お風呂掃除
うどんは美味しかったです。お汁も飲みました。暖まりました。
ご飯を食べ終えた後、お皿を流し台へ持って行こうとすると、向井さんにとめられる。
やんわりと食器を取られた。
「お風呂の準備をしてきて下さい。」
あ、お風呂の準備ね。皆早く入りたいだろうし、皿洗いは向井さんに任せて、お風呂は私がすればいいのね。確かに、うどんの丼しか洗うものないし、皿洗いは一人で大丈夫か。
それなら任せて下さい。
洗剤の場所分かるかなあ・・・。
いろいろ探してみよう。
「わかりました。」
さっそくお風呂場へ向かった。
すると、先客がいました。
武田さんが、せっせとお風呂を磨いていた。
「あれ、武田さん。お風呂掃除は私がしますので・・・。」
「え、え?」
何故か武田さんがきょとんとして、手をとめる。
ちょっと声が震えているんだけど、どうしたんだろう。
「お、お風呂を洗うよう、俺、向井さんに言われたんだけど・・・」
「え?私も言われましたよ?」
え?
二人して思考停止する。
んー?二人で洗ってくださいってことかな?
「とりあえず、一人じゃ大変ですよね。手伝います。」
腕まくりをして、ズボンの下も織り上げる。
ああ、服装は昨夜部屋着のまま寝てしまったので、パジャマではないけど上は黒いシャツと、下はゆったりしたズボンです。女子力なくてすみませんね。見せる相手もいないし、動きやすいのが一番でしょ。
今日一日この服装で顔面偏差値高い人達といたのは考えるとちょっと恥ずかしいけれど、突っ込まれたら、私の世界はこれが正装だと押し切ってしまえば良い。
汚れても問題ない服装だし、丁度良かった。
「え!ちょ、待って待って!!」
いきなり武田さんが慌てだした。
え、何々どうした。
「ああ、服、服が・・・!」
は?服が?
さっと服を見た。でも何も問題はなさそうだ。
ズボンももちろん破れてないよ。社会の窓口が開くようなズボンでもないし、問題ない。
「服がどうかしましたか?」
泡だらけの両手で顔を覆い、必死にこちらを見ないようにしている武田さん・・・いや訂正しよう、ちょっと隙間を空けてこっち見てる。
どちらにしろ、そんな洗剤の泡だらけの両手を顔に押しつけたら、目に染みて痛いと思うんだけど・・・大丈夫ですか?
「服の面積が・・・!」
はあ、服の面積に問題がありますか・・・?多分みなさんとあまり変わらないし、特に今は武田さんと同じスタイルなのですが・・・。
武田さんの言っていることが分からず、会話が成立しそうにないので、どうしたものかと悩んでいると、騒ぎを聞きつけた向井さんと石川さんがやってきた。
「武田、どうした・・・!?」
向井さん、武田さんのことは名字呼び捨てなんですね。慌てているからか、丁寧語もないし。
慌てた姿も、やはりイケメンはイケメンだ。胸きゅんなんてものは乙女思考が枯れて感じ無くなったけれど、格好良いとは思う。整っているなー羨ましいわー。
そんな向井さんも、こちらを視界に入れると、硬直する。
え、なんでしょうか・・・何かしましたか・・・?
「おお、神よ・・・!」
膝をつき、涙目で崇められました。
私はいつから神になったんだ。
向井さんが来ることによって、余計事態の収拾がつかなくなった。
石川さん助けてください。
私の表情が分かりやすいって言っていたよね、今すごく困っています。
石川さんに目線を向けると、石川さんはさっと着ていたカーディガンを脱いで、私の肩にかけました。
え?
「後で説明するから、今はその服とズボンを元に戻して、部屋に着替えを取りに行って来い。」
「え?この腕まくりが原因ですか?」
「そう察してくれると助かる。さっさと部屋に行ってやれ、この二人がオーバーヒートしちまうから。」
そっと石川さんが、武田さんに視線を向ける。
同じく視線を送ると、武田さんは相変わらず両手で顔を覆っているが、指の隙間から私の脛を見てます。
うん、この前思いっきり物に当たったから緑の痣が残っている綺麗でもない脛を見てます。
目は痛くないのか・・・?
向井さんは、私の方をちらちら見ながら何かをぶつぶつ言っている。
彼は仏教ではない宗教に入っているのでしょうか。
結婚したら宗教を合わせないと後々死んだ時なんかが面倒だって聞いたから、皆で住むならその話もしないとなー
「ほら、行くぞ。」
石川さんが、そっと私を出口に誘導してくれる。
でも、石川さんは私に触れないように微妙に距離をあけているので、私が歩こうとしなかったら、この現状が続くことになるんだけどね。
しかし・・・向井さんも武田さんも、この尋常ではない様子は、客観的に見たら最早カオスである。
お風呂掃除が出来ていないし、納得はしていないが、とりあえず風呂場から出て、部屋に着替えを取りに行くことにした。
お風呂場から出て、化粧室に入り、そこから繋がっているという私の部屋に向かう。
しかし、ドアにカギがかかっていて、空かなかった。
「そういえば、私の部屋に繋がるドアは全部、部屋の中からだけカギをかけられるって言ってたな・・・。」
確かに化粧室から自由に私の部屋に入れるっていうのも不用心だからカギを作っているのは分かる。しかし、入ってくるとしたら夫達だけだからなあ・・・夫婦間で部屋にカギをかけると警戒しているようで失礼かと思うから、基本はカギをかけないようにしようと思っているし、このカギが使われることはないだろうけど・・・
まだ部屋の中に入ってカギをあけていなかったから、今は化粧室から入れない。
仕方なく、一度化粧室から出たのだが・・・
「ああ、ああ・・・肌が白かった・・・!腕が柔らかそうで・・・」
「脛も柔らかそうだった・・・」
「落ち着けお前ら。とりあえず武田は顔洗え。」
「落ち着いていられる・・・!?えり、可愛かったんだよ・・・!」
「可愛いのは分かってるから、お前涙出てるぞ。さっさと顔を・・・おい向井大丈夫か?」
「女性の肉体とは、清らかで柔らかそうで、ああも魅力的なものなのか・・・いや、えりだからなのか・・・」
「だめだこれは。おい、さっさと正気に戻ってくれ。こんな姿、えりが見たらどん引きだぞ・・・」
「なんだよ、一人余裕ぶって。えりの脛とか腕見て、何とも思わなかったのかよ。」
「思うに決まってんだろ。ただ、あの状態で、えりを中心に全員が正気失ってどうするんだよ。せめて馴れてもらうまでは普通の関係を築かねえと、一緒に暮らしてんのにマイナスからスタートしてどうするんだ・・・。」
いや、もう聞いてしまいました。
盗み聞きするつもりではなかったのだけど・・・普通に聞こえてしまいました。
ごめんないさい。
でも訂正したい。
腕が柔らかそうなのは、脂肪です。ケアしていたら、もう少ししゅっとした腕になっていただろう。
脛が柔らかそうなのも、ふくらはぎがむくんでいるだけです。そういう遺伝というか・・・細いふくらはぎに憧れるわ・・・。たくましそうと言われるので。
可愛いと思うのは、話を聞いている限りでは、女性が極端に少なく結婚しないかぎりは女性を見ることがない世界だからじゃないですかね。普通の平凡顔だし。なんかごめんね、こんなんで可愛いとか思わせて。もっと綺麗な人見せてあげたい。
別にどん引きすることはないけど、可愛くて魅力的だと勘違いして崇めさせてごめんなさい、って思いでいっぱいです。だましているみたいで申し訳ないです。
でも、馴れるまでは普通の関係を築かないとって思って気遣ってくれていたのはありがたい。馴れたらどうなるのか分からなくて少し不安ではあるが、今のこの三人の様子を聞いていると、小学生以下の初さなので・・・男女の関係になることはなかなか無さそうな気がした。ああ、そりゃ夫婦になるって分かった時、同居しているわけだし、男女の肉体関係を持つことはあるだろうと想像していたよ。でもこの状態じゃあしばらくはなさそうだなぁ・・・。今まで彼氏いたことあるし、男の人複数と恋愛するかもしれないなんて怖いーなんて乙女思考はもう無くなりましたんで、仕方ないし潔く諦めてなるようになれと思っていたんだけど・・・
思ったよりも健全な夫婦生活が送れそうである。
まあこのことは置いておいて・・・
一つ問題が浮上しました。
腕と脛が見えてあの反応・・・。
明日からの服、どうしよう・・・




