わたしのおっぱいは大量破壊兵器
4/14追記 全面的にいろいろ見直した結果、ほぼ書き直し致しました
4/15追記 加筆修正しました
客室のドアを開けて中に入ると……利一のやつ、いねえな?
無人で鍵もかけずに放置していて、空き巣にでも入られたらどうすんだ? 無用心過ぎんぞ。
「どうしたのだ? タクト」カリィが言う。
「リーチのやつ、部屋にいねえんだ。どこに行きやがったんだ?」
「隣の部屋じゃないか? 笑い声が響いてくる」隣って、スミレナさんたちの部屋か。
ふと見ると、テーブルの上にスミレナさんの字で伝言が書いてあった「リーチちゃん、ひとりで退屈そうだから、アタシたちの部屋に連れて行くわね。帰ってきたら声をかけてねbyスミレナ」
隣にいるのか、それなら一安心だな。
「なあ、カリィ」俺はカリィに話しかけた。
「なんだ、タクト」
「変身してる時のおまえのことだがな」
「なんだ?」
「おまえは変身してるあいだのことは覚えてるんだろ?」
「うむ、それがどうした?」
「アクアヴァルキリーになってる時のしゃべり方だけどな」
「あ、あれか? まあ……そのなんと言うか、あれも私には違いない、うん」カリィは妙に慌てたような返事を返した。
「アクアヴァルキリーのやつ、おまえの意思を無視して出てこれるとか言ってたが、おまえはそのことをどう思うんだ?」
「私は別に気にはしていない。あれも私自身であることは間違いないのだからな」
「おまえ、ああいう性格が理想だったのか?」
「うむ……子供の頃の話になるが、私の両親は厳格だったのでな、いわゆる普通の女の子というものに憧れていた時期もあったのでな」普通の女の子に憧れるヤツは、腐女子になんかならねえと思うがな。
「そのせいで、アクアヴァルキリーになるとああなるのか?」
「仕方がなかろう? 変身してる時は、変身前の自分と今の自分は違うと感じてしまい、それが当たり前だと思ってしまっているのだ」
「じゃあ違和感は全くないと?」
「うむ、そう……」カリィが言いかけたところで、またもカリィの髪は蒼く染まっていくと同時にみるみる伸びていき、瞳は藍色に、肌は青白く染まり、胸と尻が急成長した。
「……言ったでしょ?」また勝手に出てきやがったな? アクアヴァルキリー。
「おまえには用がない。勝手にしゃしゃり出てくんな。俺はカリィと話してんだ」
「あたしだってカリーシャでしょ?」
「おまえはカリィと言うよりアクアヴァルキリーなんだろ?」
「そうだけどさ、なんか仲間外れにされてるみたいでイヤなんだもん」
「おまえ、ひょっとして淋しいのか?」
「……うん」
なんとなくわかった。カリィの姿だからわかりにくかったが、コイツ自身はもっと幼いんだ。カリィの記憶を元に精一杯大人を演じてるが、ホントはもっと人恋しいんだろな。しゃあねえな。俺は頭をガシガシと掻いてから、隣りにいたカリーシャの身体をグッと抱き寄せた。
「な、なに?」
「いいから」強引にカリーシャの頭を胸に寄せて、その頭を優しく撫でた。
最初は緊張してる様子が伝わってきたが、次第に俺に身を任せてきた。
「精一杯カリーシャを演じてたんだな」
「わかってくれたんだ……。そう、あたし自身はもっと子供なの」やっぱりな。
「変身する前のカリーシャは当然、今のおまえについてわかってんだろ?」
「あたしたちは記憶を共有してるから、当然知ってると思う。でもカリーシャ自身負けず嫌いでしょ? あたしが、あなたに甘えたがってるなんて言い出せなかったと思うの」
「気にすんな。俺もおまえもアリサの、その……娘、だろ? いわば姉妹みたいなもんだ」
「今のあなたは男だけど、ね。そうだ、お兄ちゃんって呼んでいい?」
「いいぜ。女になったらお姉ちゃんか?」
「タクト……お兄ちゃんは、女になった自分のことをどう思う?」
「どうもこうもあれも俺だと思ってはいるさ。なんでか知らんが、思考や感情まで女になっちまうけどな。だが女になってる時でもな、いい女は守ってやりたい、いや守るべきだと言う信念は変わらねえんだ。信念が変わらねえ以上、心が男のままだろうが女に変わろうが些末なことだと俺は思う」
「いい女……その中にあたしは入ってる?」
「野暮なこと聞くなよ。カリィもお前も……いつまでも『お前』じゃな。お前がカリーシャであることは事実だとしても、カリーシャと呼びかけるのもちょっと違う気がするしな。お前のことは何と呼べばいいんだ?」
「お兄ちゃんの好きなように呼んでくれていいよ」
「そうだな……アクアヴァルキリーだから……アクアでいいか?」
「うん。わーい。お兄ちゃんに名前をつけてもらっちゃった!!」アクアのやつ、すごい喜びようだぜ。
「名前ひとつぐらいのことで、そんなにはしゃぐなよ」
「ううん、とっても嬉しいの。あたしはカリーシャと、身体と記憶と心を共有することで現世に存在できてるから、カリーシャにはとっても感謝してるよ。だけど、あたしはやっぱりカリーシャとは違うの。お兄ちゃんに、そのことに気付いて貰えただけでも嬉しいのに、名前までつけて貰えた。この名前、大事にする!! ありがとう、お兄ちゃん。あたし、お兄ちゃんにはなんだって従うよ。覚えておいてね、お兄ちゃん!」
「そんなに喜んでもらえたんなら、良かったぜ。それで、さっきの話しの続きだが、カリィもアクアもどっちもいい女だと思うぜ。もちろんアリサだってな」
「それお姉ちゃんになってる時、お母様に言ってあげて。喜ぶよ、きっと」
「女になってる時か? 女になってる時はお母様って言って慕っちまうからな……。実際、アリサのことがホントの母親に思えちまう」
「そうなの……?」
「ん? どうした?」
「水精にとっては水精王は絶対的支配者だから決して逆らえないよ。だから『お母様』と呼ぶわけだけど、お兄ちゃん、じゃないや、お姉ちゃんは飛天魔に変わっちゃうでしょ? 飛天魔なら水精王とは直接の支配関係はないんだけどな」
「だが、飛天魔になったあと目覚めた時から、アリサを母親だと思ってたぞ?」
「うん。そうなんだけど、さ。」
「アリサが俺を依代にしてアクアヴァルキリーを喚んだこと自体は間違いないんだろ?」
「うん。間違いないよ。まさか飛天魔に変わっちゃうとは思わなかったけど」
「なら簡単だ。飛天魔である俺の中にアクアヴァルキリーもそのまま存在してるということさ」
「うん。そういうことになるんだと……思うけど、お兄ちゃん、ちょっと変身してみて」
「あの呪文を唱えんのか? 恥ずいんだが」
「そんなことしなくてもいいよ」アクアのやつ、向き直って着ている服をいきなり脱いだ! ギガンテス級のなまちちに敏感に息子が反応する。
「ちょっと、アクア! いきなり何よ?」わたしは無理やり変身させられたので、アクアに文句を言った。
「えへへ。お姉ちゃん」そう言いながらアクアがわたしに抱きついてくる。
「やっぱりわたしのことはお姉ちゃんって呼ぶの?」
「うん。いいんでしょ?」アクアが上目遣いに訊いてきたので
「いいわよ。許可したでしょ?」
「お姉ちゃん……」アクアは甘えるようにわたしの胸に顔を埋めた。
今はラクシュミールの姿だから、わたしのバストはヘカトンケイル級ある。そこにギガンテス級のバストのアクアが顔を埋めているのだから、事情を知らない人間にはレズ行為をしてるように見えるかもね。
でも、わたしが姉でアクアが妹なんだから、別に問題はないわよね?
「そうだ、お姉ちゃん。自分のステータスを見てみて」
「わたしの?」そう言えばアクア、いえカリーシャの特能「磐座具視」でステータスを言い当てられていたから自分で確認はしてなかったわね。
改めて自分で確認したステータスは……
【名前】新垣拓斗
【年齢】17
【性別】女
【種族】飛天魔
【レベル】47
【職名】ラクシュミール
【特能】跳梁跋扈
女性の身体である現在は使用不可
【特能】水精召喚
精霊界から水精を召喚して使役する。自分のレベルによって同時に召喚できる水精の数と、命令できる内容が変わる。
【特能】水精憑依
召喚した水精を他の生命体に憑依させる。憑依された生命体は自分を親と認識して大抵の命令には従う。
【特能】高速飛行
6枚の翼を使うことで音速に近いスピードで飛翔できる。実用上昇限度は6万フィート。ただし酸欠対策をせずに高度を上げすぎると酸欠により気絶して墜落するので注意!
【特能】焦熱地獄
6枚の翼の先端部となまちちの乳首2本から熱線を対象に向けて放ち、高熱により溶かす。射程は3000メートル。連続照射可能時間10秒。
「……え、えーと、特能が5つも発現してるんだけど?」
「あ、やっぱり? その中に『水精召喚』と『水精憑依』ってある?」
「あるわ」
「それが、アクアヴァルキリーの特能なの。だから、お姉ちゃんの中にアクアヴァルキリーも融合してることは間違いないよ。あたしは、カリーシャが元々持っている『磐座具視』にその2つが追加されるの。ちなみにあたしのステータスはね」アクアが自分のステータスを読み上げた。
【名前】アクア
【年齢】8
【性別】女
【種族】水精
【レベル】30
【職名】アクアヴァルキリー
【特能】磐座具視
他人のステータスを覗き見ることができる。
【特能】水精召喚
精霊界から水精を召喚して使役する。自分のレベルによって同時に召喚できる水精の数と、命令できる内容が変わる。
【特能】水精憑依
召喚した水精を他の生命体に憑依させる。憑依された生命体は自分を親と認識して大抵の命令には従う。
「……ええと、アクアって8歳なの?」
「うん、そうだよ」8歳にしてギガンテス級のおっぱいかー。とは言ってもアクアは見た目と中身が違うから仕方ないわよね。
「ところでお姉ちゃんはさらに2つもあるの? どんな特能?」
「ひとつは高速飛行で、猛スピードで飛べる能力、あとのひとつは……」
「あとのひとつは?」
「言いたくない!!」なによ? これ! 翼の先端部は許せるにしても、なまちちって何よ!? わたしのおっぱいは大量破壊兵器!? なに、この厨二設定は……。私は『焦熱地獄』を封印することに決めた。
『跳梁跋扈』が使えないのは仕方がないわね。今は女だし。
「わかった。じゃあお兄ちゃんに戻っていいよ」
「ステータスを確認させるために変身させたの? わたしを」
「それだけじゃないよ。お姉ちゃんにも甘えてみたかったの」エヘヘと笑うアクアはどことなくかわいらしい。
でも妹よ、わたしのおっぱいは大量破壊兵器。下手に触ると火傷じゃすまないかもしれない。……しゃれてる場合じゃないわね。
わたしは呪文を唱えて、俺に戻った。
「ねえ、お兄ちゃん。もう一度、頭を撫でてくれる?」
「遠慮すんな」
アクアが抱きついてきたので、頭を撫でてやる。ようやく満足したのか、アクアはニコッと笑いかけて言った。
「そろそろカリーシャに身体を返すね」アクアも呪文を唱え、瞬く間に元通りのカリィの姿に戻った。
「……タクト、抱きしめるのをやめろ……恥ずかしい」カリィが顔を真っ赤に染めて言った。「……わ、わりぃ」と言って手を離す。
カリィは身を起こしつつ
「その……なんだ、私からも礼を言う、ありがとう、タクト」
「気にすんな」
「ふたりとも真っ昼間から熱愛ぶりを見せつけないでほしいわ。妬けるから」いつの間にか背後からスミレナさんの声が聞こえた。
慌てて振り返ると、腰に手を当ててこっちを睨んでいるスミレナさんと、首輪をつけたままで、青ざめた表情の利一が、開け放たれた障子戸の向こう側に立っていた。
「カリィさん、拓斗とどうかお幸せに! 拓斗、カリィさんを泣かせるような真似はするなよな!」おわっ!? 利一、早合点すんな!
「……えっとふたりともいつからそこに?」
「リーチちゃんがね、ふたりが抱き合ってなにかしてるから、部屋に入りづらいって言ってきたの。だから、そういうことはふたりきりの時にやりなさいって言おうと思ったの。そうしたら、ふたりが愛をささやきあってる現場を目撃したってわけ」
変身してるところを見られたわけじゃなかったのか。良かった……いや、良くねえ!
「利一、スミレナさんも、誤解なんだよ、誤解」と俺が言うと
「拓斗、往生際が悪い!」利一は俺を睨むと
「カリィさんもそう思うでしょう?」とカリィにも声をかけた。
「リーチ。タクトは私のことは妹としか思ってないんだ」
「そんなハズないでしょう? オレに気をつかわないでくださいよ。二人で抱き合ってたの、オレ見たんですから」リーチのやつ、精一杯笑顔を浮かべてそう言うが、声の震えで動揺っぷりが良くわかる。
「抱き合ってたのは事実だ……が、私はあくまで妹として兄であるタクトに甘えていただけなのだ」その通り……なのだが、今、この場で言っても説得力がないのは事実だよな。火に油を注ぎかねん。
「う、嘘だ……カリィさん、なんでそんな嘘をつくんですか??」利一がカリィを詰問する。嘘だと認められるんなら認めてやりてえが、あいにく事実なんでな。嘘はつけねえよ。しかし参ったぜ。
スミレナさんが俺たちのところまでやってきて、利一に聞こえねえぐらいの小声で
「ひょっとして、ワケアリ?」とささやいた。
「そうです。スミレナさんには事情を話しますケド利一には聞かせたくねえんで」俺も小声で返す。
「わかったわ。じゃ口裏を合わせてちょうだい」スミレナさんはささやいてから、利一に見えない角度で俺たちにウインクした。カリィのほうを見ると、かすかに頷いた。よし、作戦開始だ。
「ねえ、リーチちゃん、イメージプレイって知ってる?」スミレナさんが利一に問いかける。
「イメージプレイ?」利一は首をかしげる。
「あらやだ、リーチちゃんたら、イメージプレイも知らないの?」スミレナさんが驚きの表情を浮かべると、果たして利一のヤツは乗ってきた。
「馬鹿にしないでください。そんなの常識ですよ」
「そうよねぇ? 付き合ってる男女の間で、例えば男性のほうが兄、女性のほうが妹という設定だったら、その役割になりきることよね。さすが、リーチちゃん、よく知ってたわ」
「あたりまえですよ。オレをみくびらないでください」
「だから、ふたりは今は兄と妹で間違ってるわけじゃないのは、わかるわよね?」
「……、も、もちろんです。カリィさん、嘘つき呼ばわりしてしまってごめんなさい」利一はカリィに頭を下げた。
「いや、気にしないでいい」
「そうか~、そういうことなら納得です!」利一のやつ、一転晴れやかな顔になった。
「ま、それはそれとして」スミレナさんが俺達に向き直る。
「リーチちゃんに心配させたんだから、お説教するわよ。覚悟してね!」
「スミレナさん、あまりふたりを責めないでやってください」
「リーチちゃんは優しいわね。でも悪いことをした子は叱らないと、また同じことを繰り返すでしょ? そうじゃない?」
「ならスミレナさん、ひとつだけお願いしたいことがあります」
「なにかしら?」
「どうせ拓斗が無理やりカリィさんに頼んだに決まってます。だから叱るんなら拓斗だけ叱ってください。お願いします」
「アタシもそう思うわ。カリィちゃん、正直に言って。タクト君に無理やり頼まれたんでしょ?」
「うむ。その通りだ。私は嫌だと言ったのだが、タクトがどうしてもと手を合わせて頼むから仕方なしにやってやったのだ」カリィのやつ、棒読み口調だ。実際の芝居じゃ大根と言われそうだが、利一のヤツ、全く違和感を感じてないようだな。
「カリィ、ひでぇな! 黙っててくれる約束じゃないか?」
「うるさい。もう二度とあんなことはしてやるものか!」
「拓斗~、いくら付き合ってるからって、嫌がることを無理強いなんかするなよな! 嫌われてもオレは知らないからな~?」利一、勝ち誇った顔で上から目線の物言い、俺だからしてるんだろうが、他の相手には絶対するなよ。まあしねえだろうけどな。
スミレナさん、笑いをかみ殺してやがる。
「リーチちゃん、これから乙女の純情を踏みにじった輩にきつく折檻するから、隣りの部屋に行ってて欲しいの」
「え? でも」
「リーチちゃんが庇いたい気持ちはわかるわよ。でもリーチちゃんが庇ってたらタクト君のためには決してならないのよ。わかるでしょう?」
「や、……でも」
「それともリーチちゃん自ら折檻したいの? 『乙女の純情を踏みにじった』って、今、アタシが言ったのは覚えてる? もしそうしたいのなら、リーチちゃんは自分が乙女だと言うことを認めることになるけど?」
「ち、違いますよ、オレは乙女じゃありません! オレは今でも自分のことは男だって思ってますから」
「今、ここにいてタクト君を責める資格があるのは乙女だけよ。乙女じゃないのなら、リーチちゃんは席を外して欲しいの。それにね、今回の件で一番傷ついた乙女は誰だと思う?」
「それは……カリィさんです」
「良くわかってるじゃない。だからタクト君の保護者代わりのアタシが被害者であるカリィちゃん立ち会いの元、みっちりお説教するのよ。リーチちゃんはタクト君の親友かも知れないけど、この件に直接関わってるわけではないでしょう? だからアタシに任せて欲しいの」
「わかりました。拓斗が二度と馬鹿な真似を考えないようによく叱ってくださいね」
「大丈夫よ。任せて」
「じゃあオレ、隣の部屋に行ってます」と言いながら、利一は俺のところに来て
「拓斗のバーカ。調子に乗るからこういうことになるんだぞ。良く覚えとけよ」と言い放ったあと小声で「あとで、愚痴ぐらいは聞いてやるよ」と言い残して、客室の外に出た。やがて、隣室のドアが開く音がして……閉まる音が響いた。
スミレナさん、わざわざ外を確認した後、ドアを閉めて鍵をかけた。これで誰も入って来れねえ。
「そういや、リーチは単独で動いてもいいんですか?」と俺が問いかけると
「首輪さえしていれば、隣の部屋へ行くぐらいなら大丈夫よ。さて、それじゃあ話してもらえる?」
俺達は観念してスミレナさんに洗いざらい話すことにした。
「スミレナさん、みてもらいたいことがあるんです。でも決して驚かねえでください」と俺が言うと
「言っとくけど、アタシは大抵のことは驚かないわよ。ま、いいわ。何を見せてくれるというの?」
「アクア」俺はアクアの名前を呼んだ
「……? え? えええ??」大抵のことには動じないと宣言したひとが何に驚いているかはわかる。
「ちょ、ちょっと、これどういうこと?? 何でカリィちゃんのおっぱいがあんなに大きく?」気にするところがそこなんスか、スミレナさん。
変身したカリィ、いやアクアが俺に飛びついてきた。
「お兄ちゃん。呼ばれたからすぐ出てきたよ」
「まあ、待て、アクア。まずはスミレナさんに挨拶だろ」
「スミレナさん、あたしはアクアだよ。タクトお兄ちゃんの妹なの。この身体はカリーシャのものだけど、今はあたしが使わせてもらってるの」
「えと……、あなたはカリィちゃんじゃないの?」
「スミレナさん、それについてはあとで説明しますから、今はちょっと待っててください」
「……わかったわ……って、タクト君。なんで上半身、裸になったの?」俺は上半身に着ていたものをシャツまでも脱いだ。
「スミレナさんに俺の変化が良くわかるようにですよ」そう言ったが、スミレナさんには良くわかってないようだ。まあそうだろうな。
「じゃあ、アクア。俺にお前のおっぱいを見せてくれ」
「いいよ」と言いつつ、アクアが上着をずらすとギガンテス級のなまちちが、もろに見え、その瞬間、息子が鋭敏に反応。すかさず俺の変身が始まった。
ズボンに隠れているが、息子がどんどん小さくなっていく気配がする。やがて、チンコケースが辛うじて引っかかる程度のクリ●リ●に変化すると同時に玉袋も消滅、代わりに股間に女性のあそこが作られていく。見えるわけではないんだが、感触でなんとなくわかるんだ。慣れねえ、というか慣れたくもねえんだが、仕方ねえよな。この時点ではまだ心は『俺』のままだけど、性別はすでに女になっちまってるみてだ。同時に、尻も大きく膨らんでいく。
スミレナさんはまだ俺の変化には気付いてねえな。じと目で俺のほうを見ている。
次の変化は胸だ。胸が内側から押されるようにゆっくり膨らんでいく。それと同時に腰まわりがくびれていく。上半身全体が丸みを帯びていく。まだ心は『俺』のままだ。慣れねえ……慣れたくねえ、この感触。
スミレナさんはようやく俺の変化に気付いたようだ。口に手を当てて驚きの表情を浮かべている。
胸はどんどん膨らんでいく。すでにエリミネーター級に達してるが、まだまだ膨らんでいく……。
変化は手足に及んだ。がっしりとした手足がほっそりとしたものに変化していく。
変化は首に及び、喉仏が消失するとともに、声質が甲高いソプラノに変化する。
まだ心は『俺』のままだ。
「スミレナさん。どうです、俺の声?」
「タクト君、あなた……女の身体に?」
「そうです……慣れねえですけど」俺は苦笑いする。
胸はフェンリル級を超えて、まだ膨張している……。
変化が頭部に来た。短髪がゆっくり伸びていく。髪は伸びながら金色に変わっていく。瞳の色も碧くなり、次いで顔がゆっくりアリサの顔そっくりの女性の顔へと変化していく。俺の心も……女の心へと塗り替えられていく。慣れねえ……けど……しょうが……ない……わよ、わたしは女になってしまったんだもの。
今やわたしは、女性としての感情を持ち、女性として物事を受け止め、そして女性として思考して行動する存在に完全に変わってしまっていた。
変身は最終段階に突入する。
髪はセミロングの長さまで伸びたところで成長を止めたけど、胸はギガンテス級を超えてもまだ膨張を続けている……。
そして、背面の肩・背中の真ん中・腰のすぐ上から6対の翼が伸長していき純白の翼となって背中を彩った。胸はヘカトンケイル級まで膨張したところで、ようやく膨らみが止まった。わたしの変身が完了したのだった。
「スミレナさん、見てください。これが今のわたしです」
わたしはその場でくるりと一回転してみせた。
「えと……タクト君……よね?」
「ええ、その通りよ。心まで女に変わってしまったけど、わたしはタクトです」
「ねえ、その翼、本物?」
「本物ですわ。触って確認してもらってもいいですよ?」
スミレナさんが私の羽に手を触れる
「まるで天使の羽みたい……これって自由に動かせるの?」
「もちろん」
わたしは器用に6対の翼全てを動かしてみせる。
「これってただの飾りというわけじゃないんでしょ?」
「もちろん空も飛べますわ。利一と違って、わたしの場合は高速で飛べるんですよ」
「あと、胸も触っていい?」
「ダメです」わたしは即答して、胸を腕で覆い隠した。
「いいじゃない、減るもんじゃないし?」
「何ていうか、わたしの尊厳が汚されるような気がするんです。だからやめてください」ニッコリと笑顔を浮かべてやんわりと拒絶すると
「……チッ!」舌打ちしたわね!? まったくこのひとは。
「それで? 今のタクト君は……女の子なんだから『君』は変よね、タクトちゃん、うーん? ま、いいわ。今のところはタクトちゃんで。タクトちゃんって、天使なの?」
「いいえ。わたしは飛天魔族であるラクシュミールになってます」
ふむと一言唸ってから、スミレナさんは冷静な顔でこう言った。
「……詳しいいきさつを教えてちょうだい」
「はい」わたしは話し始めた……。
「……なるほど、理解したわ。つまりヘカトンケイル級とギガンテス級のおっぱいをアタシが自由に揉み放題出来るということなのね?」スミレナさんは冷静な口調で、とんでもないことを口にした。
「さっきまでの説明をどう解釈すれば、そのような結論に至るのかわかりませんわ」
「いいじゃない、細かいことは? アタシがかわいい子のおっぱいが好きなのは知ってるわよね?」
「あの、スミレナさん? わたし、確かに完全に女になってますけど、元々は男なんだってわかってます? それなのに、こんな大きなおっぱいを持ってて、気持ち悪いとは思わないんですか?」わたしがそう尋ねると
「もしアタシがそういう人間なら、リーチちゃんのおっぱいが好きになるわけないでしょ?」シレッと言い返される。
「そうですわね……」確かにそういうひとだったわね、スミレナさんは。
「エリコのような女装趣味の変態と違って、タクトちゃんは完全に女になってるじゃない? なんで気持ち悪がる必要があるの?」エリムの女装を強要したのはスミレナさんじゃ? とわたしは思ったけど、余計なことは言わないほうがいいわよね。
「でも、男なのにしゃべり方まで女言葉なんですけど? オカマみたいでしょ?」
「タクトちゃん、オカマは差別用語よ? 例えば普段のフレアさん、男なのに女言葉だけど、タクトちゃんの言い分だとアレも気持ち悪いと言うことになるけど、そういう意味で言ってるの?」スミレナさんがわたしを睨んだ。ダメだ、このひとには勝てない。わたしはあっさり降参した。
「いい? タクトちゃん。自分を卑下しちゃダメよ。こんなに美しくなったんだから、タクトちゃんにも特製メイド服を作ってあげるわ。リーチちゃんと二枚看板で、いいえアクアちゃんと三枚看板でウチのお店のアイドルになってもらいましょう」嬉々として語るスミレナさん。
「あの、スミレナさん? それにはいろいろ問題があるんです」
「……何の?」
わたしは説明した。わたしとアクアはアリサお母様から精気を供給されることで変身後の肉体を維持しているので、お母様から遠く離れるわけにはいかないこと、それにアクアヴァルキリーにしてもあくまでお母様の好意でわたしたちに授けられているに過ぎないので、お母様の意向を無視できないことだ。
「ふーん、じゃ、それはとりあえず保留にしておきましょう」諦めてない……わね。
「ところであたしはどう? スミレナさん。変じゃない?」アクアが言うと
「うん、タクトちゃんがアクアちゃんを妹にしたい気持ちがわかるわ。アクアちゃん、アタシのことも『お姉ちゃん』って呼んでいいわ! さあ、頭を撫でてあげるから、アタシの胸に飛び込んできなさい!」下心満載な笑顔を浮かべてスミレナさんが言うと、アクアはわたしの後ろに隠れてしまった。
「スミレナさん、アクアが怖がってますわ」とわたしが言うと、スミレナさん、小さく舌打ちをした。やっぱりダメだわ、このひと。
「さて、じゃあ今後のことだけど、リーチちゃんにはタクトちゃんとアクアちゃんのことは絶対内緒で、いいわね?」
「はい、わたしもそう思いますわ」「あたしもそう思うよ」アクアも同意した。
わたしが女と男を自由に行き来できる状態であることをリーチが知ったら、羨ましがるどころじゃ済まないわよね。『そんなの不公平だ!』とかなんとか自分の論理を振りかざして、わたしやアクアにお母様への口添えを強引に頼んでくるに違いないわね。私やアクアが断ったところで、今度はお母様のところに行って強引に頼み込むぐらいのことはやりかねないわ、あの子だったら。お母様がその頼みを聞き入れることは有り得ないわ。あの子がそれで諦めるかと言うと……微妙よね? それにお母様が頼みを聞き入れないと知った時、リーチの怒りの矛先はわたしやアクアに向けられるハズよね。そんなことでわたしとリーチの関係が切れてしまったら? それは到底受け入れられないわね……。
わたしは、わたしの推測をスミレナさんとアクアにも伝えた。最後の個人的な事情の部分は省いたわよ、もちろん。
「あと、口が堅くて、あなたたちのようなイレギュラーな存在について詳しそうなパストちゃんにだけは事情を伝えたいと思うけど、いいわね?」
「わたしは構いませんわ」アクアも頷く。
「あと事情を知らない人間の前で変身しないことね。タクトちゃんは男の時、股間が勃っちゃうと勝手に変身しちゃうって言ってたわよね?」
「はい、その通りですわ」
「だったら、ここにいる間はなるべく女の姿でいたほうがいいわ。純白の翼だからペット指定される恐れはないことだし」
「わかりました。出来る限り、このままの姿でいます」
「あたしはどうしたらいいの?」アクアが訊いて来た。
「アクアちゃんは見た目も声もカリィちゃんそのものだから、その場の状況次第ね。でも事情を知らない人間、特にリーチちゃんの前ではカリィちゃんになっててね」スミレナさんが優しく言うと
「わかった。任せて。スミレナ……お姉ちゃん」
アクアに『お姉ちゃん』と呼ばれた瞬間、スミレナさんの心臓の音が響いたような気がした、ドキッと。
「……はあはあ、抜群の破壊力だわ、一瞬、心臓が止まるんじゃないかって思ったわ」スミレナさん、よだれよだれ!
「あとはそうね、タクトちゃんにそのままの姿でいてもらうのなら、呼び名は変えないとよね? うーん」スミレナさんが考え込んでいると、アクアが
「お姉ちゃんの名前? アリサお母様の娘なんだから、アリスはどうかな?」と言った。なんだか心が温まる気がする。アクアの名付け親はわたしで、わたしの名付け親はアクアね。
「そうね。アリスちゃんか、かわいい名前ね」
「わたし、それでいいです。いえ、それがいいです! わたしはアリス……アリスなんだ、そっか」わたしは、うっとりした。
「じゃあ、タクトちゃん改めアリスちゃん、女の時はそう名乗りなさいね」
「わかりましたわ、スミレナさん。アクアもありがとう」
「アリスお姉ちゃん、こちらこそよろしくね」アクアの笑顔、か、かわいい。わたしは思わずアクアを抱きしめた。ギュウっと。
「巨乳美女同士が抱き合ってるのを見ると、何かムラムラしてきちゃうわね」スミレナさんのひと言で……感動の瞬間が台無しだわ。わたしはシブシブ、アクアから身体を離した。
「なんだ、もうやめちゃうの? もっと見ていたかったのに」アナタに見せびらかすためにやってるんじゃないんです。
「あ、それと、アリサさんにアタシを紹介してほしいの? いいわね?」
「……はい」わたしは同意した。お母様に会わせた結果どんな結末になるか見当もつかないけど、会わせなかったら、後悔することになるという確信だけはわたしの中にあった。
「そんなところかしら? じゃあ最後にひとつだけ、アリス、アタシにあなたのおっぱい揉ませてちょうだい!」
「お断りします」わたしは即答で断ったのだった。
6万フィートは1万8千3百メートルぐらいです。酸素マスクがなければ酸欠間違いなし。