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パスト、アクアヴァルキリーになる

 パストさんが入室してくる少し前のこと。わたしはスミレナさんに言われた通り、アクアとともに部屋で待機していた。

裸のままというのもなんなので浴衣を着ようとしたのだけど、わたしは背中の6対の翼のせいで浴衣を着るどころじゃなかった。仮に着れたとしても、たぶん胸が大きすぎて特大サイズの浴衣でも胸がはみ出してしまうだろうけど。アクアはというとしっかり浴衣を着こなしている。

「アクアは浴衣の着こなしが上手なのね」わたしが言うと

「えへへ、あたしは着るのは初めてなんだけど、カリーシャはここに何回か泊まったことがあって、浴衣を着る機会もあったの。だからあたしが着こなしが上手なのはカリーシャのおかげなの」

「そうなんだ。わたしは翼があるし……」と困った顔をしていると

「アリスお姉ちゃん、ウンディーネを2体召喚してみて」とアクアに言われた。

「え? ウンディーネを喚んでどうするの?」

「あたしに考えがあるの。いいから喚んで」わたしは言われた通り、ウンディーネを召喚した。現れたウンディーネはプロポーション抜群の美女であった。

「うわー。さすがお姉ちゃん。喚んだウンディーネも高レベルだね」

「そうなの?」

「うん、あたしの特能って使い魔のレベルとかも見れるんだよ」アクアによるとわたしが喚び出した水精はどちらもレベル47だそうだ。わたしのレベルである47と同じレベルだ。もしもアクアであればレベル30の水精が喚べる。そして変身を解いてカリーシャの姿になった状態で喚び出せるのは、レベル18の水精となるんだそうだ。

「それじゃ、アクアがレベル30の水精を喚び出している状態でカリーシャに戻ると、喚んだ水精はどうなるの?」

「レベルはそのままだよ。あたしの場合、カリーシャになっても親には違いないから、水精はある程度の指示に従うよ。お姉ちゃんもそれは同じ。問題があるとすればお姉ちゃんがお兄ちゃんになった場合かな」

「何が問題なの?」

「水精を現世に留めておくためには魔力か精気を供給し続けなくちゃならないんだけど、お兄ちゃんは魔力を持ってないから」

「すると精気を?」

「うん。下手すると干乾びちゃうよ」アクアが軽く脅すように言った。

「それは……怖いわ。だとすると水精を喚んでいる間は、変身したままのほうがいいわね?」

「うん。そうだね」

「ところで『彼女たち』に何をさせるの?」

「うん、それはね。彼女たちに命じてお姉ちゃんの『服』になってもらうの」


 「えっ? そんなこと出来るの??」

「論より証拠だよ。お姉ちゃん、右側の彼女に『われの上半身に纏わり裸身を覆え』、左側の彼女に『われの下半身に纏わり裸身を覆え』って、それぞれ命じてみて」

「わかったわ」わたしはそのとおりに命じた。すると、ふたりのウンディーネはわたしに近づくと、ひとりは上半身に、もうひとりは下半身に抱きつくと同時に、人間の姿からスライムを思わせる液体と化し、わたしの裸身を取り巻いた。そして首から下側は手の指先から足のつま先まで、翼以外、全身余すことなく水色の『服』に覆われたのだ。

 現在の状態はただ単に全身が青色の液体に覆われただけなので、『娘』ふたりに細かい命令を色々出して、服に見えるようにしていく。結果、上半身はゆったりとしたブラウス、下半身は腰から踵まで覆うロングタイツとスカートを履いてるように見えるようにした。もちろん着心地は快適そのものだ。服となった娘たちだけど、彼女たちは服に擬態してるだけなので、命じれば人間の姿に戻すことも出来る。もっともわたしが裸になっちゃうけどね。でもお風呂に入る時は便利よね。


 間もなく客室のドアが開く。スミレナさんと……パストさん!? 裸のままでなくて良かったと安堵した。ところが、パストさん、固まってる!? どうしたのかしら?

「パストちゃん? どうしたの?」スミレナさんが声をかけると

「……ラ、ラ、ラクシュミールさま!」と叫んでわたしの前に駆け寄ると平伏した。

「ちょ、ちょっと、パストさん? どうしたんですか?」わたしが声をかけると

「滅相もございません! 私のことは『パスト』と呼び捨てで結構でございます!! ハッ、ご降臨なされたことを魔王様にお知らせしなければ!?」彼女はいきなり魔界への門を開こうとした。止める暇もないため、わたしは彼女を止めるためやむなく『娘』にしてしまった。

「<水精憑依>ウンデ・イイネ!」パストさんは、私の目の前で……髪の色は蒼く、瞳の色は藍色に、肌も青白くそして胸はフェンリル級に成長、尻も一回りは大きくなり髪は腰まで届くほどの超ロングヘアになった。これってひょっとして?

「お母様。私はアクアヴァルキリーのパストと申します。なんなりとお申し付けください」わたしはパストさんをアクアヴァルキリーに変身させてしまったのだった。


 「申し訳ありません。お母様。私の早とちりだったのですね」わたしの『娘』となったパストさんはわたしに深々と頭を下げた。ちなみに彼女のレベルは38になってるそうだ。元々のレベルである29とわたしが喚び出した水精の47を足して2で割ると、確かに38となる。

「わかってくれればいいんです。じゃあパストさん、元に戻ってもらいますよ?」わたしがそう言うと

「元に戻る? どういうことです? お母様」

「どういうことって、元々のダークエルフに戻ってもらうんです」

「お母様! 私はお母様のお役に立ちたいのです! 元に戻るだなんて……お願いします! このままでいさせてくださいませ」悲しそうな表情でわたしに懇願するパストさん。

「困ったわね……」パストさんたら、そんなにアクアヴァルキリーの姿が気に入ったのかしら?

「お姉ちゃん、あの呪文を唱えてもらったら?」アクアが横から助け舟を出す。そうね、試してみようかしら。わたしはパストさんに例の――わたしが男の姿に戻るときの――呪文を唱えるように命じた。


 ダークエルフの姿に戻ったパストさんは赤面していた。

「わ、私、タクトさん――いえ、今はアリスさんでしたね――をお母様と呼んでしまうなんて」

「パストさん自身がそうなんですから……わたしの困惑ぶり、わかっていただけました?」わたしがそう言うと

「はい、わかります。申し訳ありません」深々とお辞儀をしたパストさん。

「パストさんのステータスだけど、『ダークエルフに擬態したアクアヴァルキリー』になってます?」わたしが尋ねると

「はい……なってますね」ステータスを確認したパストさんがそう答えた。

「わたしもアクアも今のこの姿は仮の姿なんです。明日、ここのホテルをチェックアウトする時にわたしは元の姿に戻してもらうつもりです」わたしがそう言うと

「あたしは……元に戻りたくないな。このままお姉ちゃんの妹でいたいよ」アクアはそう言葉を紡いだ。

「アクア」わたしはアクアを抱き寄せると頭を撫でながら

「アクアの気持ちはわかるわ。でもその身体はカリィのものなのよ? わかるでしょ?」わたしが優しく諭すと

「うん……そうだね。あたしも明日、ここを出るときはただのカリーシャに戻る。でも……それまではお姉ちゃんの妹でいさせてね」上目遣いでそう言ってくる妹。かわいいわ! なんてかわいいの!! わたしはアクアをギュッと抱きしめた。

「お母様! 私も抱きしめてくださいませ!」いきなりわたしに抱きついてきたのは、再びアクアヴァルキリーの姿になっていたパストさん。今、いいとこだったのに。妹との逢瀬を邪魔する『娘』の存在にわたしは多少苛立ってきていた。


 「パスト、いい加減になさいな!」わたしが冷たく言うと、不承不承な態でパストさんはわたしから離れた。

「お母様は私がお嫌いなんですか?」と泣きそうな声で言うパストさん。

「そうじゃないけど……わたしは妹とスキンシップの真っ最中だったの!」

「パストちゃん。アリスちゃんとアクアちゃんは姉妹の契りを結んだ仲なの。割って入ろうとすると、後が怖いわよ」ちょ? スミレナさん! 誤解を招くような発言はやめて。

「そうですか……お母様は叔母様とあーんなことやこーんなことまで」こら! そこの『娘』も!

「うん?……パストさん、叔母様って誰のこと?」アクアが不思議そうに問いかける。

「もちろん、あなたのことです。アクア叔母様」ちょっとー。そりゃアクアはわたしの妹でパストさんがわたしの娘なのだから、パストさんからすればアクアは叔母なのかも知れないけどさ。

「お姉ちゃん……コイツ、元に戻しちゃって!」あー、アクア怒ってる。これはしょうがないわ。わたしはパストさんに憑依している水精を精霊界に帰還させた。みるみるパストさんが元の姿に戻っていき……。


 「大変、失礼しました! 重ね重ね無礼な発言申し訳ありません!」平身低頭でわたしとアクアに頭を下げ続けるパストさん。

「もういいから、頭を上げてください」「あたしも気にしてないから」わたしとアクアが口々に言うと、ようやくパストさんは頭を上げた。

「それにしても……アリスさん、あなたは魔族にとって伝説でしか語られないほどの稀有な存在になってしまいましたね」そう言ってパストさんは、先ほどスミレナさんに語った話をわたしたちに改めて話した。


 「お姉ちゃんってスゴイんだね」目を輝かせるアクアに

「そんな話をされても実感がないわ。わたしは純粋な魔族じゃないから。天界……人とアクアヴァルキリーが融合して生まれたのがわたしというだけのことだし。わたしはメンタル的にはタクトの時とそう違いはないの」

「いえ、生まれはどうでも良いのです。現在、ラクシュミールとして存在している、ということが重要なのです。実は、魔王軍に組しない魔族集団もいくつかあります。そういった魔族集団がラクシュミールとなったあなたを旗頭にして新生魔王軍となろうとする可能性がないとは言えません」

「わたしにそんな気がないのに?」

「はい。アリスさんがタクトさんのメンタルを持っているなんて、普通の魔族でしたら想像も出来ないに違いありませんから。うやうやしく迎えに出向くに違いありません」

「そうなったら……その集団の主だった幹部連中を全部『娘』にしちゃおうかしら? そうすれば万事解決だと思わない?」

「た、確かに……わが身に置き換えれば、アリスさんの『娘』になっている間は、アリスさんの『娘』のままでいるためだったら何でもする、と言う精神状態でした。もしも『魔王様の首』を所望されたら、魔王様を手に掛けるぐらい平気でしていたかも知れません」

「そ、そうなんだ……」わたしは改めて己が分不相応な『力』を持ってしまったことを感じた。

「ねえ、アリスちゃん。あたしも娘にしてくれない?」

「スミレナさん……」

「あ、あたしだって、胸の大きさを一瞬でいいから味わいたいのよ!」とあたしに詰め寄るスミレナさん。どうしよう? ただそこはかとなく嫌な予感がするので、わたしは

「その件は保留とさせてください。パストさんを『娘』にしたのは已むに已まれぬ事情があったからで、スミレナさんはそうじゃないでしょ?」

「えー? どうしてもダメ?」

「保留と言ったでしょ? そのあたりはアリサお母様に相談してからとさせてください」

「ハー、仕方ないか。ところで、その服、どうしたの? 荷物の中にはそんな服なかったわよね?」スミレナさんはさすが目ざとい……でも、確かにこの『服』は目立つわね。

「これはですね……」わたしはウンディーネを喚び出して『服』として纏わりつかせていることを説明した。


 「もう何て言うか……さすがは高位魔族だわ」スミレナさんは嘆息した。

「その高位魔族という言い方、やめてください」わたしが抗議すると

「あら、あたしが言ったんじゃないわ。パストちゃんが言ったのよ?」

「はい。そう言いました。ですので、なるべく目立つ行動は避けてください。それとあなたがタクトさんに変身したり、逆にタクトさんからアリスさんに変身するところを事情を知らない者に目撃されるのも避けてください」パストさんが真顔で言う。

「わかった。ホントなら男の姿でいたいけど、あそこが立つと……わたしは女に変身してしまう。逆に女の姿なら安定しているから、なるべくこのままでいたほうがいいわね」

「そうですね。それとひとつだけ救いがあります」

「何?」

「ラクシュミールの存在を知っているのは一部の魔族に限られるということです。ですので、自らラクシュミールと言うことを明かさねば、ただのセラフと思ってくれるかも知れません」セラフって大天使よね? でもそれはそれで騒動になるんじゃないかしら? わたしが懸念を口にすると

「……そうね。聖堂騎士とかに見つかると……教会に連れていかれるかもね」スミレナさんが物騒な言葉を口にする。

「ねえ、お姉ちゃん。女の姿なら安定するんでしょ? だったらラウマカールの姿なら、ただの天使に見えるんじゃない?」アクア! 素晴らしい意見だわ……あれ? でも。

「わたし、『服』着てるけどラウマカールの姿にならないわよ?」

「お姉ちゃんが着てるのは服じゃないから」そうか、そうよね。

「だとすると、身体に纏わりついている『娘』を服の状態から一旦元に戻さないとかしら?」

「ううん。パンツを履いて、あとブラジャーを『服』の上に置いて、『娘』たちに装着させるように命じればいいよ」わたしは言われたとおりにした。するとパンツもブラジャーも『服』の中に溶け込むように消え、それと同時にバストがヘカトンケイル級からフェンリル級にまで一挙に縮み、6対ある翼のうち4対がなくなり肩から生えた2対のみとなった。わたしはラウマカールの姿となった。これにはパストさんも驚愕している。

「そ、そんな……ラクシュミール様がただのラウマカールになってしまうだなんて」

「パストちゃん、大丈夫よ。お風呂に行けば全裸だから、元のラクシュミール『様』を拝めるわ!」スミレナさんの言葉に、泡を食っていたパストさんは突如冷静さを取り戻した……かに見えた。

「では、皆々様! 大浴場へ突撃しましょう!!」

「え? リーチとミノコは?」

「もちろんお二方も含めてです! いざ出陣!!」急に元気になったパストさんをしり目に、わたしはアクアに目配せした。アクアは頷いてから呪文を唱え、カリィに戻った。そうそう、飼い主がいないとペットは館内を自由に動けないからね。

「アリス、リーチ姫へのうまい自己紹介、考えておいたほうがいいぞ?」カリィに言われ、わたしは目が点になった。そう言えば考えてなかったわ! カリィがリードを手にして外へ出た。リーチを連れてくるのだろう。リーチが来るまでに何とかしないと! わたしはお風呂に行く準備をしながら、慌てて考えを纏め始めたのだった。

いよいよ、次話からお風呂です。ロドリコたちも待ちわびていたことでしょう(笑)

2018.2.9 追記

リアル多忙のためもうしばらく更新できそうにありません。再開までにはしばらく時間をください。

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