人もいるのですか?」


「はい。あぁ、そうですね。産まれた子供の話もしておかなければいけませんね。産まれた子供は、流石に毎月産まれて来る場合もありますので、基本的には保育施設に預けられます。」


どうしても希望する場合は、子育てをしても良いけど、大体は施設に預けられる。子供の父親は、国民の中でランダムで精子が選ばれて、受精、そして子供が産まれるので、子供が産まれた時に初めて精子提供した父親に出産の話がいく。

それぞれ、子供の親は施設に会いに行けるし一緒に住めるが、この世界では施設がメジャーらしい。というのも、現代と違って、この世界は独り身ばかりである。仕事をして帰宅してから子育てはどう考えても無理な話なのだ。子供の教育のためにも、一人の時間が長いのは良くない、危ないし、外の世界を知る機会が少ない。そのために施設があって、子供は施設に住み、親は仕事が休みの日に子供に会いに行けるような制度が確立されている。

この教育施設は、成人するまでエスカレーター式で、能力や適性に合わせて学校が変わったりはするが、基本的に退学はあまりなく、成人した後は個人に適した仕事につくことも出来るのだという。

就職氷河期という単語をよく聞いていた身としては、就職先まで援助してくれる教育機関が当たり前なんて、かなり素晴らしい社会ではないか。人口が減っているから、人が足りないのかもしれないけど。



しかし、子供が産まれるならちゃんと育てたいよなぁ…結婚願望はないし、卵子の提供は少し抵抗あるから、しばらくは断りたいけど…

子供は好きなんだよね…。



なるほど、この世界は、元の世界と常識的なところが結構異なる。27年分の、元の世界の培われた常識があるよりも、記憶がない方が楽かもしれない。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ