表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/67

はじめての夕食





田中さんは帰っていった。


そこで時計を確認すると、夜の7時。


皆は気がついていた様だけど、私はまったく気が付いていなかった。というより、時計を見ていなかった。

それどころでは無かったし。与えられる知識を覚えよう覚えようと必死だったしね。

石川さんが話を切り上げたのは、それも理由にあったのかな。

お気遣いアリガトウゴザイマス。



ここで問題が発生する。

夕食である。

私、目が覚めてからケーキと紅茶と、さっき飲んだお茶以外なにも口にしていません。

気がついたらお腹がすいてきた。

けれど、冷蔵庫は調味料とかしか置いて無いみたい。これは先ほど台所にコップを片付けた時に向井さんが確認してくれたらしい。気がききますね。ありがとうございます。


というわけで、今日のところはきちんとした食材がないので、夕食は出前を頼むことになった。

この世界にも出前はあるんですね・・・。

武田さんが、どこからか店のチラシを持ってくる。


「ピザ、うどん、寿司、丼、ラーメン・・・かな。どれがいいですか?」


武田さんは私に聞いてきた。

え、どれがいいかな・・・というか、ご飯の名前もまったく同じなんだね。

チラシの文字は日本語なのは分かってたけど、食べ物の写真と名前が私の知識と一致している。


思ったよりも早くこの世界に馴染めそうだ。


「皆さんは、嫌いな食べ物ありますか?」


とりあえず、一緒に住んでいくことが決定した今、この夫達の嫌いな食べ物は把握しておくにこしたことはない。

出来れば、皆の嫌いな食べ物が被ればいいのだけど・・・そううまくいくだろうか。

ちなみに私は明太子だけど・・・メニューで明太子入りを避ければ良いので問題ない。


「私は好き嫌いはありませんよ。何でも食べられます。」


「俺もねえよ」


「お、俺も・・・ないよ・・・」


最後の武田さん、それきっと嫌いな食べ物あるよね。


うーん・・・じゃあ何を食べたいか、武田さんに聞いてみるか。


「武田さん、何を食べたいですか?」


正直、ご飯何食べるのーって話し合うことって、気心知れている人同士だとさっさと決まるもんだと思うけど、

初対面の人相手だとなかなか決まらないと思うんだよね。遠慮しちゃう。


武田さんはこの中では元気が良い方だし、食べたいものを聞いても答えてくれそうだ。

明日からはともかく、今日は武田さんに出前を頼む店を決めてもらいたい。

ずるい大人でごめんなさい。

期待してます。


「んー・・・。俺も、何でもいいんだけど・・・」


そう言いながら広告を見比べるのだが、目線は頑なに寿司を捕らえない。

おおう、お寿司が苦手なのかい・・・?

確かに生魚を嫌う人っているもんねー

火が通ってないと不安だし、よっぽど新鮮じゃないと臭いが駄目なんだーって言ってた先輩いたな。あの先輩は確か海の近くで生まれて育ったとか言っていたし、確かに古い魚を食べたことがあったらしばらく魚は遠慮してしまうかもしれない・・・。


「あ、ここの店は行ったことある。」


武田さんは、一枚の広告を手に取った。

どれどれ。

武田さんの手元を見ると、ラーメン屋のチラシだった。

ラーメンか、お店のラーメンは最近食べてなかったなぁ・・・ああ食べたくなってきた。


「それじゃあ、その店にしますか?」


「はい!」


私が武田さんに尋ねると、元気な肯定が返ってきた。

向井さんも石川さんも嫌いな食べ物はないって言っていたし、ラーメンで問題ないよね!

ラーメンの出前はしたことがない。ちょっと楽しみである。

何味にしようか。しょうゆ、とんこつ、塩・・・味噌もいいなあ・・・。


もうすっかり口の中はラーメンを受け入れようとしている。

この期に及んで単純な身体だ。

しかし、その流れを断ち切る言葉が向井さんの口から発せられる。



「駄目です。いけません。」


「えっ、ラーメン嫌でした?」


思わず、間髪入れずに尋ねると、向井さんは少したじろいで私と視線を合わせた。

何でたじろぐんだ・・・。


「えりは、この世界に来てからケーキと紅茶、お茶しか口にしていません。」


なんで知っているんだ。

いや、お茶は一緒に飲んだから分かるけど。

田中さんから聞いた?


「今日は混乱することばかりで、きっと早く眠りたいと思います。」


うん、それは分かる。

多分ご飯食べてお風呂入ったら、さっさと寝てしまうだろう。

でもなんで?

え、太るって話ですか?


「確かに、食べてからすぐに寝たら太ると思いますけど・・・」


それだったら何食べても太ると思いますよ。それこそピザとかでも。

もう四捨五入したら30歳だし、肉は付きやすい体質だし。

気にしろってことでしょうか。


「いえ!いえ、違います!そのような意味で反対するのではなくて・・・」


向井さんは言葉を濁す。

うん、そのような意味じゃないのなら、何なんだ。


「今日は胃に優しいもんを食べた方がいいんじゃねえか、って話だろ。」


向井さんの助け船を石川さんが出した。

ああ、今日ちゃんとしたご飯食べてないもんね。

消化が早くて、脂っこくないものを食べたら?って提案かな。


「あ!そうだよね!確かに・・・俺、考えもせず・・・えり、ごめんなさい。」


「え、い、いや、気にしないでください。私が胃に優しいのを提案すれば良かったですね。」


いや、まさかそんな気の遣われ方をするとは思わなかったから、私も困惑しているんだけど・・・。

武田さんは申し訳なさそうな顔をしているし・・・。

そんな気を遣わなくていいのに。

というか、遣われること無かったし。

私に合わせたご飯なんて、反対に居心地悪いわ。


「でも、私は大丈夫ですし・・・皆の食べたいものを食べましょう。」


だから気を遣わないでください!

誕生日でも無い限り私に合わせたご飯なんて食べたことないし、しかも初対面の人に胃の消化を気遣われてご飯決めるなんて申し訳ないわ!



しかし、私の願いは儚く散ることになった。


「うどんがいいです。」


「うどんがいいな。」


「うどんにしよう!」


うどんに決定しました。



これ完全に私の胃を気遣った結果だ。

これ、多数決でうどん決定だけど・・・

うどんも、カレーうどんとか天ぷらうどんは避けた方が良いだろうな・・・。


夕食、何でもよかったけど、これは望んでなかったよ・・・。




結局、今晩は、無難にかけうどんにとろろトッピングになりました・・・。



向井さんもかけうどんにとろろトッピング。私にうどんを勧めたから、自らも同じメニューにしたんだろう。私がメニューを決めてから「私もそれで」って言ってたし。

石川さんはかけうどんにねぎトッピング。既にねぎは入っているのに、さらにねぎを追加なんて、ねぎ好きなのかな・・・。

武田さんはかけうどんにとろろ昆布トッピング。おいしいよね、とろろ昆布。


って結局全員かけうどん!?

私に気を遣ってるの!?

いやいや、やめてください!好きなの食べて下さい!

そんな気を遣われると、反対に申し訳ないから本当!


私の表情を読んだ石川さんが、なんだか穏やかな笑顔を向けてきました。


「夫婦初めてのご飯は、なるべく同じメニューがいいんだよ。」


あ、そういう感じですか・・・?

全員がまったく同じメニューだったら、私が遠慮するからちょっとトッピングを変えたけど、同じかけうどんを頼んだのは、夫婦初めての夕食は同じもの食べて新婚を味わう、的な・・・


無いな。


とんだ妄想でしたわ。

ごめんなさいね、変な妄想して。

ただ気を遣ってくれたんですよね、アリガトウゴザイマス。

ただしあんまりされるとこちらが困るから、また同じようなことがあったら「やめてください」と言わせてもらおう。

今日は疲れたからそういうのは後回しでさっさと寝る。





しかし・・・このかけうどん、暖まっておいしいなあ・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ