召喚!! アクアヴァルキリー
「あとひとつだけ疑問がある」俺はアリサにそう切り出した。
「なにかしら?」
「先ほどの話の中で水精は召喚者の精気を吸精することで現世に留まったり命令を遂行しようとすると言ったよな?」
「ええ、それが何か?」
「セイレーンが召喚者なしの状態で何の代償もなしに現世に留まり続けられるのか?」
「……うふ、鋭いわね。もちろん何らかの方法で精気を得る必要があるわ。一番簡単な方法は精霊界から水精を召喚して、その水精を喰らうことかしら。水精にとってセイレーンの命令は絶対なの。なので無限に水精の召喚はできるわ」
「アリサ。それじゃあなたは…」
アリサはやや顔をしかめつつ言った。
「最初の頃はね、それ以外の方法がなかったから。ただ、いくらでも水精が呼び出せると言っても、喰らい続けると、水精王としての位階がどんどん下がっていくの。位階はね、精霊界で如何に水精たちに支持されているかを計る尺度みたいなものかしら。水精を呼び出しては喰らい続けたら支持は失うわ、当然だけどね。水精を100体喰らうと位階が1下がるわ。私のように人間に擬態出来るのであれば1日に1体喰らえば間に合うけど、そうでないのなら1日3体は喰らわないと足りないでしょうね」
「喰らうと言うのは……」俺が怖い想像をしていると
「変な想像はしないでね。召喚した水精は人間の女性のような姿をしてるわ。彼女たちから姿が保てなくなるまで吸精して、それから精霊界に送り返す……それが『喰らう』ということ。精霊界に戻ればいずれ回復するわ。人間の尺度で言うと10年近くを要するけど」
「な、なんだ、そうか~。いや~、てっきりウンディーネの踊り食いとか想像しちまったい」俺が苦笑いすると
「踊り食い?? なにかしら? 初めて聞く言葉だわ」「私も知らんぞ。どういう食べ方だ?」アリサとカリィに揃って訊かれたので
「生きた小魚を口に入れて噛まずに飲み込むんだ。そうすることで、食道や胃の中でまだ生きたままの小魚が動く感触を楽しむんだ」と教えたところ
「ウンディーネの踊り食いね……今度、試してみようかしら?」とアリサが言いかけたものの、急に「なんてね、冗談よ冗談!」と慌てたように否定してきた……が、怪しさ120%だった。
「それでね、アリストが消滅する直前のレベルは25だったけど、セイレーンとして転生した時点での位階はLv.30だった。レベルは人間のそれとほぼ同じとの解釈でいいわ。ちなみにハ・コネのレベルは28よ。精霊は基本的に位階が上位のものからの命令は受け入れるわ。そうやって私はハ・コネを鎮めたわけだけど」
「Lv.30だと? 人間の領域じゃないな。もっともアリサは人間ではないわけだが」カリィがうなる。気持ちはわかるぜ。
「それで位階なんだけど、下がれば下がるほど召喚した水精は言うことを聞かなくなるわ。逆に上がれば上がるほど面倒なことでもやってくれるようになるわ。さらにLv.40を超えると水精騎士である『アクアヴァルキリー』も召喚できるようになるわ」
「アクアヴァルキリーだと!? 神話でしか見かけん存在じゃないか……」カリィが呻くように言う。それほどのものなのか……。
「ねえ、タクトさん。見てみたい? アクアヴァルキリー」アリサが問いかけてきた。
「そんな簡単に呼び出せるものなのか?」と問うと「依代さえいればね。たとえば」と言いながらアリサはカリィの身体に触れた。
「なん……グ、グーッ……??」カリィはくぐもった声を上げつつ身悶えた。
う、嘘だろ……? 横にいたカリィの姿が変わっていく……髪の色は蒼く、瞳の色は藍色に、肌も青白く変わっていく、それだけでなく胸はフェンリル級、いやギガンテス級に近い大きさに、尻も一回りは大きくなった。髪は腰まで届くほどの超ロングヘアになった。
「う……うん? いったい何が起こったのかしら?」しゃべり方まで変わってやがる。声や顔のつくりに変化はねえが、まるで別人のように変身したカリィが横にいた。
「どうしたの? タクト。驚いた顔をして」
「お、お前。ホントにカリィか?」
「何よ? あたしはあたしに決まってるでしょ!」一人称まで変わってやがる!
「ねえ、カリーシャ。あなたのステータスは今、どうなってるかしら?」アリサが声をかける。
「あたしのステータスですか? あたしは……種族が……水精!? レベルも30!? 職名が、アクアヴァルキリーになってますわ!! お母様!」カリィ’が叫ぶ。
「ごめんなさい。カリーシャ。あなたを依代にしてアクアヴァルキリーを召喚してみたの」悪びれた様子もなくアリサがしれっと言う。
「そ、そうなんですか? あたしが神話に出てくる存在に……? でも、ステータスを見る限り、信じるしか……!」
「ア、アリサ! いきなりどういうこった!?」俺が詰問すると
「カリーシャ、タクトさんを拘束なさい」「……はい、お母様」カリィ’が俺を後ろから羽交い絞めにする。
「どういうつもりだ? アリサ!」「純粋な興味よ。天界人を依代にしたらどんな子になるのか」そう言いながら俺の身体にアリサの手が伸びる。アリサの手が触れた瞬間、俺の視界は暗転した。
「……う、うう……ん?」わたしはベッドに仰向けに寝かされていた。
「気がついた? タクト」目の前にいたのはアクアヴァルキリーになっていると言うカリィ。その後ろにアリサお母様がいた。
「ええ、大丈夫よ」わたしは答えた。
「タクト。身体に違和感はない?」とアリサお母様が言った。
「はい。別に違和感は……?」わたしの目に飛び込んだのは自分の胸がまるで女性のように膨らんでいること。
「こ、これは??」そこで気がついた。わたしの声が甲高いソプラノの女声であること。
「わ、わたし……まさか女に??」気の毒そうな顔をしたカリィ’がわたしに鏡を差し出した。覗き込んだわたしの目に映ったのはアリサお母様にそっくりの美女の顔だった……。
「ごめんなさいね。タクト」アリサお母様がわたしに謝る。
「わたしはいったいどうなったんですか?」
「カリーシャ。タクトのステータスを読み上げてみて」
「はい、お母様。種族は飛天魔、Lv.37で職名はラウマカールになってます」ラウマカールって、確か天使のような姿をした魔族だったわよね?
「お母様、わたしにいったい何をしたの?」
「ええ、天界人であるあなたを依代にアクアヴァルキリーを召喚したら、どうなるかと思ったの。予想の斜め上だわね」
「タクト、自分の背中を触ってみて」カリィ’に言われてその通りにしたら、妙な感触があった。まるで鳥の羽に触れたような。
「こ、これって……まさか翼?」
「その通りよ」
「男の場合、アリサお母様そっくりの姿になるとは思わなかったわ、あたし」わたしは自分がアリサお母様そっくりの姿でしかも肩のあたりから翼が生えていると知ってショックを受けた。
「純白の翼、まるで天使ね」お母様、そんな冷静な口調で言わないで……。わたしは泣きたくなった。
「わたしたち、ずっとこのままの姿でいなければならないの?」わたしはお母様に問いかけた。
「あら? ずっとそのままでいたいの?」お母様は微笑みかける。
「あたしは、このままでもいいわ。以前よりスタイルも良くなったし、騎士団のお荷物扱いも卒業できるわ」カリィ’は前向きだけど、とても見習えそうにないわ。
「でもカリーシャ。王都騎士団が水精になったあなたを果たして受け入れるかしら?」アリサお母様の冷静なツッコミ。
「うっ! そ、それは……」沈黙するカリィ’
「タクトは男の姿に戻りたい?」
「わ、わたしは……」考えがうまくまとまらない。「オーパブ」の仲間たちならこの姿になったわたしでも受け入れてくれるだろう。リーチは同性になったわたしを受け入れてくれるだろうか? なぜかリーチのことを考えると心が痛い。
「どうしたの? タクト」
「わ、わたし、リーチがこの姿を受け入れてくれるかどうかわからないの。だから……」
「元の姿に戻りたいの?」わたしは力なくうなずいた。
「そうね。ではこうしましょ? 元の姿に戻れる呪文と、ふたたび今の姿になれる呪文をふたりに教えるわ」そう言ってお母様はわたしとカリィ’に二種類の呪文を覚えさせた。
「じゃあふたりとも、元の姿になれる呪文を唱えてみて」アリサお母様の言葉に従い、わたしとカリィ’は呪文を唱えた、<ミズデモカブッテ・ハンセイナサイ>
一瞬、意識が遠のいたが、すぐ戻った。カリィは元通りの人間の姿に戻っていた。俺は……? 胸を触るとまったいら、股間には俺の息子が戻っていた。
「やった! 戻った!!」俺は喜んだ。カリィは、かなり残念そうな表情。そんなにさっきの姿が良かったのか? そう思ったら
「女になったタクトと元少年のリーチが、絡み合うシーンがみたかった!! とっても残念だ!」そっちかよ!
「カリーシャ。現在のステータスはどうなっている?」アリサが訊いてきた。
「うむ。私のステータスか? ええと種族は……水精のまま?? レベルは18でこれは元通り、職名は人間に擬態したアクアヴァルキリー……だ」ま、まさか俺も??
「タクトのステータスは?」
「ああ、視るぞ? 種族は飛天魔のまま、レベルは16で、これも元通り。職名は天界人に擬態したラウマカール……だ」
「アリサ、元に戻るというのは……?」俺はおそるおそる尋ねた。
「あなたたちの中にいるアクアヴァルキリーを強制的に眠らせるということよ。そうすることで、一時的に元の姿に戻れるわ。もうひとつの呪文は眠っているアクアヴァルキリーを目覚めさせる呪文よ」
俺は頭を抱えた。アリサの手の上で踊らされている気分だった。
「そう落胆しないで。明日のチェックアウトの時に改めて聞くわ。アクアヴァルキリーを身体に宿したままでいたいか? いたくないか? いたくないのであれば、その時は完全に元通りにしてあげる」
「そもそも、なぜこんなことを?」俺が真顔で尋ねると
「あなたたちが気に入ったし、信頼もできると思った。だから娘にしたくなっちゃったのよ」アリサは茶目っ気たっぷりの表情を浮かべ舌を出した。
セイレーンに気に入られた結果、こうなった、と。う~む、人外に好意を寄せられると、予想もしない結末を招くと言うことか……。次があったら……気をつけよう。俺は心底そう思った。
「ところで、アリサ。私もひとつ訊きたいことがある」とカリィ。
「何かしら?」
「さっきの姿のときだ。私はレベル30でタクトは37。この違いはなんだ?」
「それはね……」
アリサの説明によると、依代となった対象のレベルと召喚したセイレーンの位階を合計して2で割ったレベルに通常はなるんだそうだ。つまりカリィのレベルが18、アリサの位階が現在42、足して60を2で割って30となる。
ただ俺の場合は天界人だったため、アリサの推測によると、俺の元々のレベル16、これは服を着てるからだが、それにアリサの位階の半分のレベルがそのまま上乗せされたのだろうと。確かにそれなら37で合ってるな。
「実はアリサ、タクトは局部裸身拳の遣い手だ」
「武極羅神剣? アーガスに伝授されたのかしら?」アリサは気付いていないな。
「違う。局部……裸身拳だ」
「えっと……それって、脱げば脱ぐほど強くなるというアレかしら? 冗談でしょ?」アリサは信じようとしない、冗談だと思っているらしい。信じさせるには……やりたくなかったが、やるしかない……か。
<アクアパワー・メイクアップ!>俺は呪文を唱え……わたしに変身した。
「本当なの、お母様」わたしはアリサお母様に言った。わたしはお母様に嘘はつけない。だからお母様は半信半疑ながら信じてくれた。
「タクト、どうしたのだ? またラウマカールの姿になって?」
「この姿でも局部裸身拳によるレベルアップが可能なのか、わたしも知りたいの」わたしはそう答えた。
「じゃあ、いくわ」わたしは上半身裸になった。やっぱりちょっと恥ずかしいわね。それにしても美しくて張りのあるバストね。フェンリル級ぐらいあるかしら? と思っていたら、わたしの目の前でバストが膨らんだ。大きさは良く見慣れたリーチのとほぼ同じ、ギガンテス級ぐらいある? それに背中がムズムズしたと思ったら……。
「タ、タクト! 翼が2対生えて4対になったぞ!! レベルは41だと……?しかも職名がラクシュカールになったぞ!?」「スゴイわね。胸の大きさ」お母様、そっちなの?
「この際、ヤケよ!」わたしは下半身も脱ぎ、全裸になった。股間のチンコケースは……感触あるけど……これって?
「カリーシャ、あの、お豆に引っかかってるのは?」「あれこそ、タクトの武器、その名も……」そこ! ガールズトークはいいから!!
またもや私のバストは膨張し……リーチより大きくなった。ヘカトンケイル級? さらに、今度は腰のあたりがムズムズ……。
「翼がもう2対生えた!これで6対だ!! レベルは47……だと?職名はラクシュミールだ」「あら、私以上のレベルね? 自慢の娘だわ」
今のわたしの姿は肩・背中・腰から左右2対、合計6枚の純白の翼を生やし、ヘカトンケイル級のなまちちを晒した……痴女も同然の姿、自分で言ってて恥ずかしくなってきたわ。
「もういいわね……戻るわ」そう言ってわたしは元に戻る呪文を唱えた。<ミズデモカブッテ・ハンセイナサイ>……えっ? 戻らないわ。なんで??
「その姿でさっきの呪文を唱えてもダメよ、タクト。脱いだものを着込んでラウマカールまで戻らないと」
アリサお母様に言われて、わたしはまずズボンを履いた。腰から生えていた翼が消滅して胸はギガンテス級に縮んだ。
さらに上半身にシャツを着込むと、背中の翼も消滅して胸はフェンリル級に。<ミズデモカブッテ・ハンセイナサイ>と呪文を唱えると俺は男の姿に戻った。思い返すと……自分の裸体なのになんかエロかった。やべ、なんかムラムラしてきた。おっ勃っちまったぞ、おい。
その瞬間……ハッと気がつくとわたしは、服を着たままにもかかわらず、6対の翼を持つラクシュミールの姿になっていた。
「タクト。おまえ、どうしたのだ? 呪文も唱えずに」
「わ、わからないわ。男に戻ったときに、わたしの身体のことを思い出したら、なんかムラムラしてアソコが勃っちゃったの。そうしたら、いきなりこの姿に」
「そうね。あくまで推測だけど、局部裸身拳は男性のアソコが完全勃起することで完全覚醒する流派よね。その途中で無理やり元に、つまり萎えさせた弊害かも知れないわ」とアリサお母様が言った。
「お母様、わたし、どうしたら?」
「そうね。元に戻る呪文を唱えてみて」お母様に言われた私は呪文を唱えた……も、元に戻った。
「いいこと? あなたは不完全燃焼の状態だから、ちょっとしたことで勃ちやすくなってる。勃ったら、またいきなりラクシュミールの姿になってしまうわ。それがイヤだと言うのなら、勃ちそうになったら萎える想像でもなさい」く、苦行だ……。
「そうでなければ……ラクシュミールの姿で何かで発散すればいいのだけど……。何か方法がないか考えておくわね」た、頼む。いや、頼みます!
トイレ掃除に行くと言うアリサと一旦別れた俺達は……ようやく客室へと向かったのだった。リーチのやつ、拗ねてなけりゃいいが。
本編でもTSさせてないのに、つい勢いでやっちまった(笑)
本文中に出てくる、ラウマカール、ラクシュカール、ラクシュミールは(株)エウクレイアのゲームに登場するキャラクターより拝借しました。