説得してみる
さっさとお風呂から出て、寝間着を着て、髪の水分をタオルで取り、確かドライヤーは化粧室にあったので、肩にタオルを乗せたまま出た。
えーと、髪の毛を乾かしてから話をするか、さっさと話をしてしまって髪の毛を乾かすか・・と悩んでいれば、私が出てきたのに気付いた武田さんが、私の服装に気がついて・・・慌てだした。
あ、忘れてた。
この寝間着の露出度のこと・・・。
いや、露出度って言っても、カーディガンを着ている今となっては膝下のスカートから覗くふくらはぎと脛くらいしか露出してないんだけど・・・
「え、えええええり!その格好・・・!」
脛をちらちら見ながら慌てているが、正直今はそれどころではない。
ここに来て、この服装が失敗だったことに気がついた。
この服しかなかったから仕方が無かったのだけど、この露出によって、話題が家事のことから服のことに移る可能性が出てきた。
ああーもう!文化の違いって面倒くさい!!!
「あーえり、寝間着はそれしかなかったのか?」
「はい。探したのですが・・・これだけでした。」
石川さんもちょっと気まずそうである。
うーん・・・それでも、これ以外ないんだよ・・・。
お願いだから、話の続きをさせてください・・・。
向井さんの方を見れば、やはり先ほどのお風呂場での反応と同じように、動揺している様子。
うん、申し訳ないけど、この服のことに話が移りきる前に、さっさと家事のことについて話をしたい。
私は三人の様子に構わず、向井さんが座っているテーブルの向いに座った。
私が座ると、石川さんも武田さんもテーブルに座る。
石川さんが向井さんの隣で、武田さんは私の隣だ。
全員がイスに座ってしまえば、私の脛の露出なんて気にならないだろう。
というかほんと、いずれ慣れて下さい。
「さっきの話の続きですが・・・。」
「・・・その前に。えり、まだ髪の毛が濡れています。そのままでは風邪をひいてしまいますよ。」
やはりそう来たか。
乾かしても良いけど・・・。その前に、確約をとらなければならない。
「分かりました。乾かします。でも・・・髪の毛を乾かしたら、絶対に話をしてくださいね。」
「わ、わかりました・・・。」
これで逃げられないよね向井さん。
話してくれるって約束したし!
そうと決まれば、さっさと髪を乾かそう。
私が席を立つと、向井さんがぶつぶつ呟いていた。
「えりが話をしてくれって・・・」「えりの方から・・・俺に・・・」とか、何を言っているのか分からないが、約束をしたことを後悔するのは遅いんだからねー
武田さんが、「じゃあ俺ホットミルク作ってくるわー」と台所の方へ向かった。
え、牛乳あるの?
あ、私がお風呂に入っている間に買いに行ってくれたのかな。
ホットミルクが冷めないうちに、さっさとリビングに戻ってこないと。
私は早足で化粧室まで向かった。
髪の毛を数分で乾かし、リビングに戻ると丁度ホットミルクができたころだった。
「え、えり。蜂蜜はいる?」
まだ少し挙動不審な武田さんが、蜂蜜を冷蔵庫から出して問いかける。
「あ、じゃあもらおうかな。」
ホットミルクはほんのり甘い方が好きなのだ。
スプーン一杯くらいが適量だと思っている。
台所に向かって、どれくらい入れようか?と聞いてくる武田さんに、「スプーン一杯」と伝え、カップを受け取ろうとすると・・・
「え、やけどしちゃうから・・・あ、あー・・・」
触ったら駄目だよ、とばかりに私をホットミルクに近づけまいと手で遮ろうとするが、先ほどの話を咄嗟に思い出したのだろう。手が所在なさげにうろうろして、困ったように私を見てくる。
「コップを運ぶくらい、私できるよ。」
それでも、ホットミルクが熱いのは分かっているから、取っ手の部分をしっかり持って、こぼれないように運ぶけど。
丁度、向井さんと武田さん、石川さんの分もあったので、もう一つ手にとって、テーブルまで運ぶ。
うん、運ぶけど・・・。
運べるからね、私。
武田さんと石川さん、その心配そうな顔はやめてください。
「え、えり!?何をしているのですか!?」
テーブル目前にして、向井さんが私に気がついた。
え、気がつくの遅くない?注意されなかったから、容認されているのかと思っていたよ。
これほど近づくまで気がつかなかったっていうのは、思考がトリップしていたのかね?
「ホットミルクを運んでいるんです。」
丁度良いし、私の分じゃない方は、向井さんに渡そう。
そっとテーブルにホットミルクを置くのを、向井さんはおろおろと見守り、私がコップから手を離したら、ほっと息を吐いた。
子どもの初めてのお手伝いじゃないんだから。
これは本格的に、行きすぎた過保護だ。
むしろここまでくると、私の行動に対して彼が心配しないことがあるのだろうか。
もしかして、私が一人でお風呂に入ったのも、何気に心配してたり・・・いや、まさかね。
「それでは、話の続きをしましょうか。」




