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水の精霊使い、君の名は……

タクト視点です。


4/14追記 タクトは未成年なので、飲酒させちゃマズいので、ノンアルコールのカクテルを飲んでいる描写に変更しました

 スミレナさん、笑いをかみ殺しながら、リーチに首輪を装着している。一見、沈鬱な表情なんで利一はあっさり騙されてやがるが、口元を見れば演技だと言うことがモロバレだよな。首輪に着いたリードは犬の散歩中に良く見かけるアレだ。利一は「オレは犬じゃない」と言ってるが、どう見ても犬扱いだな。

スミレナさん、先ほどの一触即発の空気を忘れたかのように支配人と談笑してやがる。さっきのアレ、ひょっとして出来レースじゃないか?


「タクト。部屋に移動するぞ」カリィに声をかけられて歩き始める。この異世界にもエレベーターはある。日本のそれと違って、水圧でハコを動かす代物だそうだが、水圧の調整は水の精霊使いがやるそうだ。

エレベーターガールならぬ水の精霊使いが自ら乗り込んで動かすハコは30人はゆったり乗れるサイズで、各階の扉の開け閉めもエレベーターガールが魔力を使ってやるそうだ。


俺たちが乗ったハコにいた彼女を見て、カリィが「まさか……? 隊長!?」と声を掛けた。なんだ? 知り合いか? でも隊長って!?

「お久しぶりね。カリーシャ」彼女はそう言って微笑んだ。

「でも隊長はやめてほしいわ。騎士団を除隊して何年経つと思ってるの?」

「いえ、私にとっては、あなたは今でも隊長です!」

「おい、カリィ? 知り合いか?」

「タクト。リーチ。こちらは私が王都騎士団第3小隊の副隊長を務めていた時に隊長だった……」

「水の精霊使いのアリサと申します。お見知りおきください」美女はそう言って微笑んだ。


 昔は優秀な戦士だったらしいが、数年前に騎士を辞め、その後、この温泉郷で働いているそうだ。カリィとほぼ同年代の彼女は金髪碧眼、しかも制服の上からでもわかるほどの絶妙なプロポ-ションの持ち主。俺にとってドストライクだ! もしもリーチに遭う前だったら、彼女に靡いていたかもな……なんてことをつい考えてしまった。

「カリーシャ。こちらのお二方を紹介してもらえるかしら?」

「女性はホールライン国のリーチ姫です」

「お噂はかねがね」アリサさんは優雅に一礼。

「こちらこそよろしくお願いします」

「リーチ姫はペットなのね? 飼い主はカリーシャかしら? 二人はどういった関係?」

「いや、私はリーチ姫の護衛としてホールライン国に派遣されているのです! 本日は慰安旅行のためにここに来たのです!」カリィは緊張してるのか? 声が若干震えてやがる。

「そう……こちらの男性は?」

「こいつはタクト。居酒屋オーパブの居候兼用心棒であります!」なんだ? そのなげやりな紹介の仕方は……。

「タクトは、駆け出しの冒険者ですが、いずれ勇者として名前を轟かせる予定です!」利一、フォローサンキューな。


「……ところでカリーシャ。アーガスはどうしてるかしら?」

「騎士長は相変わらず壮健です」

「そう。現役時代、私が告白しても相手にされなかったけど……今ならどうかしら?」彼女はいたずらっぽく微笑んだ

「……ノーコメントでお願いします」

「相変わらず、固いわね、カリーシャ。タクトさんは、ひょっとして彼氏かしら?」

「ち……違いましゅ」カリィのやつ、噛みやがった。

「ま~? 天真爛漫なところ、変わらないわね」天真爛漫?? 腐女子ですぜ、こいつは。


目的階に到着したあと、「カリーシャ、またあとでゆっくりお話ししましょ?」アリサさんはウインクして、扉を閉めた。


 「アーガス隊長、あんな美女に言い寄られたのに袖にしやがったのか……」と言うと、カリィのやつ、複雑な表情を浮かべた。……なんかあるのか?

「……タクト、荷物を置いたら、一杯付き合え」

「こんな真昼間からか?」

「いいから、タクト。カリィさんに付き合ってやれよ」利一、俺とカリィは甘い関係とかじゃないんだぜ……、ま、カリィのやつ、なにか吐き出したいことがあるんだろうと予測はついた。

「すまん、リーチ。ほんの2、30分ほど、タクトを借りる」

「2、30分と言わず1時間でも2時間でもどうぞ!」利一、その気遣いは……あまり有り難くない。


 客室で少し休んでいるというリーチをひとり置いて、俺とカリィはラウンジに来ていた。カリィはアルコールへの耐性が低いし、俺は未成年ということでノンアルコールのカクテルがないか訊いたところ、バーメイドのお姉さんは快くリクエストに応じてくれた。

「タクト……セイレーンを知ってるか?」

「いきなり藪から棒だな。もちろん聞いたことはある。水の精霊王のことだろ? 女性の姿だから王という表現が正しいかどうかわからんが」

「知っていたか……」そう言ってカリィは甘ったるいカクテルを口にした。

「昔話に付き合え」そう言ってから、俺の返事も待たずにカリィは話し始めた。


 ―あれは2年ほど前、私は特技持ちということで新任騎士からいきなり第3小隊の副隊長に抜擢されたのだが、それは隊長の推薦があったからだ。隊長は凛々しくてな、私にとってはあこがれの存在だった。隊長は水の精霊使いでな、<水精召喚>の特技により、水の精霊であるウンディーネを使役することで大活躍していたのだ。

 あの日、騎士長と隊長は非番でな、ちょうどこの地に骨休めに来たらしい。ところが、温泉の精霊であるハ・コネが暴れていて、温泉郷は大混乱に陥っていた。隊長はハ・コネを鎮めようとしたらしいが、うまく行かない。そうこうしているうちに騎士長が暴れ馬に撥ねられて重傷を負ったのだ。隊長は騎士長に秘めたる想いを打ち明けたのち、返事も待たずにウンディーネを召喚して……ウンディーネに自らの肉体と魂を差し出した。ウンディーネは隊長の肉体と魂を喰らうことでセイレーンへと変身し、そしてハ・コネを鎮めた。

 私がここへ駆けつけた時は全てが終わった後だった。気を失った騎士長をセイレーンと化した隊長が介抱していた。『あなたはアリスト隊長なのですか?』と私が問うと『アリストはもういないわ。私は彼の記憶と心を受け継いだセイレーンなの』と隊長は答えたー


「おい! カリィ。ちょっと待て!! 『彼』だと!? アリサさんは『男』なのか?」

「人間だった時は男性だ。今は性別すらないがな」


待て待て!……じゃあ、騎士長に告白した時は、まだ男だった!? そのシチュは腐女子の大好物じゃねえか。


「騎士長を救うために彼が人間をやめたなどと知れば騎士長は自責の念に押し潰されかねないと懸念した隊長は……肉体と魂をウンディーネに奪われて死んだと騎士長に伝えるように言い残して、姿を消したのだ。騎士長が魔物排斥に魂を燃やすようになったのはこのことが原因だと思う」

「……さっきアリサさんと話してたとき、妙に緊張してるように見えたが?」

「うむ。それはだな、騎士長に隊長が告白しているシーンをつい想像してしまってな」興奮してたと言うわけか……さすが腐女子! 今日も平常運転だな。

「ところで、ひとつ疑問がある」

「なんだ?」

「セイレーンというのは魔物と言うより精霊だよな? 確か実体を持たないと聞いたことがあるが、彼女は人間に見えたぞ?」

「うむ。彼女は人間に擬態することができるそうだ。あの姿はあくまで借り物でな、どのような姿にでもなれるそうだ」

「それにしても、アーガスのおっさんを救うためとはいえ、ずいぶん思い切ったことを……」

「うむ。道ならぬ恋に隊長は苦しんでいたらしくてな」深刻なシチュを嬉々として語りやがる! 緊張感のカケラもねえな。

「人間の記憶と心を受け継いでると言ったな?」

「ああ」

「そうだとしても、普通なら召喚師を喰らったわけだろ? 暴走したり、魔物化してもおかしくないと思うんだが?」

「うむ。隊長から聞いた話によるとな。ウンディーネにしてもセイレーンにしても現世への執着心は希薄だと言うんだ。なのでな、現世へ執着するように仕向けたらしい。自ら魂を喰われることでな。ある意味、賭けだったらしいが、それは成功したわけだ。彼女は……アーガス騎士長への決して報われぬ恋心を抱いたまま、現世へ留まり続けているのだ」

「なかなかに重い話だな……」

「うむ。それでだな、騎士長には隊長のことは決して伝えないでほしいのだ。これは隊長の願いでもある」こいつは彼女を「男」に脳内変換でもしてやがるのか? きっとそうだな。

「おっさんにか? ううむ」ま、確かに魔物嫌いのおっさんのことだ。嬉々として討伐に来そうだな、ここはホールラインじゃないし。うん? なんかひらめいた!

「なあ、セイレーンと言うのは水全般への制御に長けてるんだよな?」

「うむ、そう聞いてる」

「地下にある温水を探し当てて、地表へ湧き出させたりも出来るんじゃないか?」

「本人に確認したわけではないが……可能ではないか?」

「彼女をホールラインへ招聘したらどうだ?」

「……そうか!!」

「ホールラインであれば、万が一おっさんに知られたとしても手出し出来ないからな」

「いや、そこは訂正すべきだ!」

「なにをだ?」

「隊長は騎士長に手出ししてほしいハズだ!」こ、この腐女子め! 俺は杯に残った甘ったるいカクテルを飲み干したのだった。

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