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勇者様シリーズ

勇者様は乙女を見守りたい

作者: ちゃとら

お目に留めて頂き、ありがとうございます。

楽しんでいただけたら、幸いです。


「今日は湖の乙女と運命の出会いをはたしてから、記念すべき45日目になるな。そろそろ、乙女から、話かけて貰えれば…いやいや、乙女はそこら辺の香水臭い女たちとは違い、恥ずかしがり屋さんなんだ!まだ、焦るな…今はまだ見守る時、しっかりと、乙女をまもり、恥ずかしがってる可愛らしい顔をこの網膜に焼き付ける時期なんだ!」


勇者の朝は早い。

町のパン屋よりも、朝を告げる鶏よりも、早い。

何故なら、毎日会いたいがために、金にものを言わせて花の宅配を頼んでいる、麗しの乙女の通行経路の点検しなければ、ならないからだ。

万が一、小石などを見逃して、躓き、あのしなやかな足を擦りむいたりしたら、大変だ。

それと、毎朝必要以上に、馴れ馴れしく乙女に挨拶をしてくる魚屋のチャラい息子や、武器屋の親父にも、一言物申すのも忘れない。

何なら、拳で語り合っても良いと思っている。

後はこれも必要以上に、乙女に懐き、あまつさえ、頬を舐めまくるという、大変羨ま…けしからん駄犬に、雌犬をあてがう事も、忘れてはいけない。

これを全て完璧にやり終えて、勇者は、リリアーナの店の近くで、スタンバイする。


私の家へ通う妨げになりそうなものを、全て取り除いているので、安心して、乙女には我が家まで来て欲しい。


「よし、今日も私までの家の整備は完璧だ。なんなら、私の家まで、レッドカーペットをひいてしまいたくなるな。でも、乙女はそういうのは嫌いかな?何せ謙虚だからな…。」


次は、店から我が家までの、警備に当たる。

エスコートでは、ない。

あくまで、警備だ。

本当はエスコートをしたいのだが、お客様にはそんなことをさせられないと、拒否されてしまったのだ。

乙女は自分の仕事に大変誇りを持っているらしい。

さすが、私が愛する乙女である。

なので、彼女の仕事の邪魔にならないように、こっそりと、背後から見守る形をとっている。

完全に殲滅させたので、大丈夫だとおもうが、万が一魔物が現れたら大変だし、なにより、乙女を口説こうとする、男どもを近寄らせたりはしない。

もちろん、これは乙女には内緒にしている。


乙女が店を開け、私の家へ配達をするための花を選んでいる様子を、物陰からこっそりと見守りながら

はじめてリリアーナと出会った時の様子に勇者は思いをはせる。


あの時の私は、世界が平和になり、私のまわりの人々も思いを寄せていた人たちと結ばれはじめ、リアルが充実している人は爆発すればいいと、願っていたな…。

世界が平和なことは幸せだ。

そして、好きな人と結ばれることも幸せなことだ。

独り身の私に見せつけさえしなければ…。

共に生死をかけて、魔王退治の旅に行った仲間が、私を除いて恋人同士だったとか、どういうことだ。

魔法使いの「勇者くん。一人ぼっちで可哀そう。」とかいう言葉が、胸に刺さった。

魔王の一撃より、破壊力があり、危うく天に召されそうになった。

聖女の「勇者様は、いい人ですわ。よくも悪くも。でも、女はいい人だけでは、靡かないものですよ。」との言葉に眩暈がした。

聖女なのに、いい人を推奨しないのは、どうかと思う。

そして、言葉にとげがあるのも、どうかと思う。

戦士は「勇者は、顔は良いのにな。まぁ、贅沢いわず、寄ってくる女食っておけばいいんじゃねーの?」と

下品なことを言ってガハハと笑ってた。

取り合えず、戦士は爆破の呪いをかけるまでもなく、殴っておいた。

会心の一撃が出た。


確かに、私は顔は良い。

黙っていても、女は寄ってきていた。

ただ、私が求めているのは、そういう女じゃないんだ。


笑顔が素敵で、雰囲気が柔らかくて、はにかむ顔が可愛らしくて、動物や精霊に好かれていて、

胸は私の手にすっぽりと収まるか、少し余るかの大きさで、腰からヒップのラインがこう…。


「はいはいはいはい。勇者様ストップです。もういいです。聞き飽きてます。」


自分の好みの女性を語ろうをしていたら、僧侶からストップが入った。

これからがいいところなのに…。

ということで、私は嫁探しの旅に出ることにした。

このまま、王都に居ても、理想の乙女は現れないと思ったのだ。


嫁探しの旅は、魔王退治よりも過酷だった。

訪れる町が、総力を挙げて歓迎してくれ、毎夜毎夜パーティーを開いて娘たちを紹介してくれるからだ。

はっきり言ってうんざりだった。

だから私が求めているのは、そういうんじゃないんだ。

私の好みは、笑顔が素敵で……。


いくつか町を回ったところで、もうやめようかなと思い始めていた時、森に誘われるように入った。

そこで、私は目を疑った。

もろに、好みの、乙女が、精霊と、湖で戯れていた。


精霊に囲まれて、キラキラの笑顔で、はしゃいでいる乙女。

水をかけあって遊んでいるため、すっかりと濡れてしまい、くっきりと体のラインが見えてしまっている。

あの胸は、あの腰のラインは!!

そして、なによりも、私の出現により、恥ずかしがって、ほんのりと顔を赤く染めて、うるうるの瞳で

見上げている表情が!!

何もかもが、私の心をつかんで離さなかった。


思わず、その場で跪き、求婚した。

その日から、乙女を自分のものにすべく、行動を開始することにしたのだ。




どうやら、乙女は今日の配達の花を選び終わったらしい。

大事そうに花束をかかえ、店から出て、歩き始めた。

さぁ、彼女を今日も見守ろう。

私の手の中へ堕ちてくるまで。

私は、勇者だ。

望んだ結果を手に入れるまでは、諦めないのが勇者なのですよ。


好きなものをてんこ盛りにしたかった、この話。

気付いたら、残念な勇者が出来上がりました。

何故だろう。



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― 新着の感想 ―
[一言]  勇者さん…それってスト…いやなんでもありません。  頑張って彼にはアプローチして欲しいですね…はい
[一言] 勇者さま視点、お待ちしていました! 楽しく読ませていただきました。 ありがとうございます。
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