部屋が近い
玄関から家に入ると、廊下がずっと長く続くのだが、右側のドアから入る部屋は、窓が付いている。しかし、左側の部屋は、リビングを除いて窓がない部屋なんだそうで・・・。それは、部屋の構造から分かる。
リビングは、玄関から入ってすぐ左から入れるのだが、少し細長い廊下が続いてから広い部屋、といった構造になっている。このリビングが、廊下同様に縦長で広い。リビング自体が広いので、細長さが気になることはないのだけど・・・左側の部屋の奥に、リビングがあるので外に面しておらず窓がないのだ。
でも、やっぱり部屋は窓がついている方がいいよね、外の景色が見れるし。
向井さん、石川さん、武田さんの部屋を紹介される。
それぞれの部屋の壁は分厚いようで、隣の部屋でも音をあまり気にしなくて良いってことだからか、右側の部屋の奥から向井さん、石川さん、武田さん、の順番で部屋の中にそれぞれの荷物が入っているそうだ。
三人とも、荷物が入っている部屋をそのまま自分の部屋にするつもりらしい。
男の人の部屋を見るのは遠慮した。プライバシーの侵害かと思って・・・。別に興味もないしね。
円満に過ごせればOK。
「それで、こちらが貴女様の部屋になります。」
廊下の奥のドアの前に立って、田中さんはそう言った。
え、私一番奥ですか?
「入り口から一番遠い部屋なので何かあっても安心ですし、何よりこの部屋は先ほどのリビングから入れる化粧室と繋がっています。」
この部屋は窓が付いているらしい。
そりゃ窓がついている部屋の方がいいけど、入り口付近でも問題ないのですが・・・
「玄関から一番離れている方が安心だな。セキュリティがしっかりしていても、念をいれておいて損はないし。他にこの部屋がいい、って部屋もないだろ?」
今は疲れている分表情が分かりやすいらしい私の表情を読んだのか、石川さんが私の反論を察して、先に釘を刺した。
そりゃあ全部の部屋の中を見て回ったわけじゃないし、他の人の部屋の中は見るまいと、視線を廊下に移していたからまだ部屋の中を一つも見ていないので、そもそもこの階の部屋がどんなものかも分からない。だからって一つ一つ部屋を見ていくのも面倒である。
それでもなんとか反論したとしても、この部屋が気に入らなければ落ち着いたころに部屋を変えればいいって言われて終わりだろう。完全に反論の余地がない。
「ま、今日は諦めて部屋で休んだらどうだ。疲れただろう。あんまり無理をするな。」
どうやら私を気遣ってくれたようです。
すみませんね、気を遣ってくれてる相手に、反論の余地がないとか思って。
悪いけど私可愛くないしそうやって気遣ってくれた経験あんまりないから、可愛くありがとうなんて言えませんよ。心の中でだけ言っておく。アリガトウゴザイマス。
「それでは、今日はこれでお暇します。皆様は三日間仕事が休みになりますので、お知りおきを。またそちらのご都合が良いときに説明できなかったことは説明させていただいても良いのですが・・・」
「私たちが説明しますので、ご安心ください。」
向井さんがさっと田中さんの心配事を解決させましたよ。
うん、なんでか皆はいろいろとこの部屋のことを理解していた上で、話を聞いていたんだし、分からないところは明日皆に聞こう。
ああ、でもそれじゃあこれで田中さんとはお別れなのか・・・?
「田中さんとは、たまに会えるよ。健康診断とか、用事がある時だけだけど。」
そういえば基本的には外出ができないって言っていたけど、例外はあるんだね。
そりゃあ例外がなくてずっとこのマンションから出られないなんて気が狂っちゃうわ。
自由は許されないだろうけど、外出することがあって、その時に田中さんには会えるということは分かった。それでも、しばらくは会えないかもしれないので、きちんと挨拶をしておこう。
「田中さん、今日は一日、ありがとうございました。」
「いいえ。本当に申し訳ありませんでした。貴女様の人生を変えさせてしまい、償えないほどの罪を犯してしまったと思っております。」
深々と頭を下げる田中さんを、慌てて制止する。
そういえば、数時間前に土下座までさせてしまったんだっけ。今日一日が濃かったから、ずいぶん前の様に思えてしまう。
見た目ダンディなおじさまにこうもぺこぺこ頭を下げさせている私は一体何様なんだか・・・。
まあ、それでもこの世界に連れてこられて夫三人用意され、仕事はさせてもらえずにこのマンションから基本外出禁止というこの生活は、不自由を強いられているし理不尽だと思う。
けれどそれは田中さんが望んだことではない。
「田中さんは悪くないです。私を連れてきた張本人でもないですし、もう謝らないで下さい。それに、謝るのは私の方・・・今日は困らせてばかりで、すみませんでした。」
何度困惑させて、何度罪悪感を抱かせて、何度謝らせたことだろう。
私に対して酷いことができないからかもしれないけれど、田中さんのこの低姿勢は、それだけじゃないと思う。本当に、申し訳ないと思っているからなんじゃないかな。
男運がなかった私なので、直観はあまり信じない方だけれど、今日一日田中さんを見ていて、初対面の私に対してずっと低姿勢で気遣ってくれたり、私のために怒ってくれたのだ。少なくとも、酷い人ではないだろう。
「貴女様が少しでも穏やかに生きていけるよう、できる限りのことはさせていただきます。それが、せめてもの罪滅ぼしですので・・・こちら、私の連絡先です。何かありましたらご連絡下さい。」
田中さんにさっと名刺を渡された。そこには電話番号とメールアドレスがある。
「先ほどお渡ししましたスマートフォンを、連絡手段にお使いください。」
ああ、そうそう。スマートフォンももらったんだよね。
メールや電話やら、アプリもあるみたい。元の世界で使っていたスマートフォンとそっくりである。
今のところ、文明レベルが近いのでとても助かっている。
いきなりもっとすごい機能を持った連絡手段とかがあっても覚えるのに困るし。
「もちろん、用事がなくても連絡下されば、気がつき次第折り返し連絡させて頂きますので。」
「ありがとうございます。」
夫たちと喧嘩とかしたら、相談できる相手が欲しかったんだよね。
この世界じゃ天涯孤独だし。
「心配しなくても、田中サンに連絡しないといけないようなことはないと思うよ!」
何故か拗ねたような顔をした武田さんが私の横にきた。
え、何、気に障るようなこと言ったっけ。
「何か困ったら、俺たちのこと頼っていいからね!」
ああ、一緒に住んでる夫婦なのに、夫婦でもない他人を頼ろうとしたから?
確かに、夫婦関係無く、近くにいるのにまったく離れた所にいる人を頼られたら、嫌な気はするか。
仕事上でもあるもんね、そういうの。
「はい、ありがとうございます。」
困ったときはよろしくお願いします。なるべく自立はするつもりだけどね。




