武田side 4
えりは料理ができるらしい。
正直、半信半疑ではあったけど、実際えりが包丁で野菜を切っているところを見ていると、えりが言っていたことは嘘ではなかったのだと実感する。
トントンと包丁で切っていく音が、一定のリズムで、普段から料理しなれているんだろうことを実感する。
包丁だけじゃない。石川さんと一緒に手際よく料理する臨機応変さ。
学校で勉強して、実技として料理もこなしてきたから、俺だって作れないわけではないけど、えりの慣れようを見ると、料理ができるっていうのと料理を普段からしていることの違いは、こういうところなのだと思った。
味見をする所で、石川さんがえりの使った小皿を使って味見をしたんだけど、
えりってほんと無防備だ・・・!!
そんな、間接キスなんて・・・!!えりって気にしていないのか、分かってて俺たちのことを試しているのか、それとも何かほかに理由があるのか、まったく分からない!
俺たちが動揺していることなんて、えりはこれっぽっちも分かってないんだろう。
向井さんはあからさまに動揺して、石川さんに注意していたけど、えりに反撃食らって困惑しているし。「効率的だと思うのですが」と言っているところを見ると、向井さんがなぜこれほど動揺しているのかは分かっていないんだろう。ああ、となれば、俺たちのことを試している可能性は低いかもしれない。
石川さんは、えりの反応を見て、問題ないと思ったのか、気にせずに料理を続けているし。
あ、完成したみたいだ。
でも、石川さんの行動は羨ましい限りではあるが、ある意味ナイスだ。
だって、味見の小皿の間接キスは、えりにとって気にすることではないってことだ。
今後一緒に料理する時は、俺も味見をえりと同じ小皿でできる。
間接キスなんて、小説とかドラマでしか知らないものだったんだけど、今俺たちは結婚したんだし、えりとできる権利を得ているんだ!
えりのことを尊重しようとは思うけど、えりが嫌がっていないんだったら、ちょっとした夢くらい叶えたいよ!
けど、今は何より、えりの作ったご飯をいただく。
まさか俺のお嫁さんが作ってくれたご飯を食べる日が来るとは・・・!
全力で生活のお世話をしたいと思っていたし、今も許される限りはサポートするつもりではいるけど、えりに何かをしてもらうってすごく嬉しいし一生の宝物にしたい。
うん、ホルマリン漬けにしたい。
いや、だめだよね、食べないと、せっかく作ってくれたんだし。
その代わりに、何かえりにお返ししたいな。
「えり、何か欲しいものある?」
「え、欲しいものですか?ないですけど。」
あっさりと拒否された。えりって欲しいものとかないのかな。
「あ、でも、当面の生活に必要なものをネットで購入するつもりではあります。」
そっか!それなら・・・!
「えり、欲しいものがあったら言ってね!朝食のお礼にプレゼントするから!」
「わ、私もえりにプレゼントします!」
向井さんも便乗してきた。気持ちはわかるので、一緒にえりが欲しいものを買ってプレゼントしよう。
けど、えりは顔をしかめる。
「え、でも、これからもご飯は作るつもりですし、たいしたことをしたつもりはないので、受け取れません。」
撃沈した。
「え、えり・・・。」
俺、えりのためにお金を使いたいのに・・・。
俺の様子が、あからさまに落ち込んだ様子だったからか、えりが戸惑いながら、スプーンを置いた。
「えっと、今日の予定を聞いておきたいのですが。」
うう・・・話をそらされただけだ。何かおねだりしてくれるかなって思ったのに・・・。
石川さんが、そんな俺を横目で見ながら、えりの質問に答える。
「冷蔵庫の中身があんまりないからな。これを食べたら食材を買いに行こうと思ってたんだが・・・。」
「それって、人手が必要ですよね。」
「まあ、野菜とか飲み物、足りない調味料を含めると、結構な量になるが・・・。男2人で足りると思うぞ。」
「えりは昨日の今日でこの家のことをまだ良く分かっていないでしょうし、えりを一人残しては行きませんよ。だから、安心してくださいね。」
「あ、いやーそうだね・・・。」
向井さん、えりはここに一人置いて行かれるかどうか不安がってるわけじゃないと思うよ。俺たちにあまり頼らないことを考えると、多分純粋に人手が何人必要で、残った人と家の用事をしたりとかそんなことを考えてるんじゃないかな・・・。効率的に考えそうだし・・・。
「買い出しに出かける人を決めないとな。」
「そうですね・・・。私は車を持っているので、出しますよ?」
「俺電車通勤だから車持ってねえんだよな。悪い、じゃあ出してくれ。ちょっと買っておきたい調味料があるから、俺が一緒に行くわ。」
あれ、それじゃあ俺がお留守番かな。まあ、俺も車持ってないし、えりに欲しいものがないって言われた今は、買いたいものもないから、任せることになるのか・・・。
洗物をして、軽く部屋の整理をすることになるのかな。えりは部屋で荷物の確認とか整理するだろうし。
ああー・・・。せめてえりと同じ空間で過ごせたらいいんだけど・・・。
無理だろうなあ・・・。
うう・・・。車持ってる向井さんや、手際よく料理する石川さんと比べて、俺って・・・かっこいいと思われる要素ゼロなんじゃないの?
さっき、あからさまに落ち込んだのが駄目だったのかな。男らしくなかったよね。
ああ、へこむ・・・。
「じゃあ、武田さん。お願いしたいことがあるのですが。」
そこで、俺を置いて話が進んでいると思っていたところで、えりから話しかけられた。
え、何!?お願いしたいこと!?
「え、な、なに?」
ちょっとびっくりして、動揺が声に表われる。あああ、俺のばか!かっこわるい!
「私、田中さんにお金は頂いたんですけど、インターネットで衣服を購入したことがあまりなくて。購入の仕方を教えてもらいたいのですが・・・。」
え!えええ!!
これって、俺、頼られてる・・・!?
「うん!分かった!任せて!!」
「すみません、よろしくお願いします。」
ぺこりとえりに頭を下げられたけど、こちらから頭を下げて教えさせてもらいたい!!
向井さんと石川さんに羨ましそうに見られてるけど、譲らないからね!
えりに初めてのお買い物を教えるのは俺なんだから!
何はともあれ、えりに嫌われてないようでよかった!!




