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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
9/19

第9話

第9話 団体戦


 水着の件…騒動から一週間後。

 その件も後日無事片付き、俺たちは区間交流のバド大会に出ることになった。

 今回は先生の付き添いはなく、試合形式は1単2複の混合団体戦。

 俺たちは星藍バド部のメンバーで出場登録をしており、プログラムを本部から5冊もらった。

 ちなみに今日の花乃は少し変装をしている。

 先日の練習試合でのことはやはりまずかったらしく、かといって試合前の握手をしないのはマナー的に許されない。

 ならば変装を、ということで事務所からの許可が下りた。

 赤みがかった髪は真っ黒に染め、眼鏡をかけて髪型もポニーテールから団子にチェンジ。

 事情を知らなければ花乃だとはとても気づかない。

 「はぁーなんか緊張してきたねーマーちゃん」

 「そうか?まあ武者震いするのはわかるが」

 「ねーハッチ、1試合目のオーダーどうするの?」

 「シングルスで俺がいく。1ダブは花乃と弥、2ダブはフーとリリア」

 「最初ルンルンとか。最強の組み合わせだね」

 「でもよーハヅマ、シングルスが得意のその2人を組ませるってのは大丈夫なのか?」

 その、と言いながら弥はフーとリリアを指した。

 「そこはどうやっても避けられないよ。それに何が得意かなんて実際はそんなに意味ないこともある。こいつらは息も合うしなんとかなるさ」

 「じゃあ2試合目もこんな感じにするのか?」

 「2試合目は1試合目の結果を見て判断する。つか今から2試合目の話とは余裕だな」

 「まあな。てか負けたって2試合目はあるだろ」

 「まあそうだが」

 そう、今回はトーナメントではなくリーグ戦。

 4チームで1リーグをした後、上位2チームが本戦出場、そこで6チームでのトーナメントが組まれる。

 そこで全勝したチームが優勝だ。

 既に串焼き屋の予約もしたし、祝勝会になるよう頑張らないとな。

 そして、1試合目のコールが鳴った。


 俺たちの1試合目の相手は大人達のチームだ。

 「あのメンツ見たことあるな、ハヅマ」

 「ああ」

 「え、誰?」

 「フー覚えてないのか?ジュニア時代の大会」

 「あ!みなスポの!」

 「そうそれだ」

 みなスポはジュニアバドミントン界ではかなり有名なジュニアクラブだ。

 『港スポーツ少年団』、港区の大会のほぼ全てを総ナメした強豪。

 都大会での活躍はあまりないが、港区ではかなり恐れられている。

 相手チームはそのコーチ陣営だ。

 ギャラリーではその生徒達と思しきチビッ子達が微笑ましく騒いでいる。

 それを背に不敵な笑みを浮かべ、俺たちは円陣を組んだ。

 「初戦から楽しめそうだ。手加減無用!全力で張っ倒すぞ!!」

「「「「おー!!」」」」

 早口で掛け声とハイタッチを交わし、俺のシングルスから試合が始まった。


 相手はおじいさん、確かみなスポの監督さんだな。

 コーチ引退間際なのか、生徒達がそう言っているようにも聞こえる。

 まあ、だからこそ手は抜かない。

 「ラブオールプレイ!」

 主審の合図とともに試合が始まった。


 最初のラリーは割と長かったが、相手がとった。

 さすがの熟練で、コートの後ろからこちらの後ろまで飛ばすクリアを軽いスナップだけで飛ばしてくる。

 あれならフェイントで飛距離を散らし放題、厄介だな。

 「ファイトー!」

 「まだいけるよー!」

 ベンチからあいつらの声援。

 大丈夫さ、次は取る。

 次のラリーは相手のロングサーブから始まった。

 俺はそれを予期していた。

 相手が打つのと同時に下がり体勢を整え、思いっきりジャンプをしてそのままスマッシュ!

 俺のジャンピングスマッシュはサイドラインギリギリに落ち、こちらに点が入った。

 「ナイスショットー!」

 「いけるいける!」

 またもベンチからあいつらの声援。

 相手はパワーやスピードは落ちているらしいが、長年で鍛えたテクニックが最大の武器だ。

 ならこちらはスピードとパワーで攻める。

 


 シングルスが終了した。

 1セット目は水平に速い球を飛ばすドライブという技を中心に押し切り、2セット目はラケットの面を斜めにあてて飛ばすカットやフェイントを駆使し、結果は大勝利となった。

 「いえーい!」

 「おつかれ!」

 皆とハイタッチを交わしタオルを受け取る。

 

 その後は1ダブの花乃、弥ペアが個人技主体の攻めで制し、1試合目はこちらの勝ちとなった。



 2試合目もサクサク終わり、3試合目。

 「今度は女の人ばっかみたいだな。こりゃいけるかもな」

 「………いや。俺ちょっと挨拶行ってくる」

 「あ、ハヅマ?」

 軽率な発言をする弥に一瞥をくれ、相手のベンチに向かう。

 知り合いがいるのだ。

 「古岡さん」

 「あ!羽銃魔くん!」

 その古岡さんという人は、俺を見てすぐわかったらしい。

 「お久しぶりです。出てたんですね」

 「最近は大人のクラブに入っててね。あ、いやらしい意味じゃないよ?」

 「わかってますよ」

 男子高校生になんつージョークかましてんだ。

 「羽銃魔くんとあたるとは驚いたけど、やるからには容赦しないよ?」

 「する余裕なんてないですよ」

 不敵な笑みを返し、俺は自陣のベンチに戻った。

 「なにハヅマ君、知り合いなの?」

 「ああ。母さんが大学時代、ダブルスのペアを組んでた人だ」

 「え、そうなの?」

 フーが突然訊いてきた。

 「ああ。あの人のプレイなら何度か見てる。シングルスでは母さんには勝てなかったけど…ダブルスではめちゃ強い。あの人はおそらく1ダブで出てくるだろう…フー、シングルス頑張れよ」

 「もちもち!」

 もち、でいいよそこは。

 ともあれ、整列が終わり、シングルスが始まった。


 

 結果は、まさかの敗北。

 この試合初の負けが出た。

 「うー、ごめん」

 「気にすんな。次で取ってくれるよ。なあ弥」

 「おう!」

 次の1ダブは弥と花乃だ。

 そして相手は……予想通り、古岡さん。

 あと……。

 「古岡さんのペアの人にも覚えがあるな」

 「え、またハヅマ君の知り合い?」

 「いや、いつかの社会人大会決勝でプロになる前の母さんと張り合ってた、確か生島さん」

 「そういえばハヅマ君のお母さん、プロだったわね。その人と張り合ってた……」

 これは………うちの最強ダブルスと言えど、大変そうだな。

 「ねえハヅマ君。あの人の得意技とかワタルくんたちに教えたの?」

 「いや、おし…てワタルくん?」

 こいつこないだまで(わたる)のこと八々雲君って呼んでたのに。

 「ああ、ハヅマ君のことをこう呼ぶようになって、ワタルくんとも下の名前で呼ぼうってことになったの」

 まじか………て、あれ?

 なんか、なんだろう。

 2人が近づいて喜ばしいことなのに、何か納得がいかない。

 なんでだ…………?

 「ねえハヅマ君、聞いてる?」

 「あ、ああ悪い。で何だっけ?」

 「ワタルくんたちにあの人たちの得意な攻防とか教えてないんでしょ?大丈夫なの?」

 「ああ、大丈夫。あいつらは最近あのコンビネーションを発揮しきれるほどの相手とできてなかったからな。今回はいい機会だ」

 

 「ラブオールプレイ!」

 主審の声、試合の開始だ。

 花乃がショートサーブを打ち、それを生島さんが後ろへ高く上げた。

 さっそく見れるな………あの人の最大の武器が。

 弥はそれをジャンピングスマッシュし、球はリニアモーターカーを彷彿とさせる速さで古岡さんの胸部めがけて飛んで行く。

 「ナイスショット!」

 早くもリリアは叫んだが、古岡さんはそれを楽々弾いた。

 球は花乃の頭上を越え、弥がスマッシュを打った逆サイドに落ち、相手の先制点となった。

 相手ベンチから歓声。

 そして俺の隣ではリリアが唖然としていた。

 「あの握りであんなに飛ぶの……!?」

 「お前もわかってる通り、胸周辺の球は握りが複雑になって打ちにくくなってしまう。ラケットに正確に当てるだけでもかなり難しいが、古岡さんはそれを正確なコントロールで相手コートに返せる」

 「じゃあ足元や左右でも…?」

 「その辺に飛んできても楽々弾き返せる。つまりあの人はスマッシュレシーブの達人、守備の絶対的要ってわけだ。しかもそれだけじゃないぜ」

 「え?どういう…」

 「ほら、見てな」

 話していると、相手コートに花乃がクリアをした。

 高く上がった球を、今度は生島さんが強烈にスマッシュした。

 球は花乃の腰あたりに飛んできたが、そのあまりの球速にレシーブしきれなかった。

 「あれが向こうのもう1つの武器。生島さんのスマッシュにはパワーはないが、見ての通り速すぎる」

 「女の人であんなに速い球を……!」

 「秘密は握り込みにある。スマッシュってのは打つ瞬間にグリップを思い切り握り込むことでスピードが出る。あの人はそれがハンパないのさ」

 「じゃあ、あの人たちは攻撃も守備も完璧ってこと………!?」

 「完璧ってほどじゃないけどな。ただ……とにかく強い。スキがない」


 結局1セット目は21ー9で取られた。

 「あんなの勝てるの………?」

 「大丈夫さ」

 「え?」

 俺の笑みにリリアは疑問符を浮かべた。

 「ここから見れるぜ。あいつらの真価を」

 

 2セット目が始まった。

 リリアは腑に落ちないといった表情で見ている。

 するとさっそく、弥の頭上に球が上がった。

 弥はスマッシュを古岡さんに打った。

 古岡さんは自慢のレシーブを返した。

 だが、花乃は突っ込んでネット前で跳んでいた。

 プッシュをする気だったんだろう、それが決まれば点は確実にはいる。

 だが、位置が僅かにズレた。

 しかし、それを予期していた弥は備えていた。

 花乃が空ぶると、それをカバーするように低く打ち上げ、生島さんの頭上に到達した。

 スマッシュを打とうにも高度がなく、仕方なくクリアで返すが、その先には花乃が移動していた。

 花乃はクリアで生島さんへ返し、そのスマッシュに備えて通常ではあり得ない斜めのフォーメーションをとった。

 後ろの花乃が失速したスマッシュの球を古岡さんに返し、それより早く弥は古岡さんの真正面のネット前に待機。

 弥の予想通りにネット前に上がった球をプッシュして、点をとった。

 「な、何今の………!?」

 リリアは絶句している。

 そりゃそうだ、今のは事前の打ち合わせもアイコンタクトもなく、常にお互いの動きを予測・把握し、お互いのやりやすさ、それをカバーする最良の手を考えなければできない神業コンビネーションだったのだから。

 「な、すごいだろあの2人。俺の知る限り、コンビネーションだけで言えばあいつらはプロにだって負けない。だからうちの最強コンビなんだよ」

 「……なんか練習中から思ってたけどさ、ノノノんってハヅマ君よりワタルくんと一番打ち解けてる感じするよね」 

 「そりゃそうさ。俺はあいつらとは小3からだが、あの2人は幼稚園の頃からの付き合いだからな」

 「え!そうなの?」

 「まあ付き合いの長さが全てじゃないけどな。でも、俺とフーが一番お互いを理解してるように、あの2人を一番理解してるのはあいつら同士なんだよ」

 

 その試合は、ファイナルまで持ち込んで弥たちが勝利した。

 ファイナルでは延長で28ー26の激戦となり、関係のないギャラリーまで大いに盛り上がった。

 「お疲れー!やったな!」

 「おー!なんとか勝てたー!」

 「ノノノん凄かったじゃない!凄いコンビネーション!」

 「へへへー、でっしょー!」

 「さて、次は俺らの番だな。行くぜ、リリア」

 「うんっ!」

 気合い充分な返事とともに、俺たちはコートに入った。

 今のところ一勝一敗。

 次でチームの勝利が決まる。

 さて、次の相手はどんな人かな?

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