気がつけば棺桶の中
27歳、高野えり
気がついたら棺桶の中でした。
昨日は普通に寝た。
明日休みだから、いっぱい眠れるぞーと意気込んで、ベットにダイブしたのを覚えている。
そして、スッキリした頭で目が覚めたら、なぜか私は棺桶みたいな箱の中で横たわっていた。
あまりの寝入り様に死んだと思われたのか?いやそんな、私一人暮らしだし、誰が通報するんだ。
通報されるくらい長い間眠っていたとか?いやそれもない。確かに疲れてたけど、そんな、寝てる間に死ぬなんて。
でも今こうして目が覚めているということは、生きているということだ。たぶん。
取り敢えず、身体を起こして周囲の様子を見てみようじゃないか。
家族が葬儀の準備に来てるかもしれないし。
まだ棺桶にお花は入れられてないな、よし。
それじゃあ周囲を驚かせない様に、ゆっくりと…
「おおお…!2年ぶりに、女性がこの世に訪れた…!」
目の前で、目をまん丸に開けたおじいさんが一人立っていました。
頭が真っ白になったけれども、数年で培われた社会人としての行動を、身体が覚えていた。
さっと棺桶から出て、おじいさんの目の前まで行く。
「はじめまして、高野えりと申します。すみませんが、状況を把握できておらず、私が寝ていた間の事を、お聞かせくださいませんか?」
寝起きで頭があまり動いてない中ではなかなか頑張ったつもりだけど、失礼がなかったかな、恐る恐るおじいさんを見ると、おじいさんはさらに驚いた表情をして、唇が震えていた。
え、なんで?
「も、ももも申し訳ない。そんなにかしこまらないで下さい。私はこの部屋を常に清潔にするように仰せつかっています、管理人です。女性に頭を下げさせるなど…!」
なんかよく分からないけど、私が頭を下げているから、驚いているのかな…?
「いえ、頭を下げるのに男も女も関係ありませんので…」
よく分からないけど、取り敢えずそう返すと、おじいさんはまたもや驚いた顔をしたが、少し気難しそうに考えるそぶりをして、さっと頭を下げた。
「少々、こちらでお待ちいただけますか。この状況を説明できる方を呼んで参りますので…」
「あ、はい。お手を煩わせてしまい、すみません。」
私がそう返すと、おじいさんはそそくさと部屋から出て行った。
この状況を説明できる人とやらを呼びに行ったのだけど、どれくらいで帰ってくるのだろう。
よく分からないが、とりあえずは今のうちに部屋にあるものから状況把握してみることにした。
ざっと見た感じ、部屋には、私が入っていた棺桶(棺桶みたいだと思っていたけど白い棺桶だった)、棺桶の奥には祭壇のようなものがあり、そこには女神のような像が置いてある。
他にはこれといって目立ったものはなく、祭壇と棺桶と女神像だけの、シンプルな部屋だった。しかし、その割に大分広い。結婚式場くらいか、…ざっと見た感じでは何畳とかいうので説明しにくい。取り敢えず広い。
私の入っていた棺桶は、真っ白でシンプルなものだけど、近づいて見てみると、花の模様が彫られていた。
最近の棺桶は装飾がついているのか…時代は変わるんだなぁ。と言っても、我が家は葬式の時はお坊さんが来ていたはずなので、こう西洋式の葬式はわからないんだけど…
あれ?
そういえば、我が家は仏教系だったよね、なんで祭壇なんてあるの?
これ、もしかして葬式じゃないんじゃないか…?
そういえば、おじいさんが初めに言ったセリフもおかしかったような…
2年ぶりに女性見たって…
生き返った女性は2年ぶりって意味か?と流してたんだけど…
一人で考えていてもよく分からないので、困った時は他人に聞くしかない。
取り敢えずおじいさんが帰って来た時に何を聞くのか整理しておこう。
・ここはどこなのか。
・私はどれくらい眠っていたのか。若しくは何月何日か。
あとは…と考えていると、おじいさんが出て言った扉の向こうから複数の足音が聞こえて来た。
意外と早かった。
取り敢えず、日時と場所の確認だけでもして、早く帰ろうと意気込んだところで、扉が開けられた。
「お待たせしました。おお、本当に女性が…!」
扉を開けたのは、ダンディイケメンの、スーツを着たおじさまだった。私を見て、おじいさん同様少し目を開けてから、感動の表情を前面に出して、こちらに歩いてきた。
おじさまの後ろには、同じ歳くらいの男の人やおじさまより少し歳を召した人だったり、あぁ1番後ろにあのおじいさんがいて、合計10名ほどで部屋に現れた。
ぞろぞろと、男の人の大行進は威圧感がある。
しかも、全員が笑顔。
妙な威圧感を感じて、思わず一歩後ずさってしまった。
その私の行動を見て、先頭のおじさまはピタリと歩みを止め、顔も少し悲しそうに変える。
え、何、私が悪いのか?
そりゃあそんな大勢でニコニコと歩いてこられたらちょっと怖いだろう。わかってください。
「怖がらないでください。貴女に害をなすことはありません。」
いや、別にこの人たちが害をなす人達だとは思わないけども…
「すみません。突然でびっくりしてしまって…」
だから、思わず後ずさったことは許してもらいたい。
思わず後ずさるなんて、27歳独身を志した女のすることじゃないよね、なんか自分で自分の行動がか弱さを演出してるみたいで気持ち悪いと私も思ったし、自分でもダメージ受けてるから許してください。
なんて言うのも自虐すぎるので、取り敢えずびっくりしただけ、と取り繕うと、
おじさまは、ほっ、と安心したように頰を緩めて、その場で挨拶をしてくれた。
「はじめまして。田中誠と申します。貴方様に起きた出来事を説明させて頂きたいので、こちらでは席も机もございませんし…どうぞ、別室に来ていただけますか。」
警戒させないように、その場で後ろの扉まで促そうという姿勢が見えて、気を遣わせちゃったなぁ…と申し訳ない気持ちがした。
残りの9人ほどの男の人たちも、さっと左右に分かれて、私が扉まで歩けるように道を作る。
なんかお偉いさんになった気分だけど、早く扉まで行かないとずっとこのままであるだろうと周囲の雰囲気から感じ取り、
取り敢えずは田中さんの後に続くようにこの部屋から出ることにした。




