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Forte Vanno  作者: 月神 莉緒
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第8話

第8話 大魔王


 テストが明け、7月も始まって10日は過ぎた。

 俺はあのリリアとの賭け以来、あいつをこう呼ぶようになったのだが、最初の方はどうも慣れなくて桜咲と呼んでしまうことが多々あった。

 しかし最近ではそのミスもなくなり、リリアと呼ぶ時の緊張やむずがゆさもなくなり完全に慣れた。

 そんなある日。

 「は?水着?」

 朝一番でフーから電話が入った。

 『そう!この前なんかおねだりするからねって言ったでしょ?だからさ、今日水着買いに行こうよ!」

 「俺もか?女子はともかく男は水着にそんな凝らないんだが」

 『そーゆーことじゃなくって!フーの水着を選んでってこと!』

 「え?俺が選ぶのか?」

 『だって似合ってるか意見聞きたいもん。とにかくいい?今日の12時にフーの家に来てね』

 「へいへーい」

 そう言って電話を切った。

 また不可解なお願いだ。

 つか、その水着ってのは絶対合宿用のやつだよな。

 あいつは練習で行くってことをわかってんのかねえ。

 ……まあ、少しは遊ぶが。



 昼になった。

 集合時間が12時である理由はわかっていた。

 昼ごはんを一緒に、ということだろう。

 そう思ってフーの家に行くと、案の定ご馳走になった。

 30分ほどで終え、軽く準備をして近くで一番でかいデパートに向かった。

 電車に乗って行くところで、バイクがない不便を嘆きたい。

 適当にダベりながら駅を乗り越し、数分歩いて無事到着。


 だが、到着してからは無事ではなかった。

 悪い意味ではないけどな。

 「リアちゃん!?」

 なんと、水着屋にはリアもいた。

 こいつも水着を買いに来たようだ。

 「あ!ハヅマ君に冬美ちゃん!」

 「偶然だねー!なんでなんで!?」

 フーはリリアに駆け寄ると手を取り合ってはしゃいだ。

 「いや、水着買いに来てて。難航中だけどね」

 「じゃあマーちゃんに選んでもらおうよ!」

 「は!?」

 フーの突然の発言に俺は頓狂な声を上げた。

 「フーも今からマーちゃんに選んでもらうとこだったんだ。ついでだし、いいよねマーちゃん?」

 「いや、幼馴染以外だと俺の意見はアテにならないんじゃ……てかリリアも嫌だろ?男に選ばれるのは」

 そういってリリアの方を向くと、なぜか頬が赤らんでいた。

 「い、いや……やっぱり男の子の意見も聞きたいし、選んでくれると嬉しい……かな」

 ……そんなもじもじされたら嫌なんじゃないかって思えてくるのだが。

 「ほらー、リアちゃんもこう言ってるし、選んであげてよマーちゃん!」

 「んー……でもなぁ………」

 自分でも男のくせにはっきりしないと思う。

 だが、果たして俺の意見は参考になるのかどうか。

 「あのさマーちゃん、水着選んでってお願いしたけど、何人とは言ってないよ?」

 また無茶苦茶な。

 まあ………ここまで来ると断る訳にもいかないか。

 「わかったよ、文句言うんじゃねえぞ?」

 「わかってるわ、ありがとハヅマ君」

 言うとリリアは踵を返して水着屋の中に入り、俺たちも続いた。

 


 「ねぇマーちゃん、これなんかよくない?」

 入るなりフーは近くのマイクロビキニを手に取り突きつけてきた。

 おそらく柄に惹かれたのだろうが、露出が多すぎて俺としてはNGだ。

 「良いかはわからねえがマイクロビキニは露出が多すぎる。個人的にはあまり好まない」

 「んーそっかあ。それは思ったんだけど、この柄は捨てがたいなぁー」

 「…ね、ねえハヅマ君?」

 今度は斜め後ろから俺の袖を引っ張りながらリリアが緊張気味に声をかけてきた。

 「ん?」

 「こ、これなんかどう?」

 おどおどの両手で支えるように持ちながら差し出してきたそれは、ピンク柄のワンピースみたいな、確かタンキニといったか。

 こいつは僅かに童顔で華奢だし、さぞ似合うだろうと何となく思った。

 「タンキニかあ。んー…似合いそうだけど、やっぱり一度着てみないとな。試着してこいよ」

 「あ……うん」

 リリアが奥の試着室に入り、暇になるかと思ったがその予想は見事に潰された。

 とっても悪い意味で。

 「あらお兄さん!彼女の水着選びかしら!」

 多分店員だろう、ネームプレートを首からぶら下げた見るからにうざそうなおばちゃんが声をかけてきた。

 メンドクサそうだが、今リリアが試着中だし離れることはできない。

 「ま、まあ彼女じゃないっすけど」

 適当に挨拶をするが、それを軽く無視して俺の後ろにいるフーを覗き込む。

 「あーら可愛いお嬢さん!貴方にはおそらくあれが似合うわね!ちょっとお待ちあそばせー!」

 高笑いしながらおばちゃんがどこかへ行くと同時に、若い店員さんが後ろから声をかけてきた。

 「すみませんうちの店員が。可愛らしいお客様を見るとどうも反応してしまうらしくて」

 「あ、いえ」

 フーが受け答えをしていると、リリアが入っていた試着室のカーテンが開いた。

 「ど…どう…?」

 もじもじしながらリアが見せた水着姿は、まあ何というか……かなり似合ってる。

 似合ってる、が………。

 「…おぉー、んー…まあまあ、かな?」

 何故かどうもこれだとは決められない。

 確かに似合ってはいるのだが、これならもう少しいいのがあるだろうという気がしてならない。

 曖昧な感想を言っていると、息を切らせながらさっきのおばちゃんが戻ってきた。

 「お嬢さん!これ、ああら!」

 戻ってきた水着を後ろに隠しながら、おばちゃんはリリアを見て叫んだ。

 「こちらにも可愛らしいお嬢さんが!ううー燃えてきた!燃えてきたわー!!お兄さん、申し訳ありませんが少し店内をご徘徊願えませんか?アタクシがお二人に最高に似合う水着を選んでお見せします!」

 「え…?あ、ああはあ……?」

 高らかに声を張るおばちゃんに少し気圧されたか、俺は不安しか覚えないこのオババに一任してしまい、すがるような目と戸惑いの目で見るフーとリリアを後に店内を回り始めた。



 数分後。

 やっぱり女子に似合うやつなんてなー…………つか、男1人で女物の水着見てるなんて変態としか………


 「お兄さーーん!!準備整いましてよーー!!」


 絶対客の迷惑になるはずの大声でおばちゃんは俺を呼んだ。

 この店、ホントよくあんなの雇ってるな。

 試着室前に戻ると、2人の姿はなく、おばちゃんと若い店員だけがいた。

 どうやら2人は試着室の中らしいな。

 「それでは、あ刮目あそばせえぇーー!」

 歌舞伎のような口調でおばちゃんがカーテンを開け、そして俺は━━━━━━そこにいた2人に言葉を奪われた。

 まずはフー………なんと紐ビキニ。

 いや、紐ビキニそのものは普通なのだが、本当に見せたらダメな最後の生命線だけを隠しただけの超極小の布面積。

 先刻のマイクロビキニとは不可比較の露出度を誇っており、その姿には唖然とするしかない。

 「ち、ちょっとマーちゃん!違うからね!?自分で選んだんじゃないからね!?」

 フーは慌てて上下の水着を手と腕で隠したが、隠した部分から水着は全くはみ出して見えず、むしろこちらの方がエロく見える。

 対するリリアはスク水のようなデザインだった。

 ただ、色は学校指定のような濃紺ではなく、真っさらな白。

 「あぅ…ハ、ハヅマ君……こっち…見ないで……/////」

 顔を真っ赤にしてリリアは狼狽えている。

 な、なんか、こいつがこんな風に恥じらってるのはまた…………新鮮だな。

 フーは破壊力がありすぎてとても見られたものではないが、こっちはこっちでマニアックすぎて目のやり場に困らされる。

 「どおーですか!アタクシのセレクトした水着は!すんばらしいでごさいましょー!?」

 なんでこのおばちゃんはこんなにハイテンションなんだ。

 素晴らしいどころか即却下だこんなの。

 「金髪のお嬢さんは小柄な体躯が何よりの武器!白スクを身に纏ったあなたがプールで優しく声をかければそれだけで男たちに一夏の思い出を与えられますことよ!」

 金髪、というとリリアのことだな。

 こんなマニアックな水着の金髪美少女がいたらせいぜい変態を刺激するくらいだとしか思えない。

 「茶髪のお嬢さんは見る男全てを魅了できるたわわな胸をお持ち!ならばそれで浜辺でナンパしまくる男たちを黙らせるのです!」

 茶髪のというとフーのことか。

 胸は確かにまあ平均よりでかいほうらしいが、俺としては幼馴染の大きめの胸が露出している時点で側にいたくなくなる。

 ていうか……もう、外に出ていたい。

 「あのー、大丈夫ですか?」

 無意識に片手を顔に当て沈んだ表情をした俺に、若い店員さんが小声で問いかけてきた。

 「あ、ああまあ……とにかく今日中には水着欲しいけど、この様子じゃなあ………」

 俺も小声で返すと、

 「では、あの店員のシフトが14時までなので、それからまたお越し下さるというのはどうですか?」

 「わかりました。ありがとうございます」

 小声でお礼を言い、2人に向き直る。

 「じゃあお前ら、とりあえず着替えろ。もうすぐ集合時間だし」

 集合することなど何もない、これは作り話だが、アイコンタクトを飛ばして話を合わせるよう伝える。

 「そ、そうね。じゃあとりあえず着替えるわ」

 言うと2人はカーテンを閉めた。

 「あんらー残念だわぁー。お兄さん、またお暇ができましたらばどうぞお越しくださいまーせー!」

 「あ、はぁ、了解っす」

 苦い相槌をうち、2人が出てきたところで店を出て、とりあえずフードコートへ向かった。


 **********************


 「はぁー、それにしてもテンション高い人だったねー」

 俺たちは今フードコートで、俺はアイスココア、フーとリリアはクレープを購買し、席に腰をかけると途端にフーがぼやいた。

 「ああ、あのテンションでこっちの強引に押し切ろうとする心も折ってくる。厄介なおばちゃんだ」

 「でもどうするの?明日からまた練習だし、今日中には水着を手に入れたいのに」

 そう、今日は練習がオフのため3人ともこうして買い物に来れたが、明日からはそうはいかない。

 「あのおばちゃんのシフトが2時までらしい。そしたらまた行こう」

 「そうなんだ。了解」

 言うとリリアはクレープにかぶりついた。

 フーもそれに習いかぶりつく。

 「あ、それとマーちゃん、さっき見たものは速やかに忘れること。わかった?」

 「心配しなくてもだ」

 「そういえばさ、ハヅマ君は水着買わないの?」

 「俺はいいよ。サイズ丁度のが家にあるし」

 「ふぅーん。なんかさー、男の子ってあんまり水着に拘らないのね」

 「男が気にするようなことでもないしな。サイズが合ってひどすぎなければ何だっていいんだよ」

 「つまんないなー。じゃあマーちゃんは今日は何も買わないの?」

 「そーだなー。夏服で新しいのは買ってこっかな。そろそろ中学時代のやつじゃキツいし」

 「成長期だもんねー。ハヅマ君今身長何センチ?」

 「今はわかんねえけど、春の身体測定では175だった」

 「うわ。やっぱり高いわねー。2年生になる頃には180とかだったりして」

 「それはねえだろ」

 「でも180いったらバドミントンではすごい武器だよね。スマッシュも落差つくし」

 「確かになぁ。あ、そうだ。どうせなら俺2時まで服買いに行っていいか?」

 「そだね、いいよ。フー達もついてっていい?」

 「まーいいけど。メンズの店しか回らねえぞ?」

 「レデイースと一緒に売ってるとこもあるよ。回りながらウィンドウショッピングもできるし」

 「そだな」


 その後、クレープとココアを腹に入れ、服屋を見て回った。

 「ハヅマはどんなものをお求めな感じ?」

 「とりあえず上から下まで一式揃えよっかな。おっいいの発見」

 俺は手に取った黒のテンガロンハットに、青のテイラード、黄色のTシャツ、ベージュのチノパン、革のネックレスを合わせて試着してみた。

 「どうよ」

 「おおー!似合ってる似合ってる!」

 フーは小さく拍手しながら歓声をあげた。

 「うん。まあまあかな。また回るが」

 その後も色々試着をしていると、

 「あ、マーちゃん。もうすぐ2時だよ」

 「もうか。んじゃこの店を適当に見たら行くか」



 数分後、さっきの水着店。

 一応外からさっきのおばちゃんがいないか見たが、どうやら大丈夫そうだ。

 そうして入り、さっきの若い店員さんと目があった。

 「あ、お客様。さきほどは失礼を」

 「ああいえいえ。まあまた見て回るんで」

 「はい、ごゆっくりどうぞ」

 深々とお辞儀をして、その店員さんは奥へ行った。

 「さて、どれがいいか……」

 「あ!フーこれがいい!」

 そういってフーが手に取ったのは、黒い三角ビキニだった。

 「んー、ちょーっと背伸びしすぎじゃねえか?」

 「そんなことないよー」

 「冬美ちゃんってどんなのが似合うかなー」

 「んー…やっぱり水色かなぁ。あと白が入ってるやつがいい。イメージカラー的に」

 フーは茶髪だが、『冬』という字が名前に入っているため、幼い頃から徐々についたこいつのイメージカラーは水色なのだ。

 まあ俺的にだが。

 「じゃあ、こんなのは?」

 「いや、チュアンピマサイは個人的に夏のイメージが強い。白と水色のボーダービキニとか」

 「……なんか、さっきも思ったけど水着の名前に詳しいわね、ハヅマ君」

 「あー、依頼元の芸能プロに何回か入って水着着る仕事とかも見たし、今回のpvはこの水着でいくので、とかいう依頼も何回かあったしなぁ」

 「?何回かって作曲の仕事いつからやってるの?」

 「中3から。ただ俺中学ん時に、花乃のアイドルとしての規制を学校でちゃんと見張ってて、みたいなことで事務所に協力してたから、結構前から事務所には出入りしてたんだ」

 「へぇー、そうなんだ。そういえばノノノんは今日仕事?」

 「いや、弥と映画」

 「あー、いーなー映画。最近リリ行ってないなー」

 「そういや俺もだなー。おっフー、これなんかどうだ?」

 そういって手に取ったのは、お目当の白と水色のボーダービキニだ。

 「もう少し水色が薄いほうがよかったけど、俺の今んとこのイチオシはこれだ」

 「わぁー!ありがとう!」

 そんなに嬉しいか。

 まあ…俺も悪くない気分だな。

 「ねえ、ハヅマ君。リリのイメージカラーってなんだと思う?」

 「ん?んー……」

 金髪だし黄色かな?

 いや髪色で決めていいものなのか?

 黄緑……んー明るい色が似合いそうだが………。

 「……わかんねえなぁ。とにかく明るい色が似合いそうだが」

 「明るい色かー……じゃあさ、こ、こんなのは?」

 リリアはぎこちない手つきでピンクのワンピースを指差した。

 「あー、ピンクかぁー………似合いそうだけど、なーんかピンと来ねえなあ」

 「じゃあ、こんなとか」

 「んー……それもイマイチなんか………」

 なんだろう。

 こいつが指す水着はセンスがよく、どれもリリアには似合いそうなのにどれも納得いかない。

 「なんか、こんなに優柔不断なマーちゃん初めて」

 「全くだ………よし、とりあえず似合いそうなの厳選して、全部着てみようぜ」

 「「ええ!?全部!?」」

 「あくまで厳選してだ。5着くらいに絞ればいい。とにかく一回店をぐるっと回ろう」

 その後、店を一周して7着に絞りこみ全部試着してみた。

 だが、どれも似合ってて可愛いのに、なぜかこれというのが見つからない。

 結局7着オール却下でさらに3着試着したが同じ結果に終わった。

 「えー?これもダメー?」

 フーもほとほと呆れた様子でため息をついた。

 「すまん、なんかこれといったのが……やっぱり俺に意見を求めるのは無理があるんじゃないか?似合うはずのものもよく見えないのは、俺にセンスがないからだろ」

 はっきり言ってここまで来て引き下がりたくないが、こんな調子だとずっと終わらない気がしてきた。

 が。

 「ううん…それでも…」

 「ん?」

 リアは少しもじもじすると、顔を上げた。

 「それでも、ハヅマ君に選んでほしい……かな…」

 ……なぜ?と言いたい。

 これ以上俺に選ばせて何のメリットがあるんだか。

 「あ、いやほら!ここまで一生懸命意見くれたんだから、ここでやっぱりいいっていうのがなんか嫌で!それだけ!」

 ……本当によくわからん。

 が………。

 「わかったよ。でもこの店にいいのはなかったし、また明日にしよう。練習は午前だし、おわったら2人で買いに行こうぜ」

 「………うんっ」

 

 その日はとりあえず解散となり、俺は帰って明日行ける近場の水着店を洗い尽くしたのだった。

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