拓斗、スミレナに迫られる
大変お待たせしました
4/9 追記)全面的に改稿しました
リーチへの自己紹介についてスミレナさん、パストさんと話し合った結果、わたしの男としての名字である荒垣から連想する牡蠣の英字読みのオイスターを取って、アリス・オイスターとすることにした。魔界貴族であるオイスター家の令嬢というプロフィールをでっち上げることにした。オイスター家というのが実在するかどうかであるが、パストさんによると魔界における貴族とは、自称や僭称も含めて勝手に名乗っている者が多いらしいので非実在だろうとバレる可能性は皆無ということだった。
「……貴族の令嬢ですか? でもわたし礼儀作法とかわからないですよ? 元々は男ですし」
「そこらへんはあたしたちでうまくフォローするわよ! 大船に乗ったつもりで任せなさい」スミレナさんが胸を張る。
「ありがとうございます」
「ところでアリスちゃん、あたしも娘にしてちょうだい」
「また、その話ですか? ダメですよ。さっきも言ったじゃないですか」
「いいじゃない、リーチちゃんが来るまでの間だけでもいいから~、お願い!!」
女になったわたしはなぜか押しに弱い。助けてくれそうなカリィは隣の部屋に行ってしまったし。わたしは縋るようにパストさんを見た。するとパストさん
「スミレナ店長がここまで言うんですから願いを叶えてあげても良いのではないですか?」と嗾けるように言った。
「ほらパストちゃんもこう言ってるじゃないの!」わたしは味方がどこにもいないことを覚った。単純なレベル差ならばわたしはこの部屋の中では無敵と言ってもいいのだけど、人間関係ってそれだけでは甲乙つけられないしね……仕方ないかな。
「……わかりました。でもすぐに元に戻ってもらいますよ?」わたしはスミレナさんに念を押した。
「大丈夫よ! それにあたしが娘になってしまえばアリスちゃんには逆らえなくなるんでしょ!?」とスミレナさんが返した。逆らえないと言うのとはちょっと違う気がするけど、まあなってみればわかるわよね。
「……じゃあ、行きますよ?」わたしはスミレナさんの首筋に手を当てて<水精憑依>の特能を発動した。
スミレナさんの姿が瞬く間に変化していく。小柄だった体躯はググーッと伸びていき180cm近い長身になると同時に胸もググッと大きさを増しフェンリル級ほどの巨乳へと変化した。髪の毛が見る見る伸びていき背中の半ばほどに達した。そして肌色は抜けるように白くなった。さらには肩甲骨の辺りから左右2対の純白の翼が生えた。スミレナさんの種族はどう変化したのだろう? わたし同様飛天魔なのか、それとも天使?
そして顔付きはわたしと瓜二つに変化した。ただ髪色と瞳色は元々のスミレナさんの時と変わらなかった。それを除けばわたしの双子のようだった。
「……あたし……どうなったのかしら?」声質もわたしそっくりの声に変わっていた。
「スミレナさん、わたしは誰?」わたしは声をかけた。
「もちろんわかるわ、お母様……お母様、って……ええ!?」スミレナは素っ頓狂な声を上げた。どうやら私の『娘』になるということが実際にそうなるまで、やっぱり良くわかっていなかったのね。
「どうしたの? スミレナ?」
「ええと……あたしはスミレナ・オ……イスター? アリス……お母様の娘……ああ、こうなるのね。ようやく理解できたわ」スミレナは苦笑交じりの笑顔を浮かべた。
「アリスお母様、お母様の娘のスミレナ・オイスターです」スミレナはわたしに微笑みながらこう言った。
わたしとうりふたつの姿になったスミレナさんは姿見に自分の姿を映して驚いていた。
「あたし、お母様にそっくりの姿になったのね。どうせなら髪の色と瞳の色もおんなじになりたかったわね」うん、わたしはアリサお母様そっくりの顔になれたから気持ちはわかるわね。
でも水精騎士はともかくとして、ただの水精を憑依させただけだと通常は姿が変わったりはしないとかアリサお母様が言ってたような? そういえばパストさんは姿自体はそのままだったわよね。
うん、考えてもしょうがないわね。現にスミレナさんはわたしそっくりに変身してしまったのだから。スミレナさんにステータスを聞いてみたところ
【名前】スミレナ・オイスター
【年齢】22
【性別】女
【種族】飛天魔
【レベル】21
【職名】ラウマカール
……だった。
「あたしもお母様と同じ飛天魔になれました!!」スミレナさんは感激していているように見えた。
「スミレナは何か特能が発現してる?」
「う~ん……なにもないわね。残念だわ」
レベルは元々のスミレナさんの8とわたしが喚んだ水精の33――今はラウマカールの姿なので――を足して2で割り切り上げると、確かに21になる。
「さて、気が済んだ? 元に戻すわよ?」わたしがスミレナに言うと
「ちょっと待って、お母様。その前に確認したいことがあるの」
「な~に?」
「あたしがラウマカールになったのって、お母様がラウマカールだからだと思うんだけど?」
「それがどうしたの?」
「もしお母様がラクシュミールの姿になったらあたしもラクシュミールにならないかしら?」
「えっ? それはちょっと無理じゃないかしら?」
「お願い、お母様! 元に戻すのは構わないから、最後にそれだけは確認させて!!」
「……しょうがないわね。じゃ、ちょっと待って」わたしは服になっている娘たちに命じて下着を外させた。すぐにわたしは6対の翼を持つラクシュミールへと変身した。スミレナは……
「あ~、あたしもラクシュミールになったわ! お母様!!」
まさかと思ったけど……ホントにスミレナもラクシュミールになってる。わたしと同様、バストサイズはヘカトンケイル級に膨張し、6対の翼を持つ存在に。するとスミレナは自らの胸に両手をクロスさせて押し当てながら呪文を紡いだ。「セル・フィッシュ!」
「スミレナ……その呪文は?」
「お母様、あたしにも特能が発現したの。これは『我田引水』という特能で自らの姿を強制的に固定するものよ。効果時間は3時間だけど効果が切れる前に重ね掛けすれば重ね掛けした時点から3時間延長されるわ。ただ使用制限があって1日に3回までしか使えないみたい」
「えっ? まさか……」わたしはスミレナの首筋に手を当てて、スミレナに憑依させた水精に精霊界に帰還させようとした。でも水精からは何の応答もなく、そしてスミレナの姿もラクシュミールのままであった。
「お母様、これであたしはお母様の娘のままでいられるわ」スミレナは嬉しそうにそう言った。
わたしは思わず頭を抱えた。
「もう利一たちが来ちゃうわ。スミレナのことをどう説明しろと言うの?」
「そうね……あたしはヴィオレッタと名乗ることにするわ」スミレナ改めヴィオレッタはそう言うけど何の解決にもならないわ。
「スミレナさんがいないことはどう説明するの?」
「簡単よ。エリコのところに行ってることにすればいいわ」
そうね……とりあえずそれで切り抜けるしかないか。
「そういえば一日の使用制限が3回って言ってたわよね? すると最長でも9時間経てばヴィオレッタを元のスミレナに戻せるのね?」
「正確に言うと、日付が替わると使用制限はリセットされるわ。今、午後5時だから……明日のお昼まではラクシュミールの姿は保てないわね」そ、そんなに……!
「ヴィオレッタはそんなにラクシュミールの姿が気に入ったの?」
「この姿が気に入ったというより、お母様の娘のままでいられるから。そっちの理由のほうが大きいかしら」確かさっきパストさんもそんなことを言ってたっけ。
「あ、そうだ! あたし、もうひとつ特能が発現したの」ヴィオレッタが言った。
「もうひとつ? どんなの?」わたしが尋ねると
「説明するよりやってみたほうが早いわ。お母様、とりあえずラウマカールの姿に戻って!」わたしは言われたとおりにした。わたしがラウマカールの姿になってもヴィオレッタはラクシュミールの姿のままだった。さっき言ってた特能の効果のようね。
「次に男の姿に戻る呪文を唱えてみて」
「男の姿に戻るの? でもわたしはあそこが勃つと女に戻ってしまうのよ?」
「いいから、やってみて!」ヴィオレッタがそう言うので、わたしはまずは『服』になっている水精を精霊界へと還した後、「ミズデモカブッテハンセイナサイ」と唱え……俺に戻った。
俺が男の身体になると同時にヴィオレッタは「ウェル・フェア!」と呪文を唱えた。
下半身の棹が勃つ感覚に襲われた……が、俺は変身しなかった。横を見るとヴィオレッタが微笑んでいた。
「あたしのもうひとつの特能は『自他共栄』と言って一定の範囲にいる他者の変身を妨害するの。効果範囲はあたしを中心にして30mぐらい、効果時間は30分と短いけど」
つまり俺はヴィオレッタからあまり離れなければ男のままでいられるということか。
「どうかしら? お父様」
お父様……って、俺のことか!? 確かにヴィオレッタからすれば俺は父親も同然ということになるのか。何だかややこしいな。
「ヴィオレッタ。利一の前ではお父様はやめてくれよ!」
「わかってるわ、お父様。じゃなくてタ……タクト……さん?」ヴィオレッタはなんだか言いにくそうだった。
「言いにくいわ。ついお父様と呼びかけそうになるわね」ヴィオレッタは苦笑しながらそう言った。
「ヴィオレッタの現在のステータスってどうなってるんだ?」俺が尋ねると
【名前】ヴィオレッタ・オイスター
【年齢】22
【性別】女
【種族】飛天魔
【レベル】34
【職名】ラクシュミール
【特能】我田引水
自らの姿を強制的に固定する。効果時間は3時間。ただし効果が切れる前に重ね掛けすれば重ね掛けした時点からさらに3時間延長される。ただし1日の発動回数は3回まで。なお日付が替わると発動回数制限はリセットされる。
【特能】自他共栄
効果範囲内にいる他者の変身を妨害する。効果時間は30分。効果範囲は30m。
【特能】高速飛行
6枚の翼を使うことで音速に近いスピードで飛翔できる。実用上昇限度は6万フィート。ただし酸欠対策をせずに高度を上げすぎると酸欠により気絶して墜落するので注意!
【特能】焦熱地獄
6枚の翼の先端部となまちちの乳首2本から熱線を対象に向けて放ち、高熱により溶かす。射程は3000メートル。連続照射可能時間10秒。
……となっているそうだ。レベルは俺がラクシュミールに変身している時の47とヴィオレッタがラウマカールになっていた時の21を足して半分にしたレベルということ……らしい。
あとの二つは恐らくラクシュミール固有の特能なんだろうな、きっと。
突然、客室のドアが開き「お待たせ~! さあ風呂に……」利一の声がしたと思ったら、突然沈黙した。
入り口を見ると大きく目を見開いたまま固まっている利一と額に手を当てて明後日のほうを向いているカリィと、そして俺を凝視しているヒト型ミノコが立っていた。
「タクト……女装趣味?」ミノコがボソッと言う。
ヤ、ヤベ~ッ、今の俺は全裸で女性下着を着けただけの姿だった!! しかも棹をおっ勃てた状態で!!
「タ、タクト……それってもしかして……オレの……」利一がわなわな震えながら声を絞り出す。
俺がヴィオレッタのほうを向くと、ヴィオレッタはすまなそうに下を向いた。
そ、そうか! 巨乳用のブラなんて急には用意できないから、利一のを流用したということか。
「うん、そうらしいな……」俺がぼそっと呟くと
「拓斗が女装趣味の変態だったなんて!! 幻滅した!! しかも露出狂かよ!!」利一、俺はついさっきまで女だったんだ……そう言えればいいんだが、そうもいかないよな……。
「でも利一……」
「なんだよ!?」
「エリムだって女装趣味の変態と言えなくはないか?」
「エリムは違う! 拓斗と違って自ら進んで女装したわけじゃない!」
「そうかしら?」ヴィオレッタが口を挟むと
「あれ? どなたですか?」利一のやつ、やっとヴィオレッタに気がつきやがった。
「申し遅れました。あたしはヴィオレッタ・オイスターと言います」
「魔界貴族のオイスター家のご令嬢です。先ほどホテル内で偶然、再会したので、こちらにお連れしたのです」パストさんが適当にでっち上げた話を
「そうなんですか。オレはリーチ・ホールラインです。よろしくお願いします」利一は簡単に信じ込んだ。
「あれ? なんかエレベータガールのお姉さんに似てる? ヴィオレッタさん、エレベータガールのアリサさんって知ってます?」
知ってるというより、ヴィオレッタにとってアリサは祖母と言ってもいい関係だ。
「あたしと顔がそっくりなんですってね。まだ直接お会いしたいことはないんですけど」ヴィオレッタは愛想笑いを浮かべながらこう言った。
「そうなんですか!? じゃあ後で会いに行ってみたらどうですか?」
「そうですね。時間があったら……」
「利一、ヴィオレッタさんはいろいろ忙しいらしいんだ」俺はフォローに回った。
「拓斗、こんな美人と知り合ったからって鼻の下なんか伸ばすなよ?」利一が俺を睨む。
お~い、ヴィオレッタは俺の娘で、しかもスミレナさんが変身した姿だぜ。手なんか出す気になるわけない……と言えるわけないしな。
カリィのやつはヴィオレッタがスミレナさんだと気付いたようだな。ミノコは……うん、どうでもいいんだろうな、きっと。
「ヴィオレッタさん、オレたち、これからお風呂に行くんです。いっしょにどうですか?」利一がヴィオレッタに声を掛けた。
「あたし……ですか? 構わないですけど」と言いながらヴィオレッタは意味ありげに俺のほうを見る。
「ヴィオレッタさん、そんな変態は放置しとけばいいんです! ところでパストさん、スミレナさんは?」
「エリコさんの様子を見に行くって言ってました。店長のことは気にせずにお風呂に行っていいと言付かりました」パストさんはさっきヴィオレッタが口にしていた通りに説明した。まあ、それで辻褄は合うわけだ。ヴィオレッタの変身が解けぬ限りスミレナさんが出てくることはないからな。
「そうなんだ。じゃあお風呂に行きましょう! 拓斗は気色悪いから付いてくんな!!」利一はそう言い捨てた後、他の皆を促がして部屋を出て行った。
ヴィオレッタだけはその場に残っていた。
「お父様、ようやく二人きりになれましたね」
ヴィオレッタは俺の娘……なんだよな? なのになぜか顔を赤らめ、息が荒い。そうしてヴィオレッタはいきなり俺に抱きついた。
「ちょ、ちょっと、ヴィオレッタ! どういうつもりだ?」
「お父様にあたしの初めてを捧げたいんです!!」
「え~!?」
「お父様、あたしの身体に魅力を感じないですか?」
「そりゃ十分魅力的だけど……」
「だったらあたしの初めてを貰ってください」
「い、いや、そういうわけには行かないだろ? だってお前は俺の娘だろ?」
「そんなことは関係ないわ! それにあたしは元はといえばスミレナなんです。近親相姦にはならないから」
「いや、絶対マズイ!!」
「問答無用!!」俺はあっさりヴィオレッタに組み敷かれた。このままでは喰われる!
救い主は利一だった。ドアが開く音を聞いた途端、ヴィオレッタは慌てて俺の身体から離れた。
「あ~、ヴィオレッタさん。まだいたの?」
「どうされたんです、リーチさん?」
「なかなか来ないから、どうしたのかって思って」
「も、もちろんお風呂に行く用意をしていたんです」誤魔化すように笑みを浮かべるヴィオレッタ。
「じゃあ行きましょう!」利一の呼びかけにヴィオレッタは小声で俺に「邪魔が入ったわ。お父様、またあとでね」と話しかけた後、利一の後を追っていった。
ど、どういうつもりなんだ! ヴィオレッタのやつ。
ひとり部屋に残された俺は1分もしないうちにまたも勝手にラウマカールへと変身した。ヴィオレッタの変身阻害範囲を抜けたせいだろう。
わたしは水精を喚び出して『服』になるように命じたあと……利一たちの後を追った。そういえば利一は女に変身したわたしのことは知らないのよね。どう説明しようかしら? あ、そうか、わたしもラクシュミールの姿になったうえで、ヴィオレッタの双子と言えばいいんじゃないかしら?
わたしはラクシュミールへと変身したのち、利一たちの後を追った。
当初のサブタイは「拓斗、リーチに詰られる」でしたが、どっちかと言うとこっちのほうがいいよね(笑)