常識の違い
って、田中さんに対する感想じゃない。
まず、この状況はどう考えても今後の生活に支障を来すので、早急に話し合わなければならない。
だってこれ、どう考えてもおかしくない?
私のイメージが悪すぎる!!
「だいたい何を考えてるのか分かるが、多分えりの考えてることは間違ってるぞ。」
私の妄想?想像?が膨らむ中、それを止めたのは石川さんでした。
「田中さんからの情報ってことで、説明役からは、簡単な説明しか聞いてない。えりの名前と、前の世界の記憶を持ったままこの世界に来てしまったってことと・・・結婚に対して消極的ってことだけだ。」
「消極的ってところが気になって、教えてもらおうと思って聞いたんだけど、それは夫婦生活の中で、えりが自分から話すまでは聞かないように、って言われた。」
最低条件の提示については話してないのかな・・・。結婚に対して消極的なのは、私も田中さんに話すのを嫌がったから、夫達が分からないのは当たり前だ。
「私が、結婚に関して出した条件については・・・?」
夫選定の条件、なんて言い方をすると流石に失礼だと思ったので、言葉を濁す。
ごめんね、それでも嘘じゃないからね。
「結婚に関しての条件、ですか・・・?伺っておりませんが・・・。」
顔をしかめて、記憶をたどるように話す向井さんが、いきなりはっとして慌てだした。
「ま、ままさか!何か粗相をしてしまいましたか!?すみません!えりを不快にさせてしまったのでしょうか・・・!?」
不快ではなくてニート宣言をしてしまったのかもしれないという焦りは感じているよ・・・
「うーん。"条件"なんてことは言ってなかったけど、俺たちには、変にかしこまったり距離を置いたりせずに、普通に接するようにって言ってたなあ。」
そうだよね?と武田さんが石川さんと向井さんに同意を求める。
二人も、その通りだと頷いており、戸惑った様子がない。
普通に接するように・・・
「え、それじゃあ、掃除をして欲しくないっていうのは、三人にとっては当たり前のこと?」
「当たり前というより・・・女性に掃除など家事をさせないことが、常識なのです。」
ええ!
それ、女性にとってかなり都合の良い常識じゃない!?
反対に、男の人は納得しているの!?
女性は仕事をしないのが決まりなんだよね。それで、家事をさせないことが常識って、さらに給料までもらえる女性って・・・
差別じゃないの!?
三人は納得しているのだろうか・・・。
いや、納得しているんだろう。
三人とも、それを分かっていて結婚したんだろうから。
私みたいに、結婚という選択を取らないといけない理由がなければ、だけど・・・
それは、また機会があった時に聞こう。
とりあえず、今はこの会話から一つ要求するべきことができたので、それを三人に納得してもらうことが最優先である。
これがこの世界の常識だとしても、この世界に来てたくさん諦めて譲歩したけれど、これだけは譲れないし、譲ったら私は駄目人間になりそうなのだ。仕事もせずに女遊びをして、母を病気に追いやった父と同じようになるのは嫌だ。誰かに何かをしてもらうのが当たり前で、自分がしたいことだけをする人生は、絶対に嫌だし、そんな男性と結婚したくないと思って独身貴族を目指した。いくら世間の決まりや常識があったとしても、私自身が一番なりたくない見たくない人物像になるのだけは堪えられない。それだけは少ないプライドのために阻止しなければならないのだ。
申し訳ないが、この主張だけは押し通させてもらう。
「この世界の常識はわかりました。」
その言葉に、向井さんはほっと安心したようだった。しかし、石川さんはなんとなく私の表情を見て、この後に否定の言葉が続くことを察したようだった。あからさまに苦笑いしないで下さい。
「でも、私にも、私の世界で得た常識があります。プライドも、あります。」
「えりの世界の常識・・・?」
武田さんの言葉に頷く。
私の世界のことは話すことがないだろうと思っていた。まさかこんなところで常識の違いが出てくるとは思っていなかったからだ。けれど、これほど常識に差があるのならば、いずれは話すことになるだろう・・・。
しかし、今はまだその時ではないし、時間がある時にじっくり話すべきことである。なので、私の世界の常識については割愛させていただく。
「田中さんに言われました。女の人は仕事ができないって。このマンションから出られないって。それが常識だからって。でも、人に何かしてもらうことが前提の生活は嫌なんです。」
そこまで言って、言葉を切る。
この三人は、私が仕事をしたがっていたことなんて知らなかっただろう。
三人とも、驚いた様子だった。
この世界に現われる女性が生きてきた世界の常識なんて、聞いたこともないだろうから。
女の人も働いている世界なんて、分からないだろう。
「だから、マンションから出られないなら、せめて家のことはさせてください。」
これが、私の要求である。




